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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
輪廻血戦大合戦
93/111

第一戦 獅道愁一対刀飾夜弥

 

 ようこそ。私は貴方、もしくは貴女の中の生であり、死よ。


 人々は私を刀飾(とかざり)と呼ぶわ。何故なのかしら。良くは分からないけど。私の家は古事記、或は日本書紀からある閉ざされた一族よ。kpの世界では割りと多いみたい。


 刀飾について良く分からない? そうね、コンセプトについては『人類のより地球の為に良い未来を求める集団』かしらね。


 だったら、良い奴らじゃないかって? そうよ。本来ならね。崇められることはあれど、憎まれる筋合いはないわ。

 ただ、私達のより良い未来の為なら今いる人類を殺しても構わないって趣向がお気に召さないみたい。


 普段は何処かの誰だかに成り済ましてひっそり生活しているわ。ひっそり暮らしているだけ良いと思うのだけれど。


 これほどつまらない後悔はあっただろうか。障子から見える日光を見てそう思う。

 これは地球。

 これは箱舟。

 これは宇宙にしてみれば寄生虫。

 これは概念。


 ここは本当にちっぽけな場所。せまくて術以外には何もない。

 赤の社と白い壁が永遠と続く無限廊。

 けれど、その社に意味は無く。思えば船。スペースシャトルでも、それこそネズミ小屋。何でもいいわ。


 私が肉体に架せられたすべての術を使用する。そのための装置。


 私は知っていた。何処の誰かも分からない。一族が殺せ、殺せと吠えた。だから殺した。その男は初めて見たとき、鮮明に残って頭から離れない色は赤。ただの赤ではない。まるで宝石のような輝きと、飛び散る血と椿の赤のコントラスト。


 私はそれを美しい、と思った。


 私は、中学の頃に唯一の家族だった父を殺した。父は躊躇わず。抵抗せず、笑顔で、私に言った。


『お前……は、本当は……あの刀に……鞘……、……』


 最後は意味が分からなかった。術の紙が散らばる中、父は倒れた。


 こうして私は刀飾となる。


『命を絶つのが刀。命を斬るのもまた刀。しかし、その刀を持つのは人の手』



 それが刀飾りだ。生まれたものは次の世代に殺され死ぬ。その因果は変わらない。当主が父親でも、母親でも。

 だから刀飾の敷地は見た目の割にはこざっぱりした家だ。やたらと古めかしさだけが残る。

 近所の噂ではあの屋敷の椿の下には死体が埋まっているとか。

 それはあながち間違いではない。



 私の家は大きな五本の柱のようビルの中。そんな中ひっそりと鎮座する神社。その神社にはいつも雪が降る。


 垣根の一面は椿の花。

 季節関係なく。


 雪は降り、椿の花は落ちる。


 こんな、今時こんな場所、他にあるのだろうか。


 家から一歩出れば外は快晴だ。


 私は今、普通の高校生として高校に通っている。何故、高校生か? そんなの楽だからだ。今更何故、私が社会貢献に就職しなければならない。


 そのループを何度繰り返しただろう。


 そんな日常の流れで私は知る。


 この世は、なんとも憎いことか。


 混雑した道には様々な人が通る。誰も私が危ないとは思っていない。大人。子供。高校生。そんな姿は持つもの、目的が違えど変わらない。千年以上前からずっと同じ。いい加減、何度繰り返せば気が済むのかしら?


