詐欺師は異世界に召喚されても詐欺師です。
「ひ、姫様!成功です!勇者様がっ!」
「ああっ!女神さまっ!私の願いを聞き届けてくださったのですねっ!」
やたら品のいい感じの薄暗い部屋の中、二人の女が感極まった歓声を上げた。
姫様と呼ばれたのはフワリとした金髪の、身なりの良い少女。
姫様と呼んだのは凛々しい感じの赤髪の女騎士。
ややぼんやりする意識に喝を入れ、俺はまず頭に叩き込まれた基礎知識に従って自分の状態を確認することにした。
「《神の恩寵》オープン」
おー、出た。あのタブレット画面みたいなヤツ。
「あ、あの……勇者様……?」
「勇者様っ!?今はそのようなことをなさっている場合ではっ!」
何か言っている二人を無視してステータスを確認する。
そこに記された情報に俺は苦笑した。
やはり俺は俺のようだな。
「え、えーと……勇者、様?ですよね?」
「いやー、申し訳ないけどお二方。ハズレ引かされたみたいだよ。ステータス開示」
そう言って俺は二人に自身のステータス画面を見せる。
それをまじまじと眺めた後で、二人は口を開けて硬直した。
《灰色 小人(偽名)》 男・24歳
職業=偽勇者(詐欺師)
体力=普通 筋力=普通 素早さ=普通 運=普通 魔力=なし 知力=ダメな方向には異常に良い
スキル=詐術 偽称 偽装 偽造 隠蔽 改竄 看破
特殊スキル=《物騙り》
普通というのが何を持って『普通』なのか良く分からないが、まぁ良い評価ではないのは確かだろう。
スキルは今まで培ってきたもの、そのものだ。
特殊スキルについては……ちょっと面白いかもしれない。
が、何より二人を凍りつかせたのは、職業欄だ。
呻くように女騎士が声を振り絞る。
「……に……偽、勇者……(詐欺師)って……」
不意に外が騒がしくなってくる。
俺は振り返り、扉の方に向かってから両手を上に挙げて背後の二人に伝えた。
「ま、人間諦めも肝心ですよ?」
バンッ!と扉が蹴破られ、室内に鎧姿の兵士が一斉に雪崩れ込んでくる。
背後の二人共々グルリと取り囲まれて剣を突きつけられ、俺は妙な懐かしさを感じていた。
警察、ヤクザ、犯罪組織と様々な団体に取り囲まれた経験はあるが、まさかこんな前時代的な集団に取り囲まれる日が来ようとは……
意外性があってなかなか悪くない。
さてさて?ここからどうするか?
そんな事を考えていると、突破口は向こうからやってきた。
「は?スーツって……それに、アンタ日本人か?」
兵士の海が割れ、一際豪華な鎧を纏った槍持ちの男が現れる。
日本人らしき彼のステータスを即座に読み取り、俺は口元を少し歪めていた。
おっと、いけないいけない。
《獅子崎 零王》 男・27歳
職業=剛腕勇者
体力=特大 筋力=人類超越 素早さ=野獣並 運=中吉 魔力=大 知力=脳筋
スキル=剣術 槍術 鼓舞 親分肌
特殊スキル=《竜殺し》 《魔人殺し》 《一騎当千》
わー、馬鹿そー。つか、知力=脳筋てwww
悪意あるでしょ、このステータス表示。
先入観で行動するのは駄目な典型だが、流石に今回ばかりは大丈夫だと思えた。
まぁ油断はしないけど。
しめしめ、カモが向こうからやってきた。
◎
セルスティア、それがこの世界の名称。
ここはアルザーク王国、ライカース領の別荘地。
先程の二人の女は、領主グレン=ライカースの娘・リリアナ=ライカースとその従騎士エスティ=アレハンドロ。
この地を襲撃したのは隣のグリントレット領の騎士隊。
悪の領主グレンを征伐するために、先んじて娘のリリアナを捕らえにきたという。
そして馬鹿……もとい零王は数年前に勇者としてこの世界に召喚され、今はグリントレット領主の下で騎士隊大隊長として生きているらしい。
手練手管を使うまでもなく零王……もとい馬鹿はペラペラと情報を教えてくれた。
一仕事終えて略奪したワインを飲み、口が軽くなっているのかもしれないが、あまりにも手応えがなさすぎてつまらない。
「じゃあ他の勇者に巻き込まれてこちらに転生させられたのか」
「そうなんですよー。それでいきなりこんな状況って、ヒドくないですか?」
「大変だったなー、お前。俺がいてホント良かったよ」
この世界には結構な人数の『勇者』が召喚されているようなのだが、固定の職場に仕えていると出会うことはあまりないらしい。
共に酒を飲み、適度にヨイショを入れてくる同郷人の俺にすっかり気分を良くしている馬鹿はひどく扱いやすかった。
「ステータスもひっでぇな。なんのサービスもなしかよ」
俺のステータスを覗きながら馬鹿が顔をしかめる。
《灰崎 将人》 男・24歳
職業=ただの勇者
体力=普通 筋力=普通 素早さ=普通 運=普通
魔力=なし 知力=普通
スキル=なし
これが、彼が見ている俺のステータスだ。
当然、大嘘である。
本来のスキル、偽称・改竄・隠蔽を使い、ステータスを誤魔化しているわけだ。
それを疑いもせず信じている馬鹿のステータスは圧倒的だったなー。
なんなんだろうね?『筋力=人類超越』とか、スキルの《竜殺し》とか《魔人殺し》とか。
元の人間としての性能差か、はたまたあの悪魔の悪意か。
まぁ本気で羨ましくはないんだけど。絶対面倒クサイし。
「ところで、あの二人はこれからどうなるんですか?一応……僕の召喚主なわけで……義理は感じてないですけど」
「あー……それなー……親父が悪いとは言え、あの娘らには罪はないんだけどな……」
馬鹿が歯切れ悪く渋い顔をする。
そもそも疑問なのはそれだ。
この馬鹿は嘘は言っていない。多分嘘を言えない。
問題は『その情報をこの馬鹿に与えた者が真実を語っているか』だ。
「……少し、最後にあの二人と話をしてもいいですか?」
「そうだなー……分かった。けど、付き添いはさせてもらうぞ」
「もちろんです」
そうして俺達は腰を上げた。
さーてさてさて、どうしたら一番楽しくなるかな?