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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第十一章 Month Living In Seclusion
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第三夜 居待月

 もう少し探るには時間が必要だった。


 インターネット、ないし電子ネットワークは本来ならば上杉の管轄である。

 魂送師は少なかれその力の一部を使えるが、上杉程の管理力は持っていない。

 そもそも、狩師の起源と呼べる愁一にすら異端削除プログラムしか備わっていないのだ。魔法、霊力、霊体に対しては強いマイナス作用を持つが現代技術に関しては関与外だった。


 月臣は教師という立場と烏の長とも呼べる従者のみさきがいるので調査に向いていた。そもそも、彼の狩師としての力は月臣への力の補給と調査、収集だ。

 探し物は元々得意だった。

 その間、しばらく日本にいる愁一の家の管理の必要が無くなった月臣は尋也の家に住んでいた。

 結果的にそうなったのだ。最初に変に絡んで来たのは向こうで、確かにいい印象ではないが間違ったことを言っているとは思わなかった。

 そもそも、月臣にしてみたら誰かに怒られる、という状況が興味深かった。


 だから上杉尋也という人間に興味が沸いたのかもしれない。共同生活は案外苦痛では無かった。それに監視、とも少し違っていた。


 教師であり、更に生徒会を任されているが、月臣は基本的に休日は休日だった。休日と夜勤、朝勤がある警察官である上杉の方が激務であるので、家事をするのは月臣だ。そもそも尋也の家は生活感のほとんどないマンションで冷蔵庫の中は最悪、酒とツマミしかない状況だった。いくら何でも酷すぎる。

