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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第零章 九尾のきつねの琥珀さんをご奉仕します!!
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ご奉仕その五 夜のご奉仕も……!

 

 何故、こうなった。


 それすら俺は考えるのが面倒だった。


 しかし。しかしである。勝手に他人のベッドに蹂躙する狐女、彼女は完全に俺を童貞だと見下している。


 自分の手中に納めてやろうという下心が丸見えだ。


 俺はパチリ、と部屋の電気を消す。


「あら? その気ですかぁ?」

「ああ。本当に俺をご主人様、とやらにする気だな」

「して、差し上げるのです」


 尻尾は揺れる。琥珀の瞳は細まる。

 やはりだ。

 この狐。下心丸出しだ。つまり完全に俺は舐められている。


 何がご主人様、だ。


「……良いぜ。俺を選んだ事、後悔させてやろう」

「おやおや?」


 俺は指を軽くストレッチの様に動かす。


 ペットを飼うなら躾は重要。


 そのまま屈んでそっと、白銀の耳に触れる。


「ちょっと!?! デリケートなんですよ! そこは!」

「あれ? 痛いか?」

「……え?」


 優しく、触れる。

 耳の付け根。輪郭。こしょこしょと擽るように。


「ご、……ご主人様……」

「動物愛好家を舐めるなよ、お狐さんよ」


 耳の裏側。側面。強すぎず、弱すぎず。狐や猫や犬が大好きで弱い所を愛撫すると琥珀は顔を真っ赤にしてよろける。


「待って……ずるい、そんなの狡いですぅうう!!」

「尻尾は三本。なあ、知ってるか? 尻尾の付け根って気持ちいいんだぜ?」

「ひゃあああ!!」


 三本の尻尾を優しく撫で、付け根をこしょこしょと擽る。

 そうすると尻尾と耳の毛は逆立ち、ピンッと伸びる。


「まだまだ序の口」

「そんな、私がご奉仕する筈だったのにー!!」


 蕩けた瞳で見つめられるのも悪くない。優しく、狐の耳を甘く噛むと琥珀はビクッと痙攣する。


「こんな、……どうしたら、こんなこと……」

「気持ちいいなら素直に感じてな」

「良いのですね? 私、中途半端で満足する動物ではありませんよ」


「知ってるよ」


 琥珀の唇に触れる。

 ただ今までコイツにご奉仕していた連中と同じ、は嫌だった。


 今はそれだけだった。


「服、脱いで差し上げましょうか?」

「馬鹿だな。そういうのは、脱がされるのが良いんだろ?」


 そう言って瀧臣は琥珀の結られた髪の飾り紐を解いた。綺麗な銀髪が、肩に、ベッドに広がる。


 琥珀の瞳が見開かれる。


「あんまり、焦らさないで欲しいです……これは供給です。サクッと終わらせましょう?」

「無理だな。俺は初心者。お前は百戦錬磨。ちょっとは付き合えよ」

「初心者のテクニックじゃないんですよー!!」

「動物、に関してはな」


 つまりこの女は俺を言い様に使って君臨する気だったのだ。

 初対面からどうも初そうだと思われていたのは分かっていた。それだけだった。


 今までと同じ。単なる使い捨て。


 それだけで終わるなんて真っ平だ。


 こんな奇想天外に巻き込んだ責任ぐらい、取って貰おうではないか。


 俺はゆっくり狐の耳と尻尾を愛撫する。

 甘く食み、優しく吐息をかけて撫でる。

 それだけで彼女の体は火照っている。


「んっ……んん……」


 甘い吐息が漏れる。

 その吐息を含むように唇を重ねると素直に舌が絡められた。


「ちが……こんな、こんなの……本当は、私が好き勝手に……」

「可愛いな、お前」

「こんな、無様な時ばかり褒めないで下さいよ!」

「全然、無様なんかじゃねぇって」

「……~!!!」

「好き勝手される気分はどうだ?」


 彼女はもう既によろよろだ。


 丁寧に服を脱がす。


 神による搾取による行為、がどんなものかなんて知らない。けれど、どうせなら気持ち良い方がいいだろう。


 白い肌。薄い皮膚。美しい体。


 きっと多くの人間を魅了したのだろう。


「やだ、ご主人様、急に男にならないで」

「俺は元々男だっつうの」


 彼女には俺はどう写っているのだろう。


 俺とて男だ。欲情もする。幻滅しただろうか。


 けれど拒絶はされない。

 絶頂の余韻に浸る琥珀を横目で眺める。


「前言撤回。やっぱり、さすが百戦錬磨の琥珀さん」


 もう琥珀に聞こえているかは分からないが、俺は甘く囁いた。


「うれしいです」

「……ん? 何が?」

「やっと、私の事を名前で呼んで下さいましたね!!」


 そんな、簡単なことでそんなに喜ぶなんて。今までに夜の相手なんて引く手あまただったろうに。

 どうやらそんな奴らは随分雑に琥珀を扱ったらしい。

 俺は優しく少し湿った尻尾を撫でると、わさわさと尻尾の襲撃に合う。


「ぶっ、苦しいっ!」

「うふふ。私、面白いことに気が付きました! 私とご主人様の瞳の色。お揃いですね!」


