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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第十一章 Month Living In Seclusion
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第六夜 下弦の月

 


 ヘリで移動すること数分。数字は刻々と減る。当然だ。いくら父親が政治家で、自衛隊幹部だったとしても彼らにあるのは血統だけだ。

 知識、肉体、血にその血統が染み付いている訳でもない。

 表面上は普通の学生なのだ。


 その血に染み付いた組織。能力。それらを扱える者などほとんどいない。


 荒野は一瞬にして戦場になった。戦車や機関銃。子供らしくそういう物に目が行くらしい。


 そして彼らは言う。


 良いじゃん? どうせ死んでもVRの話だろ? こっちじゃ関係ないね。……と。


 そして雑に扱い方も知らない癖に引き金を引く。


 愁一もこれが本当にゲーム会社のプレゼンならそう思ったかも知れない。


 それでもまだ会話する余裕はあるらしい。まだ遊び半分。そんな様子に愁一は舌打ちする。


 閑散とした砂地の上。砂丘の上からひっそり隠れるように様子を伺うように低空飛行で移動中、魂送師の月臣から通信が入る。

「大丈夫?!」

『うん、こちらには今のところ影響はまだない。企業が買収して色々な所で配信されている。珍妙だが変装は正解だ』

「泉……双子は?」

 愁一は小声で話した。

『何かのグループのように言うな。調査続行中。外見レベルだと大した事は出来ないが、そちらにいる泉、る……っう……』

「月臣君!?」

 通信機が小さく爆発する。その様子を見て類は叫んだ。

『しまった! こっちの回線オシャカにしやがった! どっかに諜報系がいるな』

「それは少し困ったなぁ」


「外部からの支援は?」


 こういうことをしていると自然と類が頼もしく見える。


「あんまりしょっちゅうこの会場についての会話だと少々問題だ。それだと回線そのものがバレる。一度切った方が良さそう」

「分かった」


 類が素早く通信機の状態を確認している時、愁一はまたこっそり通信を月臣に変える。



『どうやら、鍋の中身は闇鍋だな』

「それ、冗談?」

『の、つもりだったがそうでもないらしい』

「……そーだよ! ……でも。君は前よりいい意味で柔軟になったね」

『それは尋也のせいだ』

「へ!? やっぱり合わないの?」

『そうだ。今でも時々桂一と言い争っているよ。それに中々面白いお兄さん、だ』

「嫌じゃないの? あんまり仲良く無さそう、って英治君は言ってた」

『まぁ、確かに合わない所は合わない。時々良く分からないことを言われる。しかし同時にそれがとても興味深いんだ』

「興味深い?」

『上杉尋也はただ、正しいだけではない上手く言えないが、人の業と呼ぶべきものも良く理解している』

「へぇー」

『だから気にすることはない。そちらは?』

「上杉君とはぐれちゃった。本当はあまり良くないんだけど」

『鏡一狼が言っていた。正確な数量は分からないが確実に上杉は侵食されている。本人無意識に、という最悪なやつらしい。気をつけて』

「分かった。ありがとう」

『鏡一狼が座標指定プログラムのプロテクトを解除したらしい。こちらで出来ることはそちらで封じられた上杉のプログラムの解除。こちらも疎いから尋也にも力を借りてる。伝言だ』


