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詐欺師をムリヤリ勇者にしてもロクなことにはなりませんよ?  作者: 桂英地
一章 詐欺師をムリヤリ勇者にしてもロクなことにはならない。
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脳筋勇者、ハメてみました。

 

ハッキリ言えば、脱出するだけならいつでも出来た。

 

スキル化した俺の詐術はもはや催眠術を越える域だし、偽装のスキルはほぼ幻術だ。

隠蔽スキルは高性能ステルスにもなるしね。

 

この馬車も、俺達が兵士に見えるよう偽装して「緊急の伝令がある」と番兵を騙して奪ったものだ。

 

別荘にいた味方の兵士や使用人までは連れてこれなかったが、まぁ虐殺されたりはしないだろう。

元日本人である零王の価値観ではそんな命令は出来ないだろうし。

 

「あちらの勇者が見ているという姫様と私というのは、ただの幻なのか?」

「いや、生身の人間に偽装掛けさせてもらったよ。妄想だけの存在だと、流石に違和感覚えて我に返るかもしれないから」

「えっ!?じゃあまさか、侍従の誰かを私達の身代わりにっ!?」

 

俺とエスティのやり取りに、リリアナはハッとなって口元を押さえる。

 

けど、それは無用の心配ですよー、姫様。

 

込み上げる笑い声を必死に押し殺しながら、俺は薄暗がりでも分かるよう大きめに手を振った。

 

「違うよ。あれはですねー……うへっ!」

 

あーダメだwww 耐えられねーwww

 

癖になってる下卑た笑い声。

引いているだろう二人に俺は笑いながら真実を伝える。

 

「あれは……彼を熱い眼差しで見てた、そのケがありそうな騎士隊の兵士を……あれこれ唆してっ……うへへっ!」

「はぁぁぁっ!?き、貴様っ!?なんて事をっ!」

「は、はわわわわっ!?で、では!あの方達は……その……殿方同士で……はわわわわっ!?」

 

も、もう無理っ!!!

 

堪えきれずに俺は腹を抱えて荷台を転げ回る。

お耽美な妄想にキャーキャー叫ぶリリアナと、俺のゲスさにギャーギャー叫ぶエスティ。

 

しばらくの間騒ぎは続き、ようやく治まった頃には全員肩で息をしていた。

あー楽しいwww

 

荒い息を整えながら、お堅い女騎士様が不貞腐れたように呻く。

 

「そ、そこまでやる必要があったのか……?」

「まぁ一応ね。仮にも勇者様なわけだし、偽装で逃げ出しただけならすぐに追いかけられたかもしれないでしょ?色々夢中になってる今の状態なら、朝までは確実に時間稼げるから」

「な、なるほどな……」

 

俺の説明に渋々といった風に納得するエスティ。

でも、俺は遠慮なくキミをイジるよ?

 

「という言い訳でどう?」

「やはり貴様っ!遊んでるだけじゃないかっ!?」

「うぇっへっへっへ」

「……ロクな死に方しないぞ、貴様……」

「それはもう実証済みだねー」

「ゆ、勇者様……?」

 

馬鹿な話を繰り広げながら馬車はガタゴト進む。

なんとも賑やかな逃避行だった。

 

 

「……私はエスティ=アレハンドロだ……」

「ん?」

 

大騒ぎが一段落して、不意に静かになった頃にエスティがポツリと自らの名を名乗った。

こちらを一切見ないままだが。

 

「聞いているのだろうが、名乗っておくべきだと思ってな。それと……到底納得出来る形ではないが……姫様を助けていただいて感謝する」

 

「わ、私も!申し遅れました。ライカース領領主、グレンの娘でリリアナ=ライカースと申します。無理な召喚にも関わらず助けてくださり、心より感謝いたします」

 

「あー……いえいえ……」

 

正直、ただ遊んでただけなんだけど……

こんな風に礼を言われるのは本当に苦手だ……

 

だが深々と頭を下げる姫君を無下にも出来ず、俺も名乗る事にした。

 

「ご丁寧にどうも。俺は灰……」

 

と、そこで俺はふと思う。

 

それなりに愛着もあるとはいえ《灰色 小人》も所詮は偽名だ。

一度目の人生が終わって違う世界に来てまで、まだ使わねばならないものなのか?