 パチパチと二人で見つめ合う。


 確かにそうだ。


 同じ月のような金色。


 本物の月は遥か遠く。今日は銀色に見える。

 すると、琥珀が妙に静かでそっと俺の唇に触れる。


「月なんかより、私を見て」


 なんて甘い言葉だろう。

 優しく、尻尾一本、一本を撫で上げるとビビッと尻尾が逆立つ。


 琥珀の瞳が猟奇的に光る。

 それも良いけど。


 しかし、そこで俺は違和感を覚える。

 彼女は言った。スポーツだと。

 儀式だと。それではあまりに寂しい。俺は琥珀をそっと撫でる。


「はい?」

「何、したことねぇ? 添い寝」

「そいね?」

「そう。こうしてさ」

「や。尻尾の付け根は……」

「ただ、下らないことして。話して。ごろごろすること」

「何の意味が?」

「これに意味なんてねぇよ」


 俺は思わず苦笑する。

 琥珀は月明かりに照らされた瞬間が一番綺麗で、思わず部屋の電気を消す?


「???」

「ただのエロい事だけじゃ満たされないこともあるんだぜ」

「それを、私に教えて下さると?」


 俺は頷く。


「お前、俺が孤児だと知っても驚かなかった。寧ろ心配してた。励ましてくれた。そんなヤツ、初めてだ」

「ご主人様……」

「俺は、もっと俺の事が知れれば、もっとお前に何かしてやれるのかも……って」

「だから、そのマイナス思考が駄目なのです!」


 ピコンとデコピンを喰らう。


「そうだな。感謝してるよ」


 俺はそっと琥珀の唇に触れる。


 驚いて唇を離し、琥珀を見ると真っ赤な顔で毛布に蹲っていた。


「……油断した。……油断した。だって、だって、童貞だって!」


 耳を傾けると何やら聞こえて俺は苦笑する。


「風呂、行くか」


 ブラッシングの動きをすると琥珀の瞳は輝き、返事をするように尻尾が揺れた。


 翌日、琥珀の尻尾は増えていた。

 日光が眩しい。清々しい朝だ。

 琥珀の尻尾は五本に戻っていた。わさわさと今日も揺れる。昨晩、徹底的にブラッシングしたから毛並みは綺麗だ。俺は満足して頷く。


「私、貴方の事を調べます」

「おう」

「しかし、何を知っても、私は必ず貴方を否定しません」

「分かった。……だからさ」

「え?」

「お前も、もっと素で居ろよ。文句は言うかも知れねぇが、俺もお前を拒絶したりしないから」

「ソレ、私がどんな邪な狐でもそう言えます?」


 俺は真っ直ぐ琥珀を見据えて頷いた。銀色の髪が太陽の光に輝き、一本、一本が絹糸のようだ。


「お前と触れ合った時に覚悟した」

「……分かりました。お話します」


 俺はネクタイを結び、そのまま家を出た。


 扉を閉める瞬間の琥珀のポカンとした表情は面白かった。



 高校は何時も通り。閑散としていて、何処か怠そうな高校生達。

 俺の朝は早い。


 朝のロードワークをしながら今日も朝練に向かう。校門のその先に聡が見えて俺は思わず駆け寄った。


「はよ」

「……」

「聡?」


 聡は何処かここにあらずでボーッとしている。

 目の前で手を数回振りかざしても無反応。


 ふむ。


 妙だ。確かにネトゲで夜更かしした時は死んだ様な瞳をしている。


 しかし、どうにも生気が無いと言うか、我、ここにあらずだ。


「さーとーるー!!」


 避けんでも無駄。



 聡はずっとそんな様子だった。


 何か琥珀と関係があるのか。

 そんなことを悶々と考えながら俺は帰宅する。


 その時だ。


 妙な気配を感じて俺は足を止める。


「あら、さすがやわ」


 すごく。すごく。嫌な感じがする。振り向いてはならない。


「何用だ」

「貴方、危ないよ。忠告やん?」


 俺は振り向かず、スマートホンから110番の画面を表示して後ろに向ける。


「あら、賢い」

「聡に手を出したら殺す」


「エエよ。今回はこの辺にしときますわ。東北の帝王、天城瀧臣」


 その声に俺は顔をしかめる。

 やはり、琥珀の関係者か。急いで家に帰宅すると、琥珀は呑気に煎餅を食べていた。


「琥珀……」

「おかえりなさい~! ってご主人様!?」

「不味い、聡に何かあった」

「え、えぇえ?? そんな気配……」

「お前の六本目の尻尾の力は?」

「超高性能な探索です。ですが、ご主人様、そんなことしたら……ご主人様の事もあっという間に」

「いい。本当は、お前にこんなこと頼みたくない。けど……」

「……貴方は、聡さんがどうしてああなったのか知りたい」


 俺は力無く頷く。


 何て無力。


 あんなに、琥珀を雑に扱っておいて。何て。


 俺は項垂れた。


「ちょっと、ちょっとご主人様?」

「でも、今はお前の力が必要だ……」


 琥珀は屈んで俺をしばらく見つめる。


「相変わらず、貴方は他人の為に嘆き、悲しむのですね。良いでしょう」


 その時、琥珀はそっと下から俺の唇に優しく触れた。


「確かに、邪悪な気配がします。しかも、私の元いた社に」

「……え?」


「行ってきます」

「……琥珀!?」


 それは突然の別れだった。

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