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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
生と死の合戦
95/111

生の本能と死と戦

 獅道愁一は一つの決断をした。


 それは、敵とされる刀飾を知るという事だ。

 それはつまり、魂送師と狩師を同時に敵に回すという事だ。


 愁一は決めていた。これは己の因果との戦いだ。



 早朝。家の郵便受けを覗けば当然のごとく、刀飾を今すぐ殺せ、と様々な組織から通達が着た。


 上杉から着ていないのは些か不可解ではあったが、その中にカサリ、と一枚の和紙を見付ける。


 これは果たし状だ。


 差出人は足利義輝。


 相変わらず少し武骨だが達筆な文字が羅列され場所と時刻が指定されていた。


 朝の空気は少し寒い。


 まるでこれから合戦が始まりそうな緊張感だ。いや、始まるのだ。


 何故、この場所はいつも侵入者を拒むのだろう。


 見せかけの五本のビルはそれぞれの位置を繋げると五芒星になる。これは結界なのだ。

 愁一はそのビルの上に飛び乗って、刀を抜いた。


「認知不可の結界は斬らなくていいか」


 一直線。そのまま虚像のビルを切断する。鏡一狼から聞いた話だが、結界において重要なのは連続性と統一性なんだとか。


 簡単な結界なら誰でも作れる。例えば川原で丸く同じぐらいの石を数個広い、それを三段並べる。それを等間隔に作るだけで結界になるそうだ。

 さらに簡単に石を等間隔に並べても結界にはなる。それを壊して侵入する者が戸惑い、拒めば良いのだ。


 しかし、そう考えてもこのビルは大層な結界だ。

 色々な術が掛かっている。愁一はビル一本を真っ二つに切断する。


 それは玄関をノックする行為と同じだ。


「おっはよーう!!」


 だらだらと高級そうな寝床の上、高級そうな着物は乱れ、心底迷惑そうに彼女は起き上がった。


「ここ、一般人はもちろん。並大抵の術者でも認知不可能な結界が張ってあるのだけど」

「それなら、邪魔だから斬っといたよ!」

「斬るなー!!」

「そんなものより、家に鍵付ければ?」

「うるさい、不法侵入者!!」

「ねぇ、お腹空いた?」


 会話が全く噛み合わない。

 追い出したいのだが、今の彼女の力では本気でやって彼を殺せるのかどうかも怪しい。そんなことは悟られたくはない。


 こちらも上杉の動向を探るというのなら悪くない作戦だ。乱れた着物を直して、勝手に朝食を準備しようとする愁一を睨む。


「食べないの?」

「いらないわ。清気さえあれば」

「えー、それは人生、損してるよ!」


 と、愁一はお握りが包まれた笹を彼女に渡す。

 興味が無さそうな夜弥に愁一は微笑む。


「美味しいよ。俺がこの時代に転生して初めて食べた食事なんだ」


 等々、根気負けして夜弥はその包みを開いた。

 シンプルな握り飯に漬物と厚焼き玉子。それだけの簡易な物だ。

 愁一の視線が凄いので仕方なく、厚焼き玉子を箸で切ってつまむ。


 すると、しばらく無言の空間が支配した。


「……どうしたの? 今日は出掛けるから、食べて体力付けた方がいいよ」


「……私」


「……え?」


「初めて物を食べたわ。こんな味がするのね。これが味、なのね」


 それから夢中でお握りを頬ぼる彼女を愁一は呆然と見つめた。そして己の目覚めの瞬間を思い出す。

 握り飯とお茶と。そんな食事が確かに新鮮だった。


「美味しい?」

「それは分からないけど、血肉よりは美味しいと思うわ」


 そんな返答に愁一は苦笑する。


「所で、軽く聞き流したけど出かけるんですって?」

「そうだよ。足利義輝から果たし状が着たんだ」

「ふーん。私を殺せって?」

「違うよ。君はきっかけ。殺し合いの合戦をしようか、ってこと」

「貴方……」

「当然。受けるよ」


 愁一はにっこりと微笑む。


「私は出掛けないわよ」

「へぇー。俺、あの結界ぶった斬ったけれどまた作るの? それは大変だねぇ。上杉も鏡一狼君も侵入し放題だね~」

