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最終話

 余ったサトウキビを右手に掲げて魔法の詠唱を行った。その瞬間鍋が光りだし青色の煙がキッチン中に広がり始めた。


「こ、これは」


「ど、どうなっちゃうんですか」



 二人とも困惑してるようだ。私もしている。とりあえず煙がなくなるのを待つことにした。



 煙が晴れた後、私たちは恐る恐る鍋の中身をのぞこうとする。



「一体どうなっているのでしょうか?」



「さあ? どうなってんだろう」



「たのしみだね~」



 ドキドキしながら3人で鍋の中を見ると、透明な液体が泡を出しながら煮られている。どうやら不純物の除去に成功したようだ。




「やったー大成功!」


「やりました!」


「すごーい!」



 みんな大喜びでジャンプしてハイタッチ。よし!あとは固形にするだけだ。このまま煮詰めちゃおう。



 煮詰めてるうちに少しずつねばねばしてきた。こんなにねばねばで固形になるのかなと心配しながらも鍋を混ぜていく。量も少しずつ少なくなってきた。もしかしたら放置することにより固形になるのかもしれない。



「ちょっと冷ます必要があるかも。砂糖はいったん放置するね。ほかの準備から始めるよ」



私はまず卵、小麦粉、牛乳でケーキの生地を作って焼き上げて、それに従い二人も一つづつケーキ生地を完成させた。少し薄いけれど大きな生地が三つ完成する。



「完成です。よく頑張りました、私は。プリアさんほどではないですけれど結構うまくできて満足です」



「すごくふわふわなのができた~」



 みんなできたケーキ生地に満足しているようだ。うまくできてよかった。砂糖なしでできることはこれくらいかな。



「そろそろ砂糖が固まってるかも。ちょっとみてみるね」



 鍋をチェックした私は 透明な液体が固まっていることを確認した。よし。これを袋に入れて砕こう。



「せいやー! おいやー!」


「おお! 粉になってきてます」


「砂糖ってこうやって作るのか~」 



 私ができた砂糖を瓶の中に詰めると瓶の半分が砂糖で埋まった。これだけあれば十分だ。



 大量のイチゴのヘタ取りをみんなで手分けして行い半分にスライスしてから砂糖と一緒に煮る。



 甘酸っぱいフルーティなにおいが充満する。ついつい味見したくなってしまうが、ここは我慢することにした。煮れば煮るほどイチゴは小さくなっていき、その分液体が増えていく。最終的にイチゴは小さな粒となり、液体と混ざっていく。



 「おいしそうなイチゴのジャムができた! これをケーキ生地にたっぷり塗っていくね」



3つの生地に贅沢にたくさんのジャムを塗っていく。ケーキ生地に砂糖は使ってないので甘さをこのジャムに頼ることになる。



「じゃあ次はホイップクリームを作るね」



 私は牛乳に砂糖を加え、それをひたすらかき混ぜる。混ぜていくうちに少しづつ固くなっていき、膨らんでクリームになった。二人も同じようにクリームを作る。



「できた~」



「きれいに仕上げることができました。ホイップクリームは牛乳と砂糖を混ぜて作るものなんですね」



「普通の牛乳と砂糖を混ぜてもホイップクリームにはならないよ。私は普通の牛乳のほかに乳成分の多く入っている牛乳も入手してきたの。それを使ってクリームを作るんだよ」



「そうだったんですか。牛乳にもいろいろあるのですね」



「用途によって牛乳を使い分けるのがプロの料理人だよ。それじゃあケーキにクリームを乗せていくね。あ、あれ、モウラ?」



 なんと、モウラがやってきたのだった。



 普段はキッチンに入ってこない。気になってので質問してみた。



「こうしてここにモウラが?」



「なんか騒がしかったから来てみた。みんなでケーキを作ってるのね。あれ? ソオーナじゃない」



「モウラさん。こんにちはです。プリアさんと仲良しだったんですね」



 二人とも知り合いだったんだ。意外だな。私とモウラって仲良し、かな?



「私とプリアの間には壁がある。あまり仲良しではない」



 冷めた表情でモウラはつぶやいた。確かに私との間には大きな壁がある。でも仲良くなりたい。少しづつ壁を壊していきたい。



「私とモウラはいつか仲良しの姉妹になるよ。今はちょっと違うけれど」





「姉妹、なのですか!! 顔も、髪の毛の色も、性格も、全然! 違うじゃないですか。」



 ソオーナは驚きの表情を見せながらつぶやいた。クリスも驚いた様子だった。



「言ってなかったっけ? 私とモウラは姉妹なんだよ」







「これからケーキを組み立てるところです。モウラさん、一緒にやりましょう」



「別に、いいけど」



「モウラちゃん、よろしく~」



 モウラもケーキ作りに参加してくれるようだ。まさかモウラが手伝ってくれるとは思わなかったな。



「モウラも参加してくれるのね。それじゃあ早速三人で三つのケーキ生地の上にクリームをのせて、そのクリームの中に半分に切ったイチゴを入れてみて。私はその間ホイップ絞り器を作るね」







