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詐欺師をムリヤリ勇者にしてもロクなことにはなりませんよ?  作者: 桂英地
一章 詐欺師をムリヤリ勇者にしてもロクなことにはならない。
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チートスキルを試してみました。

 

「ぎゃあああああっ!?」

「た、助けっ……!」

「うあああぁぁああっ!?」

 

おー、阿鼻叫喚だなー。

 

日が暮れる間際、領都に近い方の旧道出入り口の森の前。

森の中から響き渡る悲鳴を聞きながら俺は一人笑っていた。

 

エスティはなんとか説得して領都に残ってもらった。

多分正解だ。

こんな顔見られたら何を言われるやら。

 

俺が指示した通り、森の中には罠が満載。

先回りして罠にハメやすいよう誘導するための偽装を仕掛けている。

森の中の魔物や獣には、隠蔽ステルスで姿を消してじっくりちょっかいをかけておいた。

怒りの矛先は全てグリントレットの兵達に向けられているだろう。

隊長があれでは統率など不可能だ。

 

後はただただ崩れていくだけだろうなー。

それでも、彼だけはここを抜けてくるかもしれない。

そうならないに越した事はないが、もしものために俺はここで待っていた。

 

そして、それは現実になった。

素直に賞賛を送りたい気分だ。

 

「やぁ、お疲れ様でした。ここを抜けるなんて流石ですねー」

「……あ……ああ……」

 

そんな悪魔を見るような目をしないでもwww

 

槍を杖代わりに満身創痍の様相でなんとか森を抜けてきた零王は絶望に満ちた表情でこちらを見ていた。

 

ああ、こんな隊長に付き合わされた兵達が気の毒だ。

まぁ彼がこうなるように画策したのは俺なんだけどね。

 

「……クフ……クフフフ……!」

 

いけない、いけない。

笑いが込み上げてしまう。

 

ああ、そうだ、その顔だよ。

何回、何十回、何百回見ただろう?

 

……その顔が見たくて、俺は細い綱を渡るんだ……

 

「……お、前は……お前だけはっ!」

 

きっとひどい笑顔を見せていたんだろう。

怯えを含んだ怒りの表情で勇者は槍を構えた。

 

「すみません、ついつい。一応降伏勧告はしておきます。判断は……これを見て決めてください」

 

そう言って俺は自身のステータスを零王に開示する。

それを見て、彼は唖然となった後で半笑いになっていた。

 

 

《アッシュ=ダスト》 男・24歳

 職業=偽勇者(詐欺師)

 

体力=神の領域  筋力=神の領域  素早さ=神の領域  運=天運  魔力=神の領域  知力=ダメな方向には異常に良い

 

スキル=詐術 偽称 偽装 偽造 隠蔽 改竄 看破

特殊スキル=《物騙り(ブックメーカー)》 《物理完全無効》 《魔法完全無効》 《不老不死》 《神殺し》

 

 

「……ふ……ざける……なよ……」

「信じられないでしょうね。ですが、嘘ではありません」

 

と言った所で信じる者などいないだろう。

そんな事は分かりきっている。

だから静かに彼が動くのを待つ。

 

「ふざけるなぁぁぁぁっ!この大嘘つきがぁぁぁぁっ!!!」

 

怒号とともに雷の如き速さで穂先が俺の喉元に迫る。

ただため息をつき、俺は微動だにせずそれを受けた。

 

パリンッ!と呆気ない音を立てて槍は砕け散る。

 

「………………は?」

「まぁ今更こんな事言っても絶対信じてもらえないでしょうけどね……俺は貴方の事嫌いではないですよ。だから……」

 

言いながら俺は右手を彼の胸元に近づける。

そして、これだけは嘘偽りなく告げると同時に彼の鎧をデコピンで弾いた。

 

「死なないでくださいね」

 

 

………………………………………はい?

 

詐欺師にデコピンで弾かれた勇者が木々をなぎ倒しながら森の中を突き抜けていく。

 

そんな光景をモニター越しに眺めながら、私はただただ口を開いていた。

 

……いやいやいやいやいや……なにこれ?CG?

 

詐欺師のステータスは私にも見えていた。

けど、あり得るわけがない。

 

ほとんどの能力が『神の領域』?

《物理完全無効》《魔法完全無効》《不老不死》などのスキルは完全に神のスキルだ。

ましてや《神殺し》って……人間に与えられるわけないじゃない、そんなスキル……

天界が終わっちゃうよ?

 

そんな状態だったから、私はまたヤツの接近に気がつけなかった。

 

「おーい、いい加減起きてくれませんかー?」

「うおぉぉぉぉぉいっ!?」

 

突如現実に引き戻された私は、1~2mくらい飛び上がって椅子から転げ落ちた。

ヨロヨロと机にすがりついて立ち上がると、クロケルがゴミを見るような目で私を見下している。

 

うん、色々言いたい事はあるだろうし、それは私にもあるよ?

でもゴメンね。ちょっと今は現実が受け止められないの。

 

「ノックはしましたよ。おいババア、とも言いました。もう少し起きるのが遅かったら油性マジックで額に『肉』って書く気でもいました」

「うん、OK。いつか拳で語り合いたいと思うけど……とりあえず何の用かしらぁ?」

 

嫌な予感がする。つーか嫌な予感しかしないっ!

女神の微笑みで聞くと、クソガキは親指で外の方を指した。

 

最上位神(社長)がお呼びです。今すぐ来い、と。何やったんですか?世界を滅ぼすレベルの天変地異起こしそうなくらい怒ってるらしいですよ?」

「…………終わった………マジ終わった……」

 

さようならエリート街道……つーか私、生きていられるの……?

 

 

「無茶苦茶もいいところだなー……」

 

モーゼの伝説の如く割れた森を眺めながら、俺は頭を掻いた。

まぁ今の俺なら彼を生き返らせる事も出来るのだが。

スキルに《死者蘇生》を追加すればいいだけだ。

 

物騙り(ブックメーカー)》の能力を見た時、俺がまず思いついたのは『ステータスをリアルにいじれるんじゃね?』だ。

 

改竄や偽装でステータス表示を変化させても、それはそう見えるというだけの話で能力は変化しない。

だが、《物騙り(ブックメーカー)》の力でステータス自体を騙したらどうなる?

 

そう考えた俺は、ステータス表示機能にこういう能力を付与してみた。

 

『ステータスに表示される能力は全て現実に作用する』

 

結果はご覧の通りである。

まぁ冗談半分だったので、流石に俺もはじめは驚いたが。

 

今の俺はステータスをいじれば何にでもなれるのだ。

それこそ職業を《神》としたら神にでもなれるだろう。

遊びで《神殺し》をつけてみたが、恐らく冗談では済まない。

あの女神も今なら()れてしまうだろうなー……

 

「……この力はダメなヤツだなー……」

 

もう一度頭を掻いて俺は歩き出す。

とりあえず零王を回収して、生き残りの兵達を捕まえて……

 

ああ、そろそろ寝たいな……

 

月明かりの下で俺は大きな欠伸を漏らしていた。

 

天界で大激震が走っているとは露知らず。



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