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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第一章 New Moon
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第六夜 星砕ける

 

 あれから刀飾について少し調べた。

 調べてはみたが表向きは市民宗教団体。

 その深層は深く、多くのマスコミは都市伝説として名を馳せている。


 拠点さえ分からなかった。


 あの藤棚のベンチで昼食を食べていると伊鞠は言った。


「刀飾って言うのはね、宗教団体の皮を被った暗殺集団よ……って、お昼時にご免なさい」

「いいよ。聞いたのこっちだし。暗殺集団……?」

「最近、悪霊が増えたでしょう?」


 愁一は頷く。


「それは全部刀飾に殺された人々よ」

「な……んで?」


「人類を減らして世界を永存させること。それが刀飾」

「人類の永存……それは……良いことだよね?」

「さあ。それは人に寄るけど、だからって一般人を殺していい理由にはならないわ。世間はその事実を知らないの」


 珍しく伊鞠の表情は険しい。藤の花が風にざわめく。


「まさか……君は……」

「私を殺したのは飾刀よ。私は……ずっと探しているの」

「何を……」

「私の体と、生きているかもしれない兄」


 藤の花の花弁が舞った。伊鞠の髪と制服が風に靡く。



 分からなくなってしまった。

 記憶喪失だからか。

 何を信じれば良いのかを。


 愁一は夕方の生徒会室にて口を開いた。



「刀飾って知ってる?」


 今日、一人残っている上杉英治に尋ねる。


 英治は長机に座ってしばらく沈黙を守っていた。愁一はただ、目の前に立って彼の返答を待った。


「誰からそれを?」

「それは言えない」


 愁一は首を振る。また、英治は顔を歪めて数分考えていた。


「けど……このままだと俺は君を疑うことになる。君が刀飾ではないかと」

「……俺が?」

「俺には記憶がないから。刀飾と君たち魂送部隊の違いが分からないんだよ」

「そうなると、ケイも信用出来ないということになりますね」


 愁一は頷いた。


「信用してない、というより歯車が合ってないみたいなんだ。全部が。俺は人を殺す夢を見る。ずっと。刀飾は人殺し。俺を呼んだのは君たちだ」


 ケイとの関係も、このままでいいのかさえ分からなくなる。


「それなら俺の口からは何も言えません」


 英治ははっきりと言った。

 彼は相変わらず、物事をはっきりと言う。


「どういう意味?」

「今、俺が刀飾が何か、を話した所で貴方が信用しなければ意味がありません」


 そして、彼の言う言葉は大半が間違いない。


「そうだね……そうかもしれない」

「どうせ、人は人です。こうなるだろうと予測していました」

「こうなる?」

「魂送師と狩師という繋がりがあっても、ばらけるでしょう」



 英治の表情は無表情だった。


 そこには、怒りも、喜びも、悲しみも感じられない。

 時々。愁一はそんな英治を見ると心がざわついた。



「止めようとは、思わないの?」

「思いませんね。俺は冥界の管理職です。そこまで人間に奉仕する理由がない」

「それは違う気がする。本当は、止めたいけどどうにもならないんだね」


 愁一は何となく言った。


 彼は無表情で時々、機械的な行動をするが……本当は違うのではないかと思っている。


「刀飾が何か、はご自分で調べて下さい。桜小路鏡一狼を知っていますね?」

「……え?」

「最初に貴方に接触した術者が桜小路鏡一狼ですね。それに以前、一緒に組んだ時に随分、彼を応援していましたから。確かに、彼は囲碁のプロですが詳しくなければそこまで有名人ではありません」

「……君は本当に抜け目ないね」

「桜小路鏡一狼は刀飾です。そして、刀飾とは、小さな宗教団体が集まった暗殺集団です。地球の永存の為に必要のない人類を殺す。千年以上前から上杉の地上管理プログラムに反発する組織です。欲するは永遠。その為に手段は選ばない」