「貴方……!!」

「約束……契約したけど、俺はちゃんと君を守るよ。安心して」


 こうして愁一は嫌がる彼女を強引に外に引っ張り出した。まるでアマテラスだ。

 夜弥は外では女子高校生の格好をしているらしい。


 そんな彼女と街中を歩いた。


「どこに向かっているの?」

「足利家の本家。俺と彼がガチでやるならちょっと広い所じゃないと」


 彼女は電車にすら乗ったこともなさそうだから、愁一は新幹線で足利家の本家まで向かうことにする。


 夜弥は見るもの、見るもの不思議そうに見つめていた。


「やっぱり、実物は心眼で視るのとは随分違うのね」

「そりゃ、当然だよ」


 彼女はずっと窓の外を眺めていた。



「ねぇ、貴方セフィロトの木ってヤツ、知ってる?」


 それは唐突に始まった会話だった。静かな電車内の指定席。女子高生とスーツの男性という摩訶不思議な組み合わせと摩訶不思議な会話。


「セフィロト?」

「本当に貴方って何も知らないのね。生命の木」

「それ、どういう話?」

「世間話よ。暇でしょ」


 そんな彼女の言葉に愁一は瞳を見開く。


「暇なの?」

「暇」

「そっかぁ。でもごめんね。俺、その生命の木? 詳しくないんだ。言葉とあの図なら知ってるよ。丸いやつだね」

「それだけ分かれば結構よ。勝手に話すから勝手に聞きなさい」

「分かった」

「上杉のモデルと言われているのはセフィロトの木なのよ。だから彼らは上杉なの」

「へぇー」

「ペンと紙」


 そう言われて愁一はポケットからサイン用のボールペンとメモ帳を取り出した。興味本意で夜弥はペラペラとメモ帳を捲ったがありとあらゆる言語がぐちゃぐちゃと混沌とした状態で書かれ理解出来るものではない。


 諦めて彼女はメモ帳にセフィロトの木の図を描いた。


 良く見る10個の円を線で繋ぐ。


「あれ……でも上杉って確か七人って聞いたよ」


 祖父、父、尋也、寧斗、公貴、英治、純太。


 これで七人だと愁一は聞いていたし、彼らとなら面識もある。


「貴方と私と桜小路で10になるわね」

「……へぇー」

「それぞれ役割があるの。いい? 生命の木っていうのは普通の木とは逆なのよ」

「逆?」

「簡単に言うとね。普通の木は地から天に向かって生えているでしょう?」


 夜弥は窓の外から見える木を指差した。


「うん」

「セフィロトは天から地に向かって生えているの。魔術における、いわゆるパスと呼ばれるもの。天から得る力。そして無限を意味しているの」


 どう見ても愁一は理解していなさそうな顔をしている。


「貴方、私とこの生命の木を巡ろうとしているのよ。どうせこれから上杉と対立するわ」


 それは避けられない事実だ。

 そもそも、何故彼女が上杉と対立しているのか知る為にこんなことをしているのだから。


「足利義輝は確かに脅威だけれども、所詮は22のパスの一つに過ぎないわ」

「……でも、確か上杉って地獄の番人でしょう?」

「同じことなの。地球があって、世界があるから天と地獄がある。逆も同じ」

「……ねぇ。君ってそういう話が好きなの?」

「何、興味ないの?」

「う~ん。あんまり。料理の話しようよ」

「だから私は物は食べないの」


「じゃあ、何で生きてるの?」


 その言葉に夜弥は動きを止める。


「貴方は何故、生きてるの」

「生きて、死ぬため」

「……死が怖くないの?」

「怖いよ。でも生きているから怖いんだよ」

「じゃあ、死のない世界を作れば良いじゃない」

「……それが君の目的なんだ」

「私、というよりは刀飾の本懐よ。だから今の世界を創り変えたいの」

「へぇー。壮大な目標だね。でも、それってつまらないと思うな」

「つまらない……」

「永遠。継続、持続、無限、無制限。同じことの繰り返し。確かに理想だよ。でもね。つまらないよ」

「良く言うわ。貴方こそ、無限に生と死を繰り返す永遠なのに」

「確かに俺は、過去に何度も生と死を繰り返した。戦いと生と死の繰り返し。何もない。つまらない。だから普通に死にたい、って思ったんだ。生きたいと思いながら死ねる人生って素晴らしいものだと思うけど」


