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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第九章 The Reverse Month
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第六夜 不撓不屈

 混沌は笑う。


『今更、貴様が来た所でどうなる!』

「罠に掛かったのはお前だ。ここは今、星の結界の中。そこに出口はない。入り口もない。星が集まった空間の中だ」


 そこはとても綺麗だった。


 ただの永遠に黒い夜空のような壁に星の数々が渦巻く世界。

 混沌は全て悪魔の周囲に集結する。その闇とはまるで違う。美しい世界。


「……すごい」


 まるで星が多すぎて白く見える天の川のような夜空の世界だ。空間なのに、壁のない世界。


「君がちゃんと鏡一狼君の結界を作動しながらここに進入してくれて良かった」

「……そうか。あれが作動スイッチだったのか」


 愁一は首肯く。


『おいおい、もうその物は壊れたのさ。破壊されたのさ。後は死ぬだけさ!』


「黙れ」


 愁一はもう一本の打刀を真っ直ぐ投擲し、悪魔のマントを串刺貫き、星形の薄い板を貫く。見事な投擲だ。それにこの小さな星形は一枚、一枚が結界なのだ。


 大した技術だ。


『あ、ぁああ』

「うるさいなぁ。ただの捕獲でしょう」


 もがいて抜け出そうとする、そんな悪魔を無視して愁一は俺と向き合う。


 俺の体はもうすぐ消える。


 ただの肉体。ただの器。


 消えた所で、何も残らない。

 けれど何故か悲しみはない。この体が肉体だからだろうか。


「君はもうすぐ消えるね?」


 愁一の言葉に俺は首肯く。


 消える。


 光の粒子となって。


「でも、あの剣は消えないんだね」


 その言葉に瞳を見開く。愁一はあの時と同じように俺の手の上に自分の手を重ねる。


 温かい。温かさを感じる。人の温もりだ。


「大丈夫。絶対に倒してみせるから」

「……俺は、消えたら……どこに……行くんだろうな」

「消えないよ」


 愁一は迷いのない目で言った。


「……え?」


「絶対に消えないよ。まだ、君の心は砕けてはいない。折れてしまったけど、大丈夫」


 愁一は優しく頬笑む。


『それは弔いか? 弔いなのか? 随分陳腐な』


「いいや。復活さ」


 俺の体は消える。


 そして新たな転生の渦に飲まれるのだ。


 悔いはない。


 愁一なら、この闇を打ち砕ける。


 最後に帽子を取った。


 邪魔だったので帽子に仕舞っていた色褪せた金髪が肩に落ちる。


 愁一はそれはを瞳を見開いて見つめた。


「やっぱり。気が付いて無かった。俺は女さ」


 時々天然というか。結構一緒にいたのに気が付かなかったのだ。


「……そう。そうだったの……」

「結局、俺は何がしたかったんだろうな」

「大丈夫。どこに行っても君は間違えない。君は剣。俺の力、少し分けてあげるよ」


 そう言って、愁一は俺の唇に自分の唇をそっと重ねた。


 色々な意味で驚くが、この行為に意味はない。愁一の力を俺は受け取った。


 そうか。俺にはまだやれることがある。たとえこの身が砕けても。

 連中に搾取されても。


 あの連中は神なんかじゃない。神を名乗る侵略者だ。


 俺は愁一から受け取った。


 斬る力。己の因果も。後悔も。柵も。無念さえも。


「……ありがとう」


 俺はこの世界でやっと笑った。


 泣いた。


 絶望して希望を見付けた。


 それがあるべき姿。正しい人としての人生。そして俺は消える。正しい形かは分からない。しかし、消える。


 愁一はさようなら、とは言わなかった。

 俺も言わなかった。


『あはははははは!!! 消えた!! やっと消えた!! 煩わしい愚か者が消えた!!』



 途端に魔が蠢き出す。


 悪霊でもない。悪魔でもない。


 ただの混沌。



『愁一、聞こえるか、愁一!! 不味い。悪魔公爵を公爵として留めていた対が消えた。結界からそのおぞましい闇が溢れている。このままでは被害が広がる。一部結界を解くぞ……』

