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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第八章 Solar Eclipse
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三つ目 校庭に無数の足首

 

 最初はともかくとして昨晩の学校の七不思議の怪の結末は非常に残念なものだった。


 翌朝、目覚めてみさきは余計にそう思う。


 七不思議の一つが浮浪者のオッサンはない。そんな残念なオチはない。

 と。しかし、それは翌朝、目覚めて冷静になってみれば、の話だ。


 いつも通りの朝を迎えて、みさきはそもそも月臣の反応が可笑しいという決断に至る。いくら何でも堂々とし過ぎだ。

 こちらの恐怖心が薄れるぐらい。


 もう夏間近なのだが、みさきは案外寒がりで朝と帰りははまだ冬の制服を着ていた。何かを忘れている気がする、と思えば昨日月臣に貸したセーターだ。


 まだ、会う機会はあるだろうし後で返してもらえばいいか、とみさきは家を出る。


「そういえば残りの七不思議ってなんだったっけ」


 と、下駄箱で靴を履き替えている間にふと思い出す。


「七不思議とは案外、そういうものだ。明確なのは地域によって一つか二つで後は場所や現象に微妙な誤差がある」


「うわぁあ!?」


 気が付けば、スッと月臣が後ろに立っていた。

 相変わらず堂々としている。夏服に生徒会長の腕章をしていた。昨晩は暗かったし月臣はみさきのセーターを着ていたから分からなかったがこの人は生徒会長なのだ、と今更実感する。


「おはよう」

「おはようございます……」


 月臣はスッと紙袋をみさきに差し出す。中はそのセーターだった。


「あ、どもっす」


「一応、消臭剤ぐらいは吹き掛けたがそこまで汚れていなかったのでハンガーに掛けたぐらいだ。クリーニングまではしていない」

「いえいえ、いいっすよ。どうせ衣替えが終わればクリーニングに出しますし。ありがとうございます」

「後、もう一つ頼みがあるのだが」


「へ? 俺に?」


「そうだ。さっきの話に戻るが、俺は七不思議の全貌と誤差の種類を知らない。放課後までに一つか二つでいいから調査してくれないか?」

「どうして俺が?」

「内容だけで構わない。俺は噂に興味がないし、そういう話を聞いて回るのも好きではない。君の方が適任だろう」

「で、会長が事実を調査してくれるんですか?」

「当然だ。ただ噂と現実の差は多少ある。昨晩のようにな」

「ええ。分かりました」


「じゃ、そういうことで」


 と、月臣はそのまま去る気だったのでみさきは慌ててその腕を掴む。


「いや、ちょっと、連絡先ぐらいは交換しましょ?」


 月臣はきょとんとみさきを見上げた。


「……必要か?」

「必要です!」

「……分かった。携帯の番号だ」


 彼はあらかじめ数枚持っているのかポケットから携帯の番号が書かれたメモをみさきに渡す。


「……ラインとかは」

「やっている訳ないだろう。緊急時以外に連絡したらぶっ殺す」

「……うっす」


 やっぱり、変な人だ!


 とみさきは月臣の後ろ姿を見て思った。

「……あっ、」

 何を思ったのか、突然月臣は小走りで戻って来た。

「どうしたんすか?」

「……いや、……五の付く数字には気を付けろ!!」


 と、だけ叫ぶとまた走って行ってしまう。


「……五??」


 その時、みさきは下駄箱でごそごそ動く影には気が付かなかった。




 とりあえず、みさきはレポートを頼んで来た女子に報告することにした。


 クラスメイトの女子はショートカットの少し気弱だが真面目で優しいタイプの女子生徒だ。

「っていう訳で鳩里先生に提出っていう感じになっちゃったけど」

「うん、大丈夫。ありがとう、八咫君!」


 教室でさっと伝える。


「いやぁ、それはいいんだけど、冴木さんってこの高校の七不思議って知ってる?」

「七不思議? 知ってるけど、詳しくはないかなぁ。確か数字が関係あるとか……あ、でも、校庭に無数の手足が出るって聞いたことあるわ」


「校庭に?」


「いや、それは校庭を無数に駆ける足だろう」


 隣で聞いていたらしい男子生徒が口を挟む。


「えー足だっけ? 俺は墓地って聞いたぜ」

「墓地は墓地で別だよ」


 噂話はあっという間にクラス中に広がる。

 思わず、みさきは叫んだ。


「ストーップ。そもそもの情報ソースは何?」

「確か体育祭の写真に写ったって話」

「それは卒アルだろ?」

「何年だっけ?」

「不吉な数字だったような……」


 まるで聖徳太子になった気分だった。


 月臣の言う通り、一つあれば七つあるのが七不思議。一つの噂には複数の別例。チャイムが鳴ったので、みさきは授業中にこっそりとどれだけの噂が出たのかまとめた。


「つまり、校庭に何かがあるって訳ね」


 調度、窓際の席だったので外を眺めてみると三年が体育祭の授業をしている。


 今日はランニングらしい。しかし、足が無数には見えない。一応、じっくり観察したが人数分きちんと揃っていた。後は卒業アルバムの確認だ。それなら昼休みに図書室で出来る。