 会話がまるで噛み合わない。


 それは当然だ。彼と彼女では存在意義が違うのだ。弥夜はため息を吐いた。


「今、起きていること。それは君にとっては新しいこと。永遠ではないこと。だから怖いんだね」


 愁一は微笑んだ。


「……え」

「手が振るえているよ。ずっと俺の言葉に否定的だったし」


 そして彼は彼女の手の上に自分の手を重ねた。


「大丈夫。俺も同じだから」


 電車。それは旅の始まり。



 山奥にある道場。

 そう言うに相応しい武家屋敷が広がっていた。木造の家だが愁一の家よりは新しい。


 何より広い。


 門の前にはこれぞ、この家に相応しいであろう人物が立っている。

 この偉丈夫が足利義輝だ。服装も裏切らず、青の袴に竹刀を持っていた。


「久しいな」

「久しぶり」


 出会えば、二人の手は自然と握られる。


 お互いに武道を嗜む、刀を握る者の手だ。


 しかし、義輝は夜弥には一目もくれず愁一を道場まで案内した。


「義輝君は彼女に怨みとか無いの?」

「無いな。知らん」

「……え」

「確かに、傍迷惑な奴だとは思うが、俺個人、カイウスが直接その女に何かされた訳ではない」


「直接? 他はどうだって良いって言うの?」


 思わず、夜弥は声を上げる。


「それをこれから決めるんだ。お前は罪人か正義か。そんなことはもっとそういうことに興味がある連中が決めれば良い」


 義輝はこざっぱりと言い切った。


「義輝君は変わらないなぁ」


 愁一、はにこにこしながら義輝の後ろを付いて歩いる。

 床は綺麗に磨かれ、木目が光る。


 道場までの道の途中で、美しいセミロングの銀髪の女性がひょっこり顔を出した。


「カイウスちゃん!?」

「そーだよ。いっちーは本当に久しぶりだな。聞くまでも無く元気そうで何より」


 カイウスは以前よりずっと女性らしくなっていた。セミロングの銀髪が良く似合っている。


「義輝、飯は?」

「頂こう。殺し合いの後で食べられるかは分からんが」

「物騒なことを言うな!!」


 どうやら性格は変わらなそうである。しかし、この二人は夫婦なんだよなぁ、と愁一は漠然と思った。足利カイウス。何だか格好いい気がする。


「何かリクエストはある?」

「ないよ! 確かカイウスちゃん料理上手だったでしょ? きっと何でも美味しいよ!」

「イッチーに言われてもなぁ。そっちは?」

「無いわ。女神と武士の夫婦ですって? そちらの方が興味あるわ」

「きっと、ではない。大抵旨い。天ぷらの膳」

「それは義輝が食いたいもんだろーが!!!」


 夜弥は興味津々でそんな二人を見つめる。

 確かに面白い組み合わせだ。

 フランスの女神と古風な武士の夫婦。

 二人は基本的には足利家の本家にいるそうだが、時折フランスに戻ったりしているそうだ。

 どうやらカイウスが色々と義輝の世話を焼いているらしい。


「頼んでいなくとも勝手にやるんだ」

「夫婦ってのはそういうもんさ!!」


 と、カイウスは誇らしそうに言う姿をまた夜弥は興味津々で見つめる。


「嫌ではないの?」

「何で? 結婚してんだよ。当然だ。義輝は警察幹部でめっちゃ忙しいんだぜ。家事ぐらい当然だ」

「そういうものなの?」


 と、彼女は愁一に訪ねるので愁一は微笑み答える。


「夫婦にもよるけど。彼らが納得しているなら理想的な夫婦だと思うよ」

「……そう」


 彼女は不思議そうな表情で彼らを見つめている。



「それから、カイウス。お前も立ち会え」

「え?」

「念のためだ。獅道と殺し合いとなると周囲に目を配る余裕はない」

「……分かった」


 足利家の道場も立派な木製で外が吹き抜け、心地好い風が靡く。

 掃除も行き届いているようで風と木の自然の匂いがした。


 両者、対立するように立つ。


「済まないな。こちらの形式に合わせてしまって。お前ならわざわざこんなことをせずとも、暗殺も瞬殺も可能だろうに」

「良いよ。今回の目的は殺し合いじゃない。合戦だから。互いの主張を知ることが真髄なんだ。それが今回は刀と刀のぶつかり合いと言うだけさ」



 そう良いながら愁一は横に持った刀の鞘を抜き、放る。


 その鞘は数回転がり、コンッと道場の床に落ちた。


 それが合図のように。


 二人は同時に動いた。



 言葉は無かった。


 カイウスも、夜弥も声を発する余裕なんて無かった。

 ただカイウスは義輝に言われた通り愁一の側にいる夜弥を観察していた。


 随分、思っていた、聞いていた話と違うな、とカイウスは冷静に彼女を観察する。


 残虐で、人をオモチャのように殺し、たった一人が生き残れば世界などどうなろうが知ったことではない。


 それが刀飾だと聞いている。



 戦は合図も無く始まる。


 義輝は壁に掲げた刀を握り、愁一に向かって投擲するが簡単に弾かれる。


 投擲したのは鞘だ。

 刀を持ち直し、互いの刃がぶつかった。


「腕を上げたね」

「そちらこそ。外道に磨きをかけたな」

「それは俺の台詞だよ」


 これは本来ならば交わせた一閃だ。単なる挨拶に過ぎない。


 愁一は一歩下がるふりをして大太刀で義輝の首元を凪ぎ払ったがまた刀で止められる。


 足利義輝の血統は彼が持つ全ての財の再現。


 それを突然でもなく、少しずつ小出しにし、更に本物の刀を混ぜてフェイントを入れて来たのだ。


「さて、久しぶりも久しい。珍しく、口上と洒落込むか。我が名は室町幕府第13代征夷大将軍。足利宗家第20代当主、足利義輝の血を引く者。一耀一閃、足利義輝。いざ、その全てを穿つ」

