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詐欺師をムリヤリ勇者にしてもロクなことにはなりませんよ?  作者: 桂英地
一章 詐欺師をムリヤリ勇者にしてもロクなことにはならない。
1/107

詐欺師はカンガルーに転生したかった

 

突然車道に飛び出す小さな女の子。

迫り来るトラック。

 

その瞬間、何も考えずに僕は飛び出していた。

 

 

 

 

……という光景をまさに他人事として横目で眺めてたら、俺は地下鉄に向かう階段を踏み外していた。

あー、まぁ俺の死に方なんてこんなモンだろうな。

 

  

こうして俺、灰色 小人(はいしき しょうと)の人生はようやく終わった…………はずだったんだけどなー。

 

 

「では、貴方の歩む道に光あらんことを」

 

次に気がついた時、俺は何故か古代神殿のような場所に立っていた。

 

金色の髪の、見たまんま『女神』といった感じの女が目前の青年に言葉をかけると、彼の姿は光に包まれて消えていった。

 

どこかで見た気がする青年の姿が完全に消えた後、女は凛としていた表情を無様に崩して大きく背伸びをする。

立派な胸がたゆんと揺れた。

 

「あー終わった終わった。つっかれたぁ」

「お疲れさんでーす」

「あら、ありがと……って!?アンタ誰よ!?」

 

俺が声をかけてようやくこちらの存在に気がついたのか、女は素っ頓狂な声を上げる。

そこにはさっきまでの女神然とした気配はまるでなかった。

 

「なんでここにいるの!?いつからいたの!?」

 

「最初のアレは営業トークだったんだな」と思わせる勢いで女が迫ってくる。

俺はいつものヘラヘラ笑いで両手をパタパタ振った。

 

「なんでここにいるのかはこっちが聞きたいです。いつから?の方は、さっきのお兄さんが消える前くらいですね」

「……ちょっとアンタの経歴(ログ)見せてもらうわよ……名前は……え!?名前ないじゃない!?」

「基本的には『灰色 小人(はいしき しょうと)』と名乗ってます。偽名ですけど。《灰色の小男(リトルグレイマン)》ですねー」

「なんつー代名詞を名前にしてんのよ……豪胆というかなんというか……」

 

《灰色の小男》は『悪さをしても一番怪しまれにくい人間』の特徴を示す言葉だ。

白でも黒でもなく、目立たず志もない人間。

まさに俺の理想そのものである。

 

「俺、捨て子で戸籍もないんですよ。正式な名前がないってことは、名前もつけられずに捨てられてたって事ですかねー」

「えー……そんな笑顔で言う話じゃなくない……?えーとそれで、これまでの人生は……って!?そんなサラリーマンみたいな格好してんのに、アンタ何やってきてんのよ!?これ!?」

「この格好は今やってた仕事のためのコスプレですよ。死に装束になっちゃいましたけどね」

 

いつも通りに喋ってるだけなのにドン引きされてしまう。

そんな大した話だっただろうか?

 

気を取り直すように一つ咳をして、女は自分の胸に手を添えた。

 

「とりあえず、私も自己紹介を。私は女神クランプス。この神域で転生者の管理を使命としてる存在よ」

「クランプス?クランプスって悪魔の名前じゃなかったですか?罰を与える老婆の悪魔」

「んぎっ!?無駄によく知ってるわね……人間は神と悪魔の区別もつかないから、こういう事は往々にしてあるのよ!」

 

触れられたくない話だったか、女神はもう一度咳払いしてさっさと話を変えた。

 

「確認した所、貴方はさっきの彼とほぼ同じタイミング、同じ病院で亡くなったみたいね」

「……ああ、そうか。さっきの彼は、子供庇おうとトラックに突っ込んでいった、あの時の」

 

先程の既視感の正体が分かり、スッキリして俺は手を打った。

と、言うことはつまり……

 

「俺は彼に巻き込まれる形でここに来ただけで、本当ならこんな場所に呼ばれるような人間じゃないわけですね」

「……ねぇ?物分かり良すぎない?」

「状況判断は早く正確にしないと命に関わるようなことばっかりやってきましたから」

 

呆れ気味な女神に笑って答えると、彼女は完全に呆れた顔になった。

 

「で、俺はこれから地獄行きですか?すぐに転生ですか?出来れば次はユル~いヤツがいいんですが。動物園のカンガルーとか」

 

「……もう何からツッこめばいいのやら……お察しの通り貴方の経歴じゃまず地獄行きね。そこでガッツリ絞られてからミジンコに生まれ変わって食べられてを数万回程繰り返したらネズミくらいにはなれる、かな?」

 

「長い道のりですねー」

「動じてなーい……もうやだー、この人……」

 

とうとう女神様は両手で顔を覆ってしまった。

と、そこで突然、どこからかピーピーと着信音のような音が聞こえてくる。

 

それが煩わしい部類のものだったのだろうという事は、女神の歪んだ表情を見れば一目瞭然だった。

色々と残念な美人さんだ。

 

「またもー……緊急の勇者召喚は受け付けないって、いい加減理解してよねー……」

 

ブツブツ文句を言いながら指で操作するような動きをすると、空中にタブレットの画面みたいな何かが現れる。

それを見ながら女神は大きなため息を吐いた。

 

「突発的なトラブルで勇者呼びたいってのは分かるけど、急に言われて『はいどーぞ』って都合良くいくわけないじゃない。ちゃんと好みのタイプとか職業とか、事前に申請して気長に待っててくれないとー……」

「勇者召喚とゆーか婚活サイトみたいですねー」

 

並んで画面を覗き込むと、女神は「そうなのよー」と深く頷いた。

が、直後急に動きがピタリと止まる。

あ、なんかイヤな予感が……

 

職業柄の直感が確信に変わったのは、ヌラリとした女神の微笑みを目にした瞬間だった。

 

「……ねぇ?長々と地獄で懲役食らって、何度もミジンコに生まれ変わって、なんて面倒だと思わない?」

「お断りします」

「聞けよ」

「お断りします」

「聞けって」

 

ガシッ!と両肩を掴まれて、俺は動きを封じられる。

こんな事してるから悪魔として知られるようになったんじゃないかなー、この女神(ひと)

 

「……貴方に一つ、使命を与えましょう。ここで善行を積めば、きっと貴方の望み通り動物園のカンガルーにでもコアラにでも転生出来るでしょう……多分きっと」

「刑期長くなるだけだと思いますけど」

「なんで悪行重ねる前提なんだよ。良い事しろよ」

「出来る人間だと思います?」

 

俺の問い掛けに女神はフイッと目を反らした。

分かってるならヤメて欲しいなー。

 

それから女神は、取り繕った神の体で厳かに微笑んだ。

 

「さぁ勇者よ、貴方の旅路に光あらんことを。願わくば、救いを求める子羊にも貴方自身にも救済が訪れますよう」

「えー……どうなっても知りませんよ?」

「まー上手くいったら儲けモンだし?ダメだったら『緊急召喚はロクな事にならないなー』ってなるし?どっちに転んでもOK的な?」

 

テヘペロとばかりに舌を出してグッと親指を立てる悪魔(めがみ)の姿に、俺は軽い目眩を覚える。

 

俺、ただの詐欺師なんだけどなー……

 

  

こうして、終わったはずの俺の人生は延長戦に突入した。

のんびりしたカンガルーライフを送れるのは、いつになるのやら……


馬鹿っぽい話を軸に書いていきたいと思います。

……と思っていたら、知らん間に想定外の方向に進んでいました。

まぁ、これはこれで良し、ということで。


感想をいただけるととてもありがたいです。

 

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