 伊鞠も確か、そう言っていた。



「……俺が刀飾ではないの?」



 愁一は、にわかに考えていた、そうではないかという予測を言った。

 自分が狩師ではないのなら。違うのであれば、もしかして自分が刀飾ではないかと。


「いいえ」


 しかし英治は否定する。


「貴方は刀飾ではない。刀飾は桜小路鏡一狼です。信じますか?  信じないでしょう」

「……」


 愁一は頷いた。あの彼が。優しい笑顔で知的な彼が、暗殺集団だとはとても思えない。


「桜小路鏡一狼は暁門下生の囲碁のプロです。現在の家と学校までは調べられますが、それ以上は調べられません」

「……どうして?」

「彼が術者として間違いなく最強だからです。これ以上、踏み込めば探られているとばれます。そこまで危うい状況です」

「……俺は」


 本当に何をすればいいのだろう。


「貴方は貴方が正しいと思う行動をすればいい。貴方が刀飾と因縁があるのも認めましょう。しかし、貴方が知って貴方がどう行動するかを咎める権利は俺にはありません」

「それは嘘だ」



 そこで、英治は初めて驚いたような表情をする。



「君はたぶん……。俺を信じてくれてるんだね」



 また無言で数分時が過ぎる。



「ええ。信じていますよ」



 英治は頷いた。

 そして一枚のメモを手渡す。



「これは……」

「桜小路鏡一狼の現在の住所と通学高校です」

「ありがとう」


 愁一はメモを受け取った。


「今は時期じゃない。けれど、その時が来れば分かる。理解した時が始まりだ」

「……え?」

「伝言っすよ。未来の貴方へ」





 次の週末、愁一は京都に行くことにした。



 しかし早朝にケイに腕を掴まれる。


「何処に行くのですか?」

「えっと、ちょっと買い出しに……」

「朝の八時に?」

「……ケイさんは刀飾って知ってる?」

「詳しくは。あまり良くない宗教団体だということぐらいです」

「何か俺と関係があるかもしれない」

「調べに行くのですか?」


 愁一は頷いた。

 ケイは布団の上で目覚めたばかりだ。


「ケイさんはまだ寝ていていいよ。具合……まだ完全じゃないんでしょ?」

「そうですが、私も……」

「大丈夫。帰ったら、ちゃんと話すよ」

「……貴方は……私に霊力を譲渡しようとは思わないのですか?」

「……え?」

「出来ますよ。簡単に。接触したりすればもっと簡単に」

「……ケイさん!?」


 突然、愁一はケイに押し倒される。

 ケイが寝ていた布団にぼすん、と頭が落ちる。


「以前から思ってました。私には女性としての魅力がないのでしょうか?」



 呼吸が近くなる。

 それだけ距離が近くなる。愁一はまた胸がざわついた。英治とは違う感覚だ。


 このまま触れては駄目だという強い感覚だ。



 愁一は思わず、ケイの肩を掴んで押し返した。


 嫌な汗が頬を伝う。


「ごめん……ケイさんは違う」

「違う?」

「分からないけど、こういうことは出来ない」

「……今は?」


 愁一は曖昧に首を振る。



 電車に揺られながら考えた。


 英治は何故、桜小路鏡一狼が刀飾であると知っていたのだろう?


