プロローグ2
「サーラ様、お降りください。」
「ありがとう………。」
魔導列車の扉が開くと、途端に吹雪が吹き込んできました。
他の客車からも大勢の人間が降りています。
「どいたぁ!!どいたぁ!!」
そんな人達を押しのけて、軍の正装に身を包む男たちがやってきます。
「サーラ様、私は今後ここでの滞在中護衛を務めさせていただくハインツ中尉と申します!車はもう準備しておりますのでお乗りください!!」
真っ白な世界を、真っ黒な車が駆け抜けていく。
「これでも、峡谷の方と比べたらだいぶマシです、あそこなんて、屈強な男の背ほども積もって通行なんて及びもよりませんっ。」
「………。」
軍の駐屯地はテントからいよいよ簡易的な住宅に姿を変え、長期的な駐屯をじさない覚悟でした。
通行証を見せ、中を走ると無数の兵隊がこちらをみやります。
なかには怪我をした人も。
「サーラ様がきしだい元帥閣下のもとにお連れしろとの命令が下っているのですが、構いませんか。」
「ええ、構いません。」
「お待ちしていましたぞ。」
5万人の軍隊、それは帝国陸軍40万のうち8分の1の大部隊である。
当然のこととして、それを指揮する人間はそれなり、いやかなり上位の人間でなくてはならない。
「当地のご感想はいかがですかな?えぇ、寒いものですよ、あんなテントでは吹雪を防げないゆえ工兵を使い大急ぎで住居を建設しました、本当はこんなことになる前に首を持って凱旋するはずだったんですがねぇ。」
「………。」
「山脈には未だに凶悪な魔物が多く住み着いておりますし、困ったものです、堅壁清野って知ってますか、周りの村を焼いて、自軍は城に立て籠もる戦術です、補給はできず、敵の城は落とせない、こことの違いなんて、最初から何もないことくらいですよ………会合は一週間後を予定しております、それまでの身辺のお世話は軍が責任を持ってやらせて頂きます、ついてきてください。」
そうして私は部屋に通され、ついにのんびりと羽を休める場所を見つけました。
聖女とは、我ながら大変な仕事です、教会のためにここのような秘境にも足を運ぶ必要があります、普通の人なら、まず何週間もかけて5000km先の土地に足を運ぶことなんて恐らく有り得ないでしょうし、それがどれほど大変なことなのか、その奥の奥までわかっていただける人はいないでしょう。
「………ねぇ、見てるかな………見てる訳なんて、ないわよね…………。」
「本当に、構わないんですかっ!!?」
「ええ、私は、あるきでも構いませんわ、ほら、こういうときの為に、装備もちゃんと持ってきてますわ。」
「………ははは、聖女なのに、面白いお人ですね、サーラ様は。」
ハインツはそう言って苦笑いする。
帝国軍の努力にもかかわらず、峡谷には結局歩きで行かざる負えなかった。
でも、それでも構わない。
「おい、お前ら、もしもサーラ様に傷1つでもつけたら、神が許しても俺と元帥閣下が死んでも許さないと思え!!」
そう言うと周りの人間もオウッ!!と叫ぶ。
ハインツは雪が男の背ほども高く積もったと言いましたが、実際はもっともっと積もっていました。
それでも、私達は必死になってあるき続けます。
「!!!狼だっ!!魔物の狼だっ!!」
「なにっ!!」
ある兵士は剣を、ある兵士はライフルを取り出しました。
「こっちに向かってきているぞっ!!」
「撃てぇっ!!」
生き物は、魂の強さによって能力を飛躍的に上昇させます、厳しい訓練を受けた人間ほど魂の強度は高くなります。
強い魂により体を強化された熟練の兵士ならば、狼など本来片手で捻れてしまう相手です。
しかし、魂の強度で強さが変わるのは人のみに留まりません、鯨から目に見えない微生物まですべてが魂に影響されるのです。
その狼は、体が明らかに肥大化し、それでいて凄まじい速度でかけるのです、あのような獣を人は魔物といいます。
パァン………パァン………。
そう風船が破裂したかのような音が響いていきます。
しかし、狼はそれを交わして、兵士の一人に踊りかかりました。
「あ、ァァァァァアアア!!!??」
「まちなさいっ!!!」
とっさに飛び出した私を他の兵士は止めようとします、しかし私は構わず狼に飛びつき、引き剥がしました。
「グルルルルル!!!!」