 

そう考えると、俺は自然とステータスを開いて自分の名前を消していた。

 

「ど、どうかしましたか?」

「俺には元々名前がないんだ。だから、新しい名前を今決めた。俺の名前は……」

 

言いながら新しい名前を書き込む。

今度は(偽名)は無しにした。

 

「うん。俺はアッシュだ。アッシュ=ダストと名乗るとするよ。よろしくね」

 

不思議そうな顔をする二人に微笑みかける。

 

一度目の人生の残り物、《燃えカス(アッシュダスト)

 

うん、俺らしい名前じゃないか。

 

 

あの詐欺師はちゃんと仕事してるかしら?

 

気になって地上の様子をモニターで確認していた私は、彼自身の動向ではなく彼の引き起こした惨劇に目を奪われていた。

 

「うほっ!うほほっ!?そんなことまでっ!」

 

めくるめく薔薇の世界に、私は執務室の机の上で思わず拳を握り締める。

 

いやー!たまりませんなー!

 

……って!そうじゃなくて!

アイツなにやっちゃってんの!?

 

……でももうちょっとだけ……

 

「……なにやってんですかー?クランプス様」

「…………へっ?」

 

夢中になっていると急に声をかけられ、我に返る。

ゆっくり顔を上げると、机の向こうには下位女神(部下)のクロケルが蔑んだ目でこちらを見ていた。

 

シンとなった執務室の中━━

 

『んほぉぉぉぉぉぉっ!!』

『ら、らめぇぇぇぇぇっ!?』

 

という男の野太い声だけが高らかに響き渡る……

 

机ごと叩き潰す勢いでモニターを消し去り、私は「ふぅ……」と一息吐いて机の上で手を組んだ。

 

……冷静に……冷静に……

 

「……入ってくる時はノックをしなさいといつも言っているでしょう?」

「しましたよー。メッチャしましたよー。最後の方なんかヤクザの取り立てレベルでしたよー。ってか、手ぇめっちゃ震えてますけど」

 

……貧乳(こむすめ)がっ……!

 

瞬間的に多種多様な完全犯罪の方法を考えながら、私はとりあえず用件を聞くことにした。

 

「それで、なにか用かしら?」

上位神(部長)からのお小言ですよ。あの詐欺師勇者の件です。やっちゃったもんは仕方ないからさっさと書類まとめて出せ、だそうですよー」

「そのことか。今やってる所よ」

「いや、メッチャ腐ってたじゃないですかー」

「ぐぎぎっ……!」

 

何故わざわざコイツを寄越した?

嫌がらせ?嫌がらせなの?

 

わざとらしくため息をついてから、用件を伝え終えた貧乳(クソガキ)は踵を返した。

 

「じゃ、私はこれで。……腐ってるのは性根だけじゃなかったかー……」

「おい?今なんつった?」

「空耳ですぅ。では、ごきげんよう」

「うぎぎぎ……!」

 

〇〇〇(言語化不能)が退室した後、私は拳で机を叩いた。

今日は厄日に違いない。

 

大きく深呼吸してから全てを諦め、あの詐欺師の履歴書に目を落とす。

 

身体能力に特筆すべき部分は一切ない。

本来なら勇者に選出される事など絶対ない人間だ。

これなら良くも悪くも地上にはなんの影響も与えないだろう。

 

しかし……スキルが怖いなー……

現にあの通り、格上の勇者が弄ばれてしまっている。

 

そして、いまいち得体の知れない特殊スキル《物騙り(ブックメーカー)

その能力は『任意の対象を騙して能力付与』というものだった。

 

鉄の剣を「お前は炎の魔剣だ」って騙したら本当に炎属性付いちゃうってこと?

とんでもないっちゃとんでもない能力だけども……

 

まぁここで考えてても答えは出ない。

私はそう切り替えて提出書類をさっさと処理した。

 

今出来るのは経過観察くらいだ。

私は自身に言い聞かせて再びモニターを開いた。

 

「……うひっ!うひひっ!っはーっ!そうくるっ!?」


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