「うわ、何それ、かっこ……」


 いい、等という言葉は閉ざされる。


 そこは一面の合戦場。


 義輝の後ろには造形な城が立ち。旗が靡き。晴天の元。死者も、親族も。いざ、戦いに生き、死んだ者。


 全てがそこには再現されていた。


 無限に広がる室町時代に、慣れないとたっているだけで足元が揺らぐ。


 天変地異。全てを包囲するのは刀。刀。刀。多すぎて、一つに括られた刀の紐を義輝は放つ。


 これが、遺伝子操作。捏造。科学の力。誰がそう思うだろう。目の前に立つのは、正しく足利義輝なのだ。


「さあ。尋常に勝負だ。一閃千里の男、処刑人、獅道愁一よ。我が首、狩るがごとき」

「そう乗せられると俺も格好いい気がして来たよ。異端者よ。我が一閃に散るが如く」


 戦いの前に、口上を述べるだなんて随分久しぶりな気がした。


「……そう。君は分かっていたんだね」

「当然だ。戦の理由など命他ならない」


 合戦の始まりだ。


 法螺貝の音が響く。


「どちらが死に」

「どちらが生きるか」


『尋常に勝負!』


 大軍対一矢。


 再現された最古の町は義輝の思うがまま、形が変わり、足場が変わる。


 多くの軍勢を捨て駒にしてフェイントを入れて来るなど想像もしなかった。


 交わすべき刃と刃がぶつかる。


「……っ、君ね! 君がそんな外道を極めてどうするのさ!!」

「ふん。だから最初に尋常に勝負を申し込んだのさ。こう来るとは思うまい?」


 義輝は一本の刀を掲げる。


 足場が崩れる。


 ぐるぐる、ギュルギュルとその全てが一本の刀に終結する。


「ちんたらするのは好きではないのでな。行くぞ」

「あー、もー。完全にそっちのペースだ」

「こうでもしなければ、貴様の断罪の刃と向き合うことすら不可能だ」


 愁一は全ての力を解放する。


 刀は漆黒から白銀に光り輝く。


「処刑人に真っ向勝負を挑むとは、流石侍」



 勝負は一瞬だった。


 いや、一瞬に見えただけだ。


 義輝の攻撃を交わし、力を断罪する。

 その瞬間に出来た足場を最大限使い居合いを放つ。


 一番最初。


 刀と刀との一線。


 それは一瞬の閃光に見えた。


 気が付けば、両者反対側の位置にいて技を放った後。


 数分の後、義輝の肩から血か吹き出る。


「義輝!!」

「大丈夫だ。微妙に急所から外しやがって」


 お互い、立ち上がり刀を納め一礼をする。


「な、まだ、負けてねーだろ!」

「いや。勝負は終わった。この傷は張りぼてだ」


 義輝は真っ直ぐ、夜弥の真横を指差す。


「え……」

「あえて外したな。微妙に俺の首を狩れる。にわか一瞬。俺は判断を見誤った。こちらが本命かと」


 義輝は壁に刺さった打刀を抜いて愁ーに向かって投げた。



「流石。そこまでしてやっとだ」

「それはこちらの台詞だ」



 このままではこんな感じで永遠に続く。

 カイウスは目一杯叫んだ。


「めーしー!!!!!」


 その声に夜弥は驚く。


「お前ら、最初からこんな感じのことしたかっただけだな! 殺し合いだとか大げさ言いやがって!!」

「だって、こうやって殺し合えるの義輝君しかいないんだもん」

「俺も久々だったし、鈍った体を動かすにはいい理由だろう」

「はい、終わり!! メシです!」

「え? 決着は良いの?」