「……伝言?」


 どうやら近くに尋也もいるらしい。この二人は本当に気は合う様だ。


『敵が、もう寧斗の人格を完全に失っていたら……失っていなくてもその場で即切れ……ってそれは!』


 デバイスから些細だが手を重ねる音がした。


『頼む』


 これは尋也の声だ。愁一は顔をしかめる。尋也の言うことも分かる。極力これ以上被害を広げたくない、となれば英断だ。しかし。


「断る。俺の依頼人は彼だ」

『これ以上、上杉のプログラムをハッキングされる訳にはいかないんだよ!』

「それでも俺は君たち『個人』を何の罪もないのに殺せないよ」

『イッチー……』

「きっと俺が、彼の内心、内面と会話した最後だ」

『それは危険だぜ! それは……』


 愁一は通信を切った。


 尋也の言いたい事は分かるのだ。

 しかし先に愁一に依頼したのは上杉寧斗だ。

 通信座標指定プログラムのハッキングが解けたならこちらからもアクセス出来るはずだ。


「そっちは誰の通信で?」

「外の知り合いだよ」


 愁一は類の戦闘機にすっぽり収まっていた。何だかオモチャの頭だけ付いたマスコットの気分だ。

 彼女は黒い戦闘服で巧みに操縦している。類と同じ系統で戦闘機を配下にしている者もいるらしい。


 随分、高いところまで飛んだら地上は血を血で洗う戦場になっていた。


 どこの家が優れている。

 ウチが一位だ。家柄なんて知るか。


「すっげー」


 これは素直な感想だ。戦闘機における爆撃は愁一には管轄外だ。どこから敵が侵入するのか、どこに向かって狙撃するのか。そんな些細なことしか分からない。


「だから任せろって!」

「その方が良さそうだ」


 類は飴を咥えながら的確に邪魔な戦闘機を数少ない狙撃で撃沈している。

 空から眺めているとこちらも追撃される。ミサイルが頬を掠めた。


「うわっ」

「全然駄目じゃん。狙撃出来てねぇのに撃ったら自分の位置がバレるだろうが……よっ!」


 たったこれだけの攻撃で類はミサイルの位置を逆探査で経路の逆算から発砲ポイントを探る。


「大丈夫?」

「任せな!」


 彼女は巧みな操縦で緩くスピードを落として敵機後方を捉える。真っ直ぐ、見事に並空している。

 彼女がボタンを押せば敵戦機は追撃。こちらはそのままその場を素早く離脱した。


 素晴らしい、と言える。


 動きが染み付いている。


「妹さんも無事だといいね」

「どうだかな。ペンギンじゃあな……通信する道具は持って来なかったのか?」

「魂送師ってのがいるから必要ないと思って……」


 上空は快晴だった。だから余計、朽ちた建物が崩壊して行く景色が妙にリアルだ。


 まだ、だ。日が暮れるのと同時に刻々と人数は減っている。


 砂埃。義空間の空。類は少し身震いした。



「空はどこまで自由なのだろう」



「……?」

「最近、桂一が言ってたよ。いずれこういう世界は形成されるだろうと。それは良いことなのか。意識の記憶と記録があれば、肉体は要らないのか」

「そんなことないよ。だって肉体がなきゃご飯は美味しくない。人の手の体温を感じられない」

「……そうだな」


 ヘルメットの中で、少女は笑った。


 少女は巧みに東京タワー、第一展望台は少し開けた空間になっていて、ヘリもギリギリ着陸出来た。類の腕があったこそだ。


「ここからは何が起こるか分からない。気を付けて」


 愁一の声に類は緊張した面持ちで首肯く。いい警戒心だ。



『しまった、先輩、こっちに来ちゃいました?』

「来ちゃったよ。……どうしたの?」

『妹、えっと、頼だっけ、闇落ちしました』


「えぇええええ!?」


 類の叫びに鼓膜を押さえる。


「アンタが付いていながら!」

『そりゃ! 悪いっす。けど、アンタの妹も元々相当病んでたぜ!』

「えー?」


 ぴゅー、という音がして、黒いペンギンが類の頭に着陸する。


「上杉君!!」

「上杉に中途半端にハッキング仕掛けやがって。行動制限が多すぎる」

「な、お前……頼は!!」

「何を言っても無駄だった。1、泉頼は上杉寧斗のファンだった。だから頼は今回の茶番に乗ったんだ。違うか?」