 ところが放課後、図書室に行くと卒業アルバムが無くなっていた。


「なんでぇ!?」


 あったであろう場所はごっそり空白になっている。困ったみさきは月臣に相談するために生徒会室に向かおうとした。


「ふふふふ、そう来ると思ったわ」

「……え?」


 後ろから誰かが付いて来る。まさか噂の無数の手足なのだろうか……

 意を決して振り向くと、そこに立っていたのは眼鏡のツインテール美女だった。


「……え?」

「これ以上、会長に近付かせないわよ!」

「……いや、誰っすか!!」

「私は生徒会書記兼生徒会長専属SP、五十嵐逢瀬」


 と、不思議なポーズをしているが一応眼鏡のツインテール美女だった。


「いつから専属になったんだ」


 そんな美女を月臣はためらいもなく分厚い辞書で殴った。


「痛っ! これが愛の痛み!!」

「先輩!」

「だから、五には気を付けろ、と言っただろう」

「……え、まさかこの人が犯人?」


 月臣は軽蔑した瞳で五十嵐逢瀬を見つめる。


「……まさか。君、俺以外にもそんなことしているのか?」


 彼女は月臣を抱き締めようとしているのか手が無数に見えるほどぐるぐると動いていた。いくら美女でもさすがのみさきも引くレベルだ。

「まさか、まさか。……あぁ、今日もたまらない瞳です、会長!!」

「分からないが、分かった。それで? アルバムは何処にやった」

「はい! 会長が探す手間が省けるように生徒会室に運んで置きました!」

「事が済んだら戻すように」

「ラジャー!!」


 なんだ、この残念美女は。みさきはただただ二人のやり取りを呆然と見つめた。


「行くぞ」

「へ、……はい!」


 月臣と共に歩き出すと、物凄いプレッシャーを掛けながら睨まれた。


 昼休みに二人で生徒会室に向かう。確かに手間は省けたけど。

「あの人が犯人ってことは……?」

「五十嵐が? 無いな」

「でも、俺が調査する前よりも卒業アルバムの件、知ってましたよ」

「それは彼女が俺のストーカーで最近、俺の周囲にいる君を警戒していたんだろう。彼女も噂話には興味がないタイプだ」

「会長のストーカー……」


 確かに彼女の瞳は狂人と言っていいだろう。何に、と言うと目の前の月臣に対して。


「三年の間では有名人だぞ。残念美女ってな」


 そんな話をしている間に、生徒会室に到着した。


 そこには机の上に大量の卒業アルバムが置いてあった。

「……すごっ!! これじゃあ、どこから探せばいいのか……」


「分かるぞ」


「……え?」


 月臣は一冊の卒業アルバムを持ち上げる。


「集合写真や、行事の写真があるページの写真解像度が悪い年。もしくは、白黒の年を中心に探そう」

「……まさか」

「そう、そのまさかだ」


 ゆっくりと流れる時間の中、みさきは月臣と二人で卒業アルバムのページを捲った。

意外と写真が載っている部分やカラーページは少なく手間ではないのだが気が付いたら月臣の側にお茶と茶菓子があった。

「あ、どもっす」

「アルバムの上に溢すなよ」


「はい……あっ!」


「……あったのか?」

「いや、これが……」


 みさきは一冊の卒業アルバムの行事写真を指差す。


 白黒で解像度も低い、体育祭の写真だ。


 丁度、マラソンランナーがスタートした所である。これがカラーならいい写真だっただろう。しかし写真はぼやけ、足元の部分は影分身でもしているかのように残像だらけだった。


「ビンゴ。それだ。何か、嫌な感じでもしたか?」


 月臣はその卒業アルバムを弾いた。


「え……いや、ちょっと……古ぼけているな、って」

「今は?」

「……あれ? 特にはないっす。会長、何かしたんですか?」

「……いいや。何も」


 月臣は表情一つ変えず立ち上がった。流石に月臣が立てば彼の方が背が高い。


 海色の瞳に見つめられる。


「次は校庭でしたっけ?」

「君がそう思うのなら、そうだろう」


 近い。今までになく。


 まるで瞳が青く光っているように見える。それはとても綺麗だった。


「俺が……そう、思う?」

「どうやら昨日は思ったより霊力を消費した。君から少し貰うが、いいかな?」


「……え?」


「大丈夫。多少なら君は食事や外の空気からまかなえる」

「……え、っと、どうぞ?」


 コツン、と月臣の額が肩に触れた。

不思議と嫌な感じはせず、妙な空間だった。


「ここまで魅了しやすい人間も珍しい。流石に記憶は消しておいてやろう」


 月臣はパチンッともう一度指で音を鳴らした。




 気が付けば放課後だった。


「……あれ?」


 もっと何かがあった気がするのだが、みさきが覚えているのは次は校庭、という言葉だけだった。



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