 不思議そうな夜弥を見てカイウスは呆れる。


「アホか。この二人が殺したい程憎み合っている訳あるか。ただ、戦う為の動機だろ。そんなことより、義輝は手当て。メシ!!」

「そうだな。やはり動くと腹は減る」




 カイウスはくるくる動く。お膳を運び、お茶を運び。

 そんな姿を見ると流石に夜弥も何かすべきか、と立とうとすれば一言。


「邪魔。座ってろ」


 と言われたので用意された膳を食べる他ない。


「いっただきまーす!!」

「頂こう」


 二人は先程まで殺し合いをしていた、だなんて誰も思わないだろう様子で和気藹々と食事を再開している。


「で、お前。狩師、魂送師全員と戦う気か?」


 義輝は美しい所作で会話は食事を中断して行われる。

 それでも物凄い勢いで食事をしていた。

 確かに出される物、出される物は全て美味しいのだが目まぐるしい。


「良く分かったね。そうだよ」


 カイウスは全ての支度を終えた後、ゆっくり義輝の隣に座った。

 義輝はカイウスに茶を渡す。


「お前の望みは察する。好きにするといい」


 ぽーん、と対の指輪を投げられ、愁ーは慌てて受け取る。


「え、いいの?」

「だから貴様は俺を殺さなかったのだろう。貴様は、上杉の手を離れ我々異端者を断罪する処刑人になった。そういうことだろう」

「さすが」

「桜小路、上杉とも交えるのか?」

「鏡一狼君は仕方ないだろうね。彼が一番、刀飾に恨みを持っているし」


「……ところで、どうして貴方たち、戦ってるの?」


 夜弥は海老の天ぷらを口一杯に頬ぼりながら尋ねた。


「なんで中心人物のてめーが分かってねーの。上杉の永遠転生プログラムを破壊する為にイッチーは戦ってんの」

「……え」


「でないと、死ねないんだよ。普通に。みんな。狩師も魂送師も、上杉も」

「ちょ、待ちなさい! そんな……それでいいの!?」


 夜弥の言葉に義輝は頷く。


「それを決める戦いだった訳だ。結果的に、我々は構わないと決断した」


 カイウスは頷く。


「貴女、女神でなくなるのよ?」

「何、言ってんの。もう女神じゃねーよ。良いよ。義輝と添い遂げるってもう決めたことだ。頼んだぜ、イッチー」


 愁一は頷く。


「馬鹿げているわ! 怖くないの!? 死が、怖いでしょう!!」

「そりゃあ、怖いさ。けど、けどさ。千年、万年だか知らねぇけどさ。それはそれで暇じゃん」


「ひ……ま……」


「思わなかったって? 一度も?」


 カイウスはずいっと夜弥に近付く。


 夜弥は黙るしかない。


「ふーん。へぇ。これが刀飾。聞いてた話と全然違う。ただ死ぬのが怖いお嬢ちゃんじゃん」

「そうなんだよ。ずーっと一人で死ぬのが怖い、怖いって籠って、邪魔する人は殺す。馬鹿だよねぇ」

「な、んですってー!!」


「だから教えてあげることにしたんだ。外の世界は生と死で溢れている。皆、万年後の地球で生きるより今を生きている。その意味と尊さを」


「理由は何であれ、面白い。今までイッチーは味方だった連中と戦う訳か。面白い!!」

「こら、面白がるな」

「お前が一番、楽しんでいたくせに」


 そんなカイウスの言葉に義輝は黙ってひたすら天ぷらを食べた。

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