「モウラさん、モウラさん」



「何?」



「料理をするのってこれが初めてなんですか?」



「そうだけどそれが何か?」



「ちょっと聞いてみただけですよ。甘いものは好きですか?」



「まあ、嫌いじゃないけど」



「では、はい!」



「あ、甘い。おいしい」



「このクリームは牛乳と砂糖を混ぜて作られたものなのですよ。けれど普通の牛乳では作ることができません。クリスさんが選んだ牛乳を砂糖と混ぜることによってできたものなんですよ」



「へえ、あの子が。なかなかやるのn、むぐぐ」



「ソオーナだけずるい~私も食べさせるよ」





 私がホイップ絞り器を作り終え、3人のほうを見てみると、クリスがたっぷりのクリームをモウラに食べさせていた。ホイップ用のクリームがちゃんと残っているのかが気になる。



「クリスーちゃんとクリームは残ってるの? あんまり食べさせすぎないでね」



「はいはーい」



 三人ともまだ作業が終わっていないようなので、私はその間デコレーション用のイチゴを準備することにした。いくつかのイチゴをボールに入れ、それを洗いヘタを取る。すると、三人から作業終了のお知らせをもらった。



「それじゃあケーキを合体させるよ! ここはわたしにまかせて」



 私は慎重にケーキを持ち上げ、ケーキの上に載せていく。イチゴとクリームの甘いにおいが鼻をくすぐる。食べたくなるのを我慢しながらもう一つのケーキを載せる。



「やったー成功だ。すごい!本格的になった!」




 私はケーキをうまく合体できたことを大いに喜んだ。そしてその出来に感動してしまった。




「すごい!すごいです。ケーキが目の前に!」 



「すっごくおいしそうだな~」



「まあ、アリだと思うわ」



 私たち四人はケーキの外側をクリームで整え、ケーキの上側にホイップをたくさん作り、イチゴを載せるときれいなケーキが完成する。



「これで完成!」


「完成です。よく頑張りました!皆さん」



 みんなで大喜びする。モウラも笑っていて楽しそうな表情になっていた。あれ?でも何か引っかかる。




 わ、忘れてた! モウラにケーキを食べさせなきゃいけなかったんだ。でもみんなはこのケーキをパーティに出すと思っている。どうしよう。



「ク、クリス」



「ん、な~に」



「このケーキ食べてみない?」



「これはパーティのためのケーキじゃないの?」



「そ、それは……」






 ぐぅぅぅ。クリスとソオーナのお腹の音が鳴った。







「みんなでケーキ食べようか」




「うん!」



 クリスはケーキの誘惑に耐えられず、私の誘いに乗ってしまう。私はケーキを四つに分け、お皿とフォークとお茶を用意する。



「実は私、このケーキを今すぐ食べたくて仕方なかったのです」



 ソオーナが衝撃の事実を暴露する。今まで頑張って我慢していたのだろう。



「それじゃあいただきまーす……おいしーい」



 クリスがケーキに食らいつく。ケーキを口にくわえるたびにほおを緩め、すぐに次のケーキを口に持っていく。



「イチゴの甘酸っぱさがいい感じですね。とってもおいしいです」



 ソオーナはじっくりと味わうようにケーキを口にしていく。



「モウラさん、おいしいですか?」



「まあ、おいしいかも」



 ソオーナの問いに対してそっけなく答えるものの、モウラはおいしそうにケーキを食べている。









 窓から見える景色はもうだいぶ暗いものになっていた。時計を見てみるともう八時を過ぎていて、みんなとはお別れの時間になる。



「それじゃあバイバイ」



「また今度みんなでケーキを作りましょう」



 クリスとソオーナが別れの挨拶を行っている。私やモウラも同じように別れの挨拶を行い、大きく手を振った。




 騒がしかったキッチンも、二人がいなくなったことによって、ずいぶんとさみしいもののように感じる。そして、使用後の鍋がたくさんあり、これらすべてを洗わなければいけないと考えると億劫だな。そんなことを考えてると、モウラが話をしてきた。




「プリア……ケーキ、おいしかったわ。ありがとう。」



「どういたしまして。みんなで作ったケーキはとってもおいしかったね」



「そうね。プリアはいい仲間に恵まれてるのね。」



「うん!みんな大切な友達。ケーキ作りの旅を通して仲良くなったんだよ」



「そう。それじゃあ買ったケーキのほうがいい! だなんてわがままは通用しないわね。みんなプリアのケーキを期待しているのだから。」



「そのことなんだけど……手作りのケーキとお店で買ったケーキ、どちらもパーティに出してみることにするよ。手作りには手作りのよさ、お店のケーキにはお店のケーキの良さがある。どちらかを捨てることなんてできないからね」






「そうね。それがいいわ……ごめんなさい、わがままを言ってあなたを困らせて。私には変なこだわりがあってそれに固着してしまう癖があるみたい。それが原因で私たちの間にも壁ができてると思う」



「私は気にしてないよ。楽しかったし。こだわりを持つっていうのは大切なことだと思うよ。これだけは譲れないってことは、それがモウラにとって大切なことなんだから。私たちの間にある壁はこれから少しずつ取り除いていこう。」



「 そう……だね。これから頑張ってくことにするわ」


これにて完結となります。

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