 だから料理をするしかない。

 元々、月臣はレトルト食品より手作りの料理の方が好きだ。簡単な料理ならば出来たし、分からないことは愁一に聞けばどうにかなった。

 週末は特になるべく料理をするようにしていた。尋也の休みは不定期で更に休みはほとんど寝ている。

 今日も週末で早く帰宅することが出来たので月臣は手慣れた様子で買って来た食材を切っていた。


『あれ、でも元々上杉君のお兄さんの方が絡んで来たんだよね?』


 通話相手は愁一だ。ダイニングキッチンの上にデバイスを置いていた。いいキッチンだが、使用されている様子がほとんどない。


「そうだ。今でも時々桂一と言い争っているよ。それに中々面白いお兄さん、だ」

『嫌じゃないの? あんまり仲良く無さそう、って英治君は言ってたよ』

「まぁ、確かに合わない所は合わない。時々良く分からないことを言われる。しかし、同時にそれがとても興味深いんだ」

『興味深い?』

「上杉尋也はただ、正しいだけではない上手く言えないが、人の業と呼ぶべきものも良く理解している」

『地獄の番人だからかな?』

「そういうきっかけかも知れないが、知っている、ということは相手の業を見て許せる、か許せないか、の天秤が上手い」

『なるほどね』

「最近巷で有名な幼児殺しの調査はこちらの方が得意だ。任せていい」

『いつも色々と悪いね』

「いいや。俺は俺で決めたんだ」

『決めた……』

「彼らと向き合うって」


 月臣は通話を終える。その後、ピンポン、というチャイムが鳴るので月臣は出迎えずカレーの塩梅を待った。


「……っ、たっく、……お、今日はカレーか」

「お帰り。風呂、湧いてるぞ」

「サンキュー」


 尋也は月臣を片手でグリグリ撫でながら冷蔵庫を開く。


「おい! 酒は駄目!!」

「え~」

「酒飲むとお前、泥酔するだろ。せっかくの飯がツマミに……先、風呂」

「いやいや、飯はちゃんと食うから一杯な?」

「……本当に一杯で終わるんだろうな?」

「風呂、先行くぜ~」

「どうぞ」


 その間にカレーはいい塩梅で仕上がる。二人で住んでいるのだから10人前など作るわけなく、あるのはフライパンだ。せいぜい5人前。翌日カレーうどん用。

 カレーの具材たちとトマトでトマトスープも作れる。

 煮ても焼いてもいい。

 我ながら中々上手く出来た。

 愁一が最初に教えてくれたことだ。

『うーん、そうだね、まずカレー系にしよう。カレー系の具ってカレー以外にも色々使えるんだ。それで色々食品回せば一週間は持つよ』

「そうか!」

『後、全箱の中身でカレー作っちゃ駄目だよ?』

「なっ、それは一種の憧れだったのに……」

『駄目、だって二人で10人分のカレーを消費出来る?三日間カレーでギリ腐らないかな。カレーって腐ると処理が大変なんだ』

「わかった! ちゃんと人数分作るよ!」

『料理はそこから。ある食材の回してどこまで出来るか。ちゃんと人数分作ることだよ』

「わかった」

 さすがに一人暮らしを長く続けていたとは言うものの、詳しい。今回は普通のカレーではない。鶏肉を使ったカレーだ。

 市販のルーにプラスして少しスパイスも使った。


 また、簡単にシャワーを浴びたのだろう。黒のジャージ、シャツの尋也はキッチンで動かしそうにしている月臣を捕まえる。


「捕獲。……おっ、こりゃ、フツーに旨そうじゃん」

「フツーではない。ちゃんと作った」

「はい、サンキュー、サンキュー」

「雑に抱き締めるな! 頭撫でるな! 後、酒!!」

「一杯、慈悲を」

「本当に一杯、だからな!! 冷蔵庫にトマトのサラダとワカメのスープがある。鍋の方、温めてくれ」

「あいよー。学校はどうなの?」

「どうも何も。嫌われてはいないんだがな……どうにも舐められている感じがするのは仕方ない。昼になると色々な生徒が昼飯を誘いに来る」

「へぇー。好かれてんじゃん」

「そういうゲームが流行ってるのさ」


 後ろから抱き締める尋也に構わず、月臣は料理の仕上げに入った。

 腰に力を感じて上杉尋也の顎を手で上に上げる。


「ぐえっ!」

「いちいち、触るな。料理が出来るから運ぶ」

「はいはい」


 尋也は基本、月臣の命令には素直に従った。住んでビックリ、月臣には魅了の力が備わっていた。

 料理をリビングに並べて月臣と正面で向き合って座る。


「片付けはお前がやれよ」


 月臣はスプーンでビシリと尋也を指定する。


「いーけど、その間にお前も風呂」

「もとよりそのつもり……あちっ」


 と、彼は鶏肉ごろごろのカレーを大きなスプーンでまた大量に頬ぼっている。


「だから、何で毎回火傷すんだよ。ん」


 尋也は水が入ったグラスを渡す。


「ん、どうも。これは癖で」

「ナニソレ。可愛い」

「……」


 尋也の家には定期ネット買いのミネラルウォーターがあるので飲み物には困らない。それをわざわざ月臣用に氷を入れて差し出した。


 それが出来るぐらいにはお互い馴染んだ。

 月臣の人の良さに呆れる時もまだあるが、確かに激しく自虐的という訳ではないらしい。そういう部分もある、ということだ。

 一度食事に入ると月臣は一切喋らなくなり、食事に集中する。だから話し掛けるには、それなりの技術が必要だ。

 尋也はほとんど眺めているだけだが、会話しようと思ったら、彼が途中で食事を止めてでもすべき話、になる。


 さて、別に一緒に住むことは特に問題ない。が、しかし。

 酔った勢い。喧嘩の延長。言い訳は色々出来る。


「まだ烏応答なし」

「……?」

「いや、お前は気にせず食えよ」


 月臣の親衛隊ならぬ、彼の従者に気が付かれるとちと面倒だ。


「それで、あの双子は?」

「桂一が世話を妬いているらしい。どうも、そのピンポイントの穴が妙で探っていたら、やはりビンゴだ」

「おっ、やりますねぇ」


 尋也は枝豆からプチプチ発射するように豆を発射し、月臣が作った梅のみぞれの上に乗せている。果たして、一杯で終わらせる気があるのか。


「……桂一には言っていないが、そもそも、彼女が泉 類であるかは怪しい」

「へぇ、何でまた」

「泉 頼、というデータが丸ごと消えているからだ。桂一は基本的に生徒は信じる。それに最近は泉 類と上手くやっているようだし」

「あー……リア充が増える~」


 だらけている尋也に向かって月臣は言った。


「そこで、今回の件。監視の意味も含めて泉 類に同席させることにした」


 こんっと豆が卓上に落ちる。


「……マジで?」

「家の血統だけなら非常に優秀だ。愁一のアシストは出来るだろう」

「イッチー、世間知らずだしゲーム苦手だもんなぁ」


「さて、この血統VRとやら。どう考えても我々に喧嘩を売っているようにしか見えないな」

「同感」


 二人は騒ぐニュース番組を消した。

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