「それは……」

「2、更に姉のアンタにコンプレックスを感じていた」


 その言葉に類は瞳を見開く。


「嘘だろ……いつも、ガサツ、ガサツって……」

「社交的で美人で気さく。妹にはこう見えていた」

「それだけで落ちるの?」

「寧斗が誘惑したんだ。勝手に彼女の深層心理を暴いて。……くそっ、血統提供者ならそれは全員可能だ! ……俺は、俺は、寧斗を殺せない」


 明るい展望台。上杉英治は唸られる。


「それは当然だ。全員家族だ」


 類は密かに怒りを感じた。やり方がえげつない。


 家族を人質にするなんて。



「君さ、上杉英治じゃないでしょ」


 愁一は淡々と言った。


「え……?」

「何を……?」


 ライオン師匠はその棒切れのような刀をガンッと地面に差した。


「本当の上杉英治なら、そんな妹さんを放ってこんな所に来ねぇんだよ!!」


 初めて聴いた愁一の怒声に類は驚く。


「貴様、space mirage!!」


「……くく、良く見破ったねぇ」


 ペンギンはマントを姿を変える。

 仮面の男。金髪の長い髪が夜風に揺れる。


「頼、頼は……まだ、英治君の所にいる。大丈夫だから!!」






 ジジッと通信が入る。

 どうやら愁一はちゃんとあっちが偽物だと判断出来たらしい。しかし、このペンギンの姿では限界がある。偽造表面ハッキングとはいえ封じられた上杉の血統プログラムのプロテクトの完全解除には時間を有した。

 仕方なく、この怯えきった少女を動かし一番目立つ第一展望台に身を潜めた。


 兄貴、月臣、鏡一狼でこの偽造空間の解析をしている。

 地上の知識は月臣が回収し、尋也がプログラムの侵食度を計算し、鏡一狼が結界の規模を計算している。


「すっかり、借りだらけだ」

「……借り?」

「……アンタ、妙に自立が希薄、抑揚のない声。姿。自我。……アンタ、……死んでるな」

「ふふふ、そうだよ。良く分かったね。でも、私が類か頼か分かる?」

「……チッ」


 頼は制服のスカートを靡かせ旋回する。

 第一展望台は電気が通って居ないから、暗いホールだ。

 どちらかが欠けた双子の姉妹。どちらが類で頼か。


「ついでに、ここに集められた五百人、全員死んでるな」

「更に正解。その見た目、偽造アバターだね? 貴方こそ何者? 普通の魂じゃないね?」

「当然だ。愁一の会社からの調査結果、ゾッとしたぜ。ここにいる人、一部を覗いて全て故人だと」

「違うよ。新しい世界に精神を移しただけ」

「……なん」

「だって意識があれば肉体なんていらないもの」


 頼(類)の瞳は死んでいた。


「アンタの姉は……」

「お姉ちゃんは知ってるよ。私の意識を取り戻しに来たの。滑稽よね。もう肉体なんてない。お姉ちゃんはある。どっちかなんてもう良いでしょう? こっちに来れば良いじゃない?」

「それはお前の姉に対する侮辱だ!! せめて弔いたい、せめて魂をというのならちゃんと逝って欲しい。それがお前の姉の願いだ!」

「ふん。今まで、私がどれだけお姉ちゃんと比べられたと思ってるの! 迷惑よ!!」


 その時、ぶれにぶれた銃弾が弾ける音がした。頼が銃を撃ったのだ。


 銃が機能を重視し過ぎて自分の大きさに見合っていない。当然、頼は衝撃でよろける。

 ペンギンは十手で素早くその銃を弾く。


「……チッ」


「……10、9、8、7、6、5、4」


 その瞬間、ヘリが第一展望台の中に突っ込まれる。


 ガシャン、と窓が割れてガラスが落ちる。逃げる頼に構わず、英治はカウントを続けた。



「3、2、……1。解析完了。天井。冥界プログラムにアクセス」


 ACCESSーOK


 上杉のプロテクトが全て解除された。

 見えない枷が落とされる。



「頼ー!!」


「もう大丈夫だよ」


「……えっ!?」


 類の後ろに立っていたのは、白羽織の袴を来た真紅の瞳の優男だった。





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