 そういえば向こうも英治のことは知っていた。

 お互い凄い立場の人間だからだろうか。


 刀飾が愁一との記憶喪失と何か関係があるのだろうか。


 何故だろうか。

 時々、上杉英治と話していると懐かしいような不思議な気持ちになる。彼が間違っているとは思わない。

 しかし今は情報を集めて何が正しいかを見極めなければならない。


 いつまでも記憶喪失だからと甘えている訳にはいかないのだ。



 メモを頼りに、鏡一狼の高校に行ってみる。


 色々と京都を観光しながら、いかにも進学校っぽい出で立ちの高校に辿り着いた。


 着いて思い出したが、今日は休日だ。


「しまった……」


 どうしようか、うろうろしていると肩を叩かれる。


「やあ。何故、君がここに?」


 それは鏡一狼だった。あの時とまた、風貌が違って、柔らかそうな髪に、分厚いレンズの眼鏡という古い漫画に出て来そうな姿だが。


「それはこっちの台詞だよ!」

「俺は補習さ」

「補習……? てっきり、賢いのかと思った」

「囲碁のプロと高校生活を同時にするのは中々大変なのさ。何か用かい?」


 ここで話しても仕方ないので愁一は鏡一狼に案内してもらい近くのカフェで向き合っていた。


 やはり、京都も懐かしいと感じる。色々な気配。石畳。案内された場所もカフェというより喫茶店だ。メニューも抹茶に羊羮、和菓子が多い。


「好きな物を頼むといいよ」

「ありがとう」


 愁一は抹茶と和菓子を注文してから聞くことにした。


「聞きたいことがあるんだ」

「それはいいことではないね」


 愁一は頷く。


「君は刀飾なの?」

「誰からそれを?」

「上杉英治に」


 それを聞いた鏡一狼は額に手を当てて溜め息を吐いた。


「面倒をこっちに全部押し付けたな」

「知り合いなの?」

「面識がある訳ではないが、お互いの名前位は知ってるさ」

「君は刀飾なの?」


 愁一はもう一度訊ねた。


「ああ。そうだよ」


 鏡一狼は否定しない。


「なら、どうして俺を助けてくれるの?」

「観察しているのさ」

「俺に記憶がないからだね」

「君は……」


 鏡一狼の言いたいことは何となく分かった。以前なら、愁一はもっとぼんやりしていた。


「何故、君が刀飾なの? とても人を殺す様には見えないよ」

「……それを話すと面倒なんだ。確かに、君を懐柔しろと言われている。しかし、君は全てを知ればむしろ刀飾を嫌悪するだろう」

「……一体、何が」

「……君と、俺が揃うと世界を破滅して世界を救済出来るのさ」


 鏡一狼は眼鏡を外して愁一と向き合った。


 真っ直ぐ、緑の瞳に見つめられる。とても冗談を言っている様には見えない。


「今はこれぐらいしか言えない」


 愁一は素直に頷いた。


 何故、愁一が素直に頷き、そのままその場を去ったのかと言えば。


 もしかして鏡一狼はいたくて刀飾にいるのではないのではないかと思ったからだ。


 彼は、何か理由があって仕方なく刀飾にいるのではないかと愁一は考えた。




 家に帰るのが少しだけ気まずかった。ケイのこともあるからだ。



 玄関から家に入るとケイの姿が見つからず、卓上に置き手紙があった。


『少し修行して来ます。しばらく帰りません』


 愁一はメモを持って震えた。


 何故、何も話さず行ってしまうのだろう。

 何故、あの時ケイを拒絶したのだろう。


 鏡一狼や英治に感じる親近感が何故か彼女にはなかった。

 だったら伊鞠の方がまだ一緒にいて安らぐのは事実だ。


 それでも愁一は話さなければならなかった。


 愁一は思わず、ドンッと卓上を叩いた。



 仕方なく英治に電話をする。


『……消えた?』

「修行するって」

『それなら大丈夫でしょう。本当に修行するだけっすよ』

「……でも、俺は!」

『先輩は選ばなければならない』

「え?」

『そろそろ刀飾が動きます。その鏡一狼さんと戦うかはともかく、刀飾と戦うかは』

 愁一は震える手でデバイスを持った。

「俺のせいでケイさんが……」

『ケイのことは一回置きましょう。あれでも魂送師です。先輩は選ばなければならない。このまま、自分の力で悪霊を狩るのか、血統解放を目指すのか』

「どちらかになれ、とは言わないんだね」

『言いましたけど。俺が強制する義務はありません』

「俺はもっとこの世界と自分を知らなければならない」


 そして他人を。その中には英治も含まれている。彼らは獅道愁一が世界を破滅するのか、救済するのかどちらの存在になるのか見極めているのだろう。


 ケイだけが純粋に愁一の味方だった。


「ケイさんを探さなきゃ」

『大丈夫。信じています』

「それは……」

『今の貴方に向けて』


 通話は切れた。

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