「やめて………やめなさい…………。」
「な、何だあれはっ!!」
きっと周りは驚いているのでしょう、そう思いながら私はその狼の顔を撫でてあげます…………。
「………いい子ね。」
「凶暴性が増大した………魔物が懐いた………!!?」
狼は本来もっと賢い生き物です、やたらめったら突進するようなものではありません。
しかし、魂の強度の高い獣は、大抵の場合凶暴性を増すこととなります、それが魔物が人々から害獣扱いされる理由です。
「ねぇ、ハインツさん。」
「はぁ………なんでしょうか。」
「この子、私についてきたいって言っているんだけど、いいかしら?」
「へぁっ!?」
「安心して、もう、いい子になったから、ね?そうでしょう?」
そう言うと、狼はコクコク頷いてくれました。
「俺は気に入らないっすよ、見てくださいよこの噛まれた痕、一生もんっすよ!」
「まぁそういうなクリス、サーラ様がお力を行使しなければそんなことじゃ済まないぞ。」
聖人、聖女とまで呼ばれる域に達した人間は、奇跡と呼ばれる力を得る。
魔法とはまるで違う神の力で、大豊作を引き起こしたり、城の城壁よりも頑丈な結界を生み出したり、死者おも蘇生させる強大な回復能力を行使したりできる。
そして、サーラ様の能力は。
「すべての生き物の悪意を浄化する能力か………。」
「あぁ、そうだ。」
それが、サーラ様の能力だ、他の聖人、聖女よりあまり役に立てる能力では無いかもしれないが、それでも彼女は聖女となり、世界を回っていった。
様々な慈善活動でその顔を出し、今ではその頑張りと人柄が一定の評価を得ていたのだ。
吹雪は、夕方に入りより一層強くなっていく。
「………隊長、中にお入りください。」
「………うん?あぁ、そうか、そうだな。」
「まっていても無駄です、吹雪が酷すぎます、彼らが会合をしようとしても、こんな中来れるわけがない。」
「ああ、そうだろう、だが、もしもこの吹雪の中を抜けようとしているなら、やってきたとき、俺が直々に出迎えなければ面目が立たないじゃないか、どうせ俺は暇だ、もう少し待たせてもらっても……………!?」
「………有り得ない………。」
遠くから、灯りが、それと旗が見えた。
それはアルミハ教の旗であり、城に使者を招き入れるための合図出会った。
「いってくるよっ、ついてこい!!」
「はっ、はい!!」
「こちらへおこしください!!おい!!お前!!城門を開けろっ!!」
ガラガラと開く城門に私達は逃げるように入っていきます。
「うわぁっ!!?なんだこいつはぁ!!?」
「ちょい、聖女様、どうしますこの狼野郎!?」
「ハル!!寒いけど遠くで待ってて!!」
そう私が言うと、狼………ハルは遠くへ去っていきます。
「さあ、こちらです、ようこそおいでくださいました。」
「あぁ、暖けえ………最高だ………。」
そう雪まみれになったハインツ中尉は思わず漏らす。
「今日は用意したお部屋にお入りください、もう夜も遅いし、お疲れのようですので。」
「はい………ところで、あなたは?」
「私はリッテン・シュリーベルト、反乱軍の司令官を務める男ですよ。」
「………!それは失礼いたしました。」
「いやいや、別にいいのです、聖女様にそう謝られても困りますよ。」
「どうですか、お体の調子は。」
「だいぶ疲れも取れました、ここへは大体3日ほど滞在できるかと思います。」
「それはいい、十分な時間でしょう、さぁ、朝食を食べながら話そうじゃないですか。」
リッテン・シュリーベルトは無精髭を生やし、全体的にどこかきだるげな雰囲気を出しているが、その様子とは裏腹にとても明るく、快活な口調で話す40代の男でした。
「………美味しいですね。」
「今のところ、我々が出せる最大限の料理です、第三帝国領内の食材を使い、ここら一帯の郷土料理を出しました、出来もしない高級料理を作るより、全く食べたことのない異国の料理に舌鼓を打ってもらったほうがよろしいかなぁと思いまして、あぁ、調理法もアルミハ教の教えにのっとって作っておりますので問題はありませんよ。」
「はい………。」
「では、朝食を食べながら軽く、私達がなぜ教会と接触を図っているのか説明しましょう、我々は、我々の領内にいて、現在戦乱で過酷な立場に置かれているアルミハ教の人間をそちらに保護したいただきたい。」