 気まぐれで外に出た。

 日が暮れて、海まで来ると、コンテナ車が音を立てる。

 真っ黒な海。ぴかぴかと灯台の光る。


「まぶしい」

「そうだね」


 その声に思わず動きを止める。


「……何」


「そんな怖い顔しなくていいのに」


 振り向くと、そこに立っていた男は獅道愁一だった。海風が吹く。私が睨んでも微動だにせずに男は凛々しく立っていた。随分成長した。最早青年ではなく、一人の大人だ。


「見つけた」

「見つかってしまったようね」


 しかたなく振り向くと男は背負っていた刀を抜く。月光に光る黒刀に反射する。私が次の動作をする瞬間にはもうその刃は私の首筋にぴたりと当たる。


「貴方、こんな所で女子高生を殺す気?」

「よく言うね」


 緊張感。この男を正義の剣だなんて誰が言ったのか。


 静寂の元、刃が動く。


 そのまま突っ込んでくるのかと思いきや、さすがに一歩引いて頭のおかしい速さで突きを放つ。

 躱せばコンクリートの壁が壊れた。しかも一点から均等にピシリと割れた。ここ、毎日通うのだけれど。


「へぇ、抵抗しないんだ」

「この状況で? 私は貴方を殺せない」

「じゃあ、やってみよう」


 その言葉で、向かう刃が止まる。そして一閃。私の髪が数本散らばった。

 私は刀を『持っている』。けれど持っているだけだのだ。

 男は躊躇いもなく私に刃の切っ先を向ける。

 大振りの斬の後には一瞬の静寂から放たれる打刀による突き。


 暗闇のようで暗闇ではない。夜風と血が頬に流れる。そんな空間には二人の人間のみ。


「あれ? 思ったより? 普通?」

「……な…」


 始めてこの男と会話した。会話と呼べるほど崇高なものでもない。


「やっぱり知らなかった。君の持つ、刀はこの刀の対だよ。俺の刀は削除する断つ刀。君の刀は力が生まれる刀。俺は何故、こんなものを造ったのか知りたいんだよ」

「そんなの、その刀を破壊すれば済む話よ」

「君は知りたくないの? 君を殺せるのは俺だけだ。俺を殺せるのは君だけだ。なんて無意味」


「……っ、私は……世界を救う為に貴方を殺すわ!!」


 青年は驚いたように呟いた。


「へぇ。俺はわざわざ、自分が殺されるための空間を自ら作ったものだと思ったよ……そう! 棺桶!」

「誰がそんなこと。これは貴方を殺すために……」

「じゃあ、どうぞ」


 青年は刀を手慣れた様子で鞘に戻し、両手を広げた。


「……はぁ?」

「君さぁ、もう英治くんにちょっかい出すの辞めれば?」


 そして何事もない様に歩く。そこはただの道で、通路と変わらないのだろう。私は殺気を男に向けて放つ。

 意味はなさそうだけれど。


「止まりなさい。今すぐに。そうしなければ貴方は死ぬ」

「おかしいなぁ。さっき、俺を殺すとか、殺せないとか。良く分からないことばかりだね」


 青年はきょとん、と首を傾げる。


「なぜ……貴方は私を怖がらないの?」

「だって、君は俺に何もしてないじゃない」

「……」

「そりゃ、周りの人には随分酷いことしたみたいだけど」


 そう言いながら、男は全身真っ黒なスーツの襟を片手で直す。


「俺はね。ずっと気になっていたんだ。どうしてみんな刀飾のことをあそこまで敵視するのかな、って」

「それは……」

「過去に色々あったのも知っているよ。でもそれは本当に君が望んでやっているの?」

「さあ。それはどうかしら?」

「その曖昧な返答になんの意味があるのか。そんな小さな言葉では誰も動かせないのに」

「……おまえは!!」

「何か文句があるなら、本人に直接言えば?」

「誰が!!」


 この動き。一寸の迷いはなく。戸惑いも、音もない。

 暗殺剣の方がよほど合っていると思うわ。一ミリでも動けばこの男に間違いなく殺される。


 男の放った突きはコンテナ車を破壊した。瓦礫が風と共に飛ぶ。


 ……むしろ、何故殺されなかったのか。


「何故、刃を止めた」

「君が動かなかったから」


「何故、殺さない」

「君が動かないから」


 私が動けば殺せると言うの? それなら……。


「ちょっと待った」

「え……」


「いいかい? 俺は君と殺し合いがしたい訳じゃない。話し合いがしたいんだ」

「……貴方、ダジャレなんて言えたの?」

「……え? だじゃれ?」


 そう来たか。


「そう! 俺は君のことがもっと知りたいんだ!」


 そして、完全にスルーしやがった。


「私は別に」

「だって変でしょう? 俺が異端者抹殺兵器なら、それを危険として倒したいと思う組織がいたって何の不思議もないよ」

「貴方……刀飾を何だと……」

「知らない」

「え……」

「俺はね、記憶がないからさ。知らないんだ。だから、何事も自分で確認することにしていてね」


 私は思わず、青年を見上げる。


「だから……俺とデートしよう!!」

「はぁ?」


 この人、私の話を聞く気あるのかしら?


「場所は今まで君が通った道」

「ふざけないで! そんなこと……」

「もし、誰かに怒られたら俺が守るよ。本当に悪いことしたなら無理だけど。それならちゃんと謝ろうよ」

「だから、ふざけないで!!」


「ふざけてない」


 彼は至って真顔で私の傍まで来て屈んだ。そして私の髪をさっと整える。


「ふざけてないよ。本気さ。刀を待たぬのに名は刀飾。一体、その刀はどこにあるの?」


 私はその問いに答えることが出来ない。


 目の前だと、どうして言えるのだろうか。


「……いいわ。その話。乗っても」


 そして、私はこの男を殺す。


「本当!? やったぁあ!」


 男はぴょんぴょんと喜び、私の目は点になる。 


 潮風が流れる。ボーボーと船の音がする。どうしてか、ここにいると不思議な気分になるわ。


「君はあんな檻みたいな所にいて楽しい?」


 青年はくるりと回る。また、哀愁と和風を混ぜたような容姿をしながら随分と陽気になったものだ。

 私は呆れて、今、この時にこの男を殺すのは少々馬鹿らしくなった。


「楽しい、楽しくない。以前の問題よ」

「そう。じゃあ、逃げようよ」

「……はぁ?」


 青年はくるりと回って両手を広げた。


「俺はね。死にたいんだ。普通に生きて、死にたいんだ。けれど、君は死にたくない」

「そんな訳……」

「そうでしょう。だから君は死を管理する上杉に刃向かい続けている」


 私は何も言えなかった。


「誰もいないから。一人だから。寂しくて。だから良く分かりもしない宗教団体に祭られているんだよ」

「そんな訳ないわ。いい? 皆様、私を憎んでいるの。だから……」

「じゃあ、確認しよう」

「……え?」

「俺が勝ったら、あの謎の冥界のお願い事は俺が叶える。君が勝ったら君が好きにするといい」


 私は青年と向き合う。


「悪くない提案だと思うけど。だって君も随分、無茶をしたよね。上杉のサーバーに逆ハッキングなんてして何もダメージがない訳ないでしょ? だから俺なんかに見つかるんだよ」


 私は何も言えなかった。

 真紅の瞳は夜の闇に光る。


 全身真っ黒なのに。その色だけは鮮明で。


「もう一つ。デートに付き合ってくれている間は一切君に手を出さない」


 全てお見通し、という訳ね。


「良いわよ。その話。乗っても」


 私は始めて出会った。刀飾というだけで疎遠され、孤独で、誰も私には見向きもしなかった。


「貴方、何がしたいの?」

「だから、君とデートさ」


 青年は私にそっと手を差しのべた。

お察しの通り……?


この章が最終章となります。


一章、一章に登場した人物をテーマに敵である刀飾と共に何が正しいのか巡るごるぶらツアー!!です。


年内に終われば……つまり一話、一話が長く一話に絵が付く……はず……はずです。

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