「鏡一狼君!!」

『後は君の力であの混沌を斬るしかない』


 通信が着れる。


 白い結界が溶け、周囲は星形の術だけになる。


 確かに、この闇の混沌は街中に広がっていた。これは浄化しなければならない。


 そんな時に鏡一狼の通信用のネクタイピンから通信が入る。


『しかし大丈夫か? 君の行動が全て外に筒抜けだ』


 どうやら本当に英治の力は弱っているらしい。


「何かのプロモーションってことでどうにかして!!」


『皆、あの悪魔を倒せ、と。聞こえるか?』


「……ああ。聞こえるよ」



 それが光。彼女の希望の星のたち。守りたかったもの。


 まだ残っている。



『さて、処刑人よ。貴様だけでこの混沌を全て切断出来るのか!!』


 悪魔は高らかに笑う。既に悪魔かどうかも怪しい男は笑う。

 廃墟ビルの屋上で。愁一が投擲した刀は弾かれ彼の元へ戻る。


 その刀を納め、愁一は背負っていた黒刀を抜いた。


「俺だけじゃ、ない」


『何を酔狂な』


「君が言ったんじゃないか。彼女の体は器であり、この剣が心だと。その心はまだ砕けていない」


 コンクリートの上に転がった剣の柄。折れて十字架の上だけになってしまったその柄を愁一は握る。


 愁一の力に剣は答える。



「さあ、行くよ。悪魔公爵さん。死ぬ覚悟はいいか」


 愁一はその二本の刀と折れた剣を構える。


『死? この私に死だと!!』


「そうだ」


『この私は死、そのものだ!!』


 魔が悪魔の魂をまるで物のように操り愁一にぶつける。


 愁一は静かに己の血統で黒刀の力を解放した。刃の色が黒から白銀に変わる。


 そして躊躇うことなくその悪霊を斬った。斬って、斬って、斬りまくり、悪魔の元まで一気に走る。


『馬鹿な! 何故、躊躇わない。何故、臆しない。貴様が斬ったのは』


「魂の怨念。それだけだ!!」


 カンッと悪魔の真横に刀が刺さる。後ろにあったのは星形の術だった。


『これは……』

「それは壁。俺が望んだ時に、壁になり、望んだ時に結界になる仲間の術。そっちはもう終わりかい?」


『ふざけるな!!』


 混沌の闇の深さが増した。しかし、悪魔は動けない。必死に刀から自身を引き剥がそうとしている。


「流石ただの幹部。君は結局、小物なのさ」


 愁一は折れた剣を掲げる。


『何を……』


「彼女はまだ死んでいない。闇の対は光。俺だけでお前は倒せない」


 握った手に力を込める。まだ生きている。


 まだ砕けていない。心も。希望も。


 それさえあればこの剣は砕けない。


 十字架の剣は光る。刃が光で構築され、闇を貫く光となる。


『馬鹿な!! その魂はもう罠に掛かって死んだウサギだ!! 何故、甦る!!』

「甦った訳じゃない。俺が少し力を貸しただけだ。彼女は自ら立った。お前と、彼女をこんな姿にした『神』とやらを倒すために」

『なんだと、なんだと、なんだと!! そんなことをすれば魔王は消える。勇者も消える。転生者も消えるんだぞ!!』


「彼女はそれを選んだ。世に永遠はない。俺はこの力を受けとる代わりに彼女に力を渡した。断罪の刃を」


 剣は光る。混沌の闇を晴らすように。



『馬鹿な!! そんな馬鹿なことを!!』

「それが彼女の導いた結論だ」


 その答えに愁一は力を持って答える。


 闇を晴らす黄金の光。


 その閃光を悪魔に向けて放つ。


 その閃光は彼女と繋がる。


 転生の先にいる彼女と交差する。


「やぁああああ!!」


『やめろぉおおお!! それは世界の破滅だ!!』



「違う!! それはお前らの死だ!! 世界の循環だ!」


 その握られた手に彼女の手が重なる。これは魂。


 概念だ。


 光が闇を貫通する。



 愁一は力を、血統を解放した。


「受け取るがいい。貴様らが弄んだ死を!」


 そして放つ。


 白銀の閃光を真っ直ぐ、放った。


「行けぇえええええ!!」


 彼女と声が重なる。


 その光は断罪の刃。


 全てを貫く刃の光。


 闇を、因果を、因縁を。彼女により繋がった、彼女の世界の生死転生支配の輪廻に向かって、閃光は走る。


 一筋の流れ星のように。



『あ、ぁ、ああ、ぁ……』


 苦しそうに魔はもがく。


「そう。それが死。突如訪れて、全てを失う。感情も、怨念も、柵も、全てを」


『ば、……かな……ぁあああ!!!』


 悪魔は無様に消える。断末魔がビルの屋上に響いた。


 そして愁一の持つ、十字架の剣も消えて行く。キラキラと光の粒子となり、夜空の星のように消えて行く。


 愁一はその剣の柄の先にそっと唇を触れる。


「君こそ、真の勇者、そして救世主だ。君の……本当の名前は……」


「……」


 消え行く瞬間、小さく耳打ちされる。世界の救世主の名前を。


「ありがとう……」


 愁一は最後にその名前を呼んだ。


 消える瞬間。彼女は少しだけ微笑んだ表情になった。


 美しい光の粒子は夜空に消えた。



 ビルの屋上に立っているのは愁一だけだった。


 ただの夜空。





「彼女は……これで良かったのかな?」

「……良かったんじゃないっすか?」


 その隣には英治が立つ。愁一が斬った悪魔の魂は全て彼によって冥界に送られていた。


 これは愁一だけの力ではない。鏡一狼がいて、英治がいて、たくさんの仲間が力を貸してくれた。もちろん、彼女も。


「最後が自己犠牲……それで本当に……」


 しかし、彼女は分からない。彼女はこの世界の人間ではないから。彼女は彼女の世界に戻れたのだろうか。


「それでも。それで彼女は最後に自分で選んだ。本当の救世主になった。勇者以上の存在になり消えた。それは彼女が選んだことじゃないっすか?」


「……そうだね」



 愁一は英治と向き合う。


「きっと、俺が彼女の立場でもこの道を選んだと思う」


「……先輩」


 夜のビルの屋上は日常に戻る。何事も無かったかのように。


「俺は自分で選んで、自分の答えを導き出すよ」

「……はい」


 愁一の瞳は夜空に真紅に光る。涙はない。


「しかし……先輩はやろうと思えば一人であの悪魔ぐらい倒せたでしょう。何故、こんなことを?」

「……彼女の力で倒したかったんだ。どうしても……」


 生と死を受け入れ、この世界を受け入れてくれた彼女の力で。


「先輩。貴方は自分で選べる。自分で判断出来る。その判断を実行することが出来る。俺は何があっても貴方を信じます」


「……英治君?」


「これは、全魂送師、そして狩師の総意です。最後の式典。そして一つの願い。それは先輩が決めて下さい。獅道愁一が決めるのです」


「……俺が?」


「今回のことで良く分かりました。貴方が相応しい」

「……そう」



 そうは言われても、今の愁一に願いなんて無かった。


 ただ、その時は遠くないと、直感で分かる。



 その時己は何を願うのだろう。





 I'll meet you in next night.

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