表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第十章 Strawberry Moon
72/111

第二限目 生き残る最善の方法

 


 さて、些か妙なことになった。


 消えた泉頼。血塗れの少女。彼女から詳しく話を聞くしかない。


「貴女、怪我は?」

「ない……けど」


 桂一は振り向き、少女を持ち上げる。


「ちょ、お前、汚れるぞ!!」

「構いません。貴女、その姿で自宅に戻るのですか?」


 桂一の言葉に類は固まる。

 血だらけの制服。死んだ妹。


「そ……それは」

「落ち着くまで、仕方ありません。私が保護しましょう」

「え!?」


 慌てている少女を見て月臣は言った。


「桂一は藤堂の教師だ。安心して保護されるといい」

「貴女は藤堂の生徒ですね?」


 その言葉に類は首肯く。


「……生存者がいて良かった」



 桂一はぽつり、と呟いた。



「俺はとりあえず、今回魂送した魂の記録から泉頼という人間を探す。多少、君の血統からも探るが構わないか?」


 類はその明るく、少し癖っ毛の短い髪の青年を知っていた。桂一と同じ藤堂の新任の教師だ。


「ええと、……はい」

「君はまだ精神が錯乱している。しばらくしてから、もう一度確認はする。それまでは桂一の側にいた方がいい。何が起こっているのかも分からないのだろう?」


 月臣の言葉に類は首肯く。

 しかし、月臣の瞳は類を的確に捉えた。海色の瞳が。


「しかし桂一に恐怖はない。妹の敵討をした人間だからと言って、そこまで信用するのか? その男は君の妹を殺した人殺しと同じ人殺しだぞ。結果はどうであれ」


 その問に類は何も答えることは出来なかった。


「その辺にしてあげなさい。貴方が言った通り、彼女はまだ何も理解していない」


 桂一の言葉に月臣はため息を深く吐く。


「良いだろう。彼女は君に任せよう。上杉に報告してもいいが、この状況だと芳しくはない。もう少しこちらで探るが」

「ええ。お願い致します」

「しかし珍しい。桂一。君はもっと、自分の因果を遂行する、情などどうでもいいただの殺人鬼殺しだと思ったが、少々違ったようだ」


 月臣のネクタイが風に靡く。




 桂一の家はただの都内のマンションだ。

 もちろん、実家という場所はあるがそこは秘境であり、どこの地図にも載っていない。泉類は桂一に背負われながらそのマンションに到着する。


「あの……鳩里先生……」


 背負われながら、類はこの男は本当に鳩里桂一だろうか、という疑念が過る。

 類の知る桂一はただの普通の教師だ。

 あまり生徒に関心を持つタイプの教師ではなく、何事も傍観している、という印象が強い。担任の教師なのに、ほとんどのことは生徒に任せ、かといって放任的かと言われればそうではない。不思議な教師なのだ。

 ただ、どこか漂うベテランの空気に生徒は誰もが彼を信用していた。月臣のような人気者ではないが確固たる地位を持った教師、というのが類の印象だ。


 誰かを特別視することはなく。

 誰かに肩入れすることはない。


 しかし、まるで他人事のような空気で人に接することはない。


 不思議な教師。


「着きましたよ。何もないのですがね」

「え……あ、あの」

「貴女の話を聞くだけです。後、その血をどうにかしましょう。後は追々」


 類は頷いた。


 マンションの中に入った瞬間、類はしばらく玄関の前に立たされた。


「家中、血だらけになるのは困るので、先に風呂ですよ。準備しますから、しばらくそこにいて下さい」

「……はい」

「しかし、困りました。女性物の衣服などあったでしょうか」


 そう呟きながら、桂一は家の電気のスイッチを押し風呂の準備に取り掛かっていた。

 内装は普通のマンション。フローリングの2LDK。玄関からリビングまでの短い廊下とキッチン。寝室。至って普通のマンション。


 類にはまだ現実が理解、いや認識が出来ていなかった。血だらけの自分の体。

 何が起こったのか。何故、こんなことになったのか。


「出来ましたよ」

「早い……ですね」

「自動ですからスイッチを押すだけです。服はシャツしかないのですが」


 類は固まる。


「変な気は毛頭起こしませんよ。私は生徒にだけは手を出しません。神という存在がいるのなら誓って」

「わ、分かったよ!」

「風呂場まで運びます。よろしいでしょうか?」


 仕方なく類は頷いた。


「血の付いた制服は全て捨てて下さい」

「……分かった」

「時間は気にしませんから。お好きなだけどうぞ」


 と、類は脱衣場の中に押し込まれた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