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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第八章 Solar Eclipse
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一つ目 美術室の絵が動く

 

 一ノ宮月臣の周りの総評は常に極端だった。


 素晴らしい人物であるか、怖い人物であるかだ。


 八咫みさきが出会った、というより黙認したのは当然、入学式で始めて見た時だ。失礼ながら小さいな、と思った。


 しかし、その小さく童顔な見た目に反した演説は教師よりハキハキとし堂々としたもので単純にみさきには生徒会長、としてインプットされた人物である。


 そうなると、良く、まじまじと観察することなんて早々なく、演説は常に簡潔でそれだけではどんな人物か知るのは難しい。


 純粋に柔そうな金髪と海色の大きな瞳が綺麗だ、という印象しかない。

 しかし実際に会話するとまた違う。


 すげぇ、めちゃくちゃ偉そう。


 が、第二印象だった。


 堂々としていると言えば聞こえがいいが小さいが姿勢が良いので威厳がある。


 それに表情がいちいちその童顔に似合わない。

 みさきの話を信じているのかさえ疑わしく月臣は確認するために前を歩いている。


 こんな暗闇で怖くないのか怯む様子はない。そして寒くないのだろう。白い肌に異変もない。

「気分でも悪いのか?」

「……え?」

「引っ付き過ぎだ。それに先程から歯ぎしりが凄いぞ」

「だ、……あ、……その、寒気がして」

「なら、なんでセーターを貸すんだ」


 呆れた顔で月臣はセーターを脱ごうとする。


「あ、いいっす! 着ていて下さい! 見てるこっちが寒い!」

 思わず、みさきは顔をぶんぶん振る。果たしてこの人に霊が見えると言って信じてもらえるのだろうか。

「所で君は霊でも見えるのか?」

「……え?」

 だから思わぬ問いに驚いて月臣を見つめる。

「あからさまにそういう動きをしているぞ」

「そ、そういう先輩は……」

「神社の神主だが」

「……やっぱりぃいい!!! なんかあると思ったぁああ!!」

「うるさいな」


 月臣はずんずん進む。

 慌ててみさきは後を追った。


「待って下さいっす!! 見える、っていうか、感じるっていうか……むしろ寄って来るっていう感じで……先輩は……」

「むしろ寄って来ない」

「デスヨネ!!!」


 なんてたって強すぎる。


 何かが……とは言い難いが。半端ない力をみさきは感じた。


 この辺にいた霊が一気に消し飛んでいる。だから離れられないのだ。

「で、どの絵が動いたんだ?」

「超マイペース&冷静!!」

「あ?」

「いや、すんません! あの、奥のカラスの絵っす」

「なんだ。絵のカラスが飛んで逃げた、とでも言いたいのか?」

「……」

「女子学生のノートを持って?」


 冗談のように言われたその言葉にみさきは黙るしかなかった。


「ま、実際に見て確かめよう」


 月臣は一欠片も恐怖せず美術室の扉を開いた。


 みさきは怯えながら、あっれ?こんな展開になるんかい!と心の中でツッコミを入れる。


 しかし実際にみさきがどれ程ビビっても月臣が動じることはないのだから仕方ない。


 みさきは夜の美術室というワードだけで怖い。


「で、どの作品だ」

「……あれです。あの奥の……」


 そこまで行ってみさきは思う。


 絵を見ても今はただの白いキャンバスだ。


 これでは本当にカラスが飛んで逃げたのだと信じてもらえる筈はない。良くて笑い者である。絶望しかけたみさきを前に月臣は言った。


「……なんだ。上杉の絵じゃないか」


「……え?」

「ほら。キャンバスの下に受賞者の名前がある。二年の上杉英治だ」

「知り合いですか?」

「同じ生徒会だからな」


 月臣はキャンバスの下にある金色のプレートをペンライトで照らした。

 上杉英治という名前がある。

 しかしキャンバスは真っ白だった。

「ますます焦臭いな。確かに、上杉はカラスの絵を描いていたし、おそろしく達筆で本物と見間違えるほど上手かった」

「そんな、俺、見間違えてなんて……!!」

「そこだ。本当にカラスが動いたのなら原因はなんだ?」

「……え? ほら、れ、霊的な……」

「可能性の一つだ」

「じゃあ俺が見間違えたって言いたいんですか?」

「それも無くはないが……やはり可能性の一つでしかない。何故なら、この絵を描いた人間も相応の力を持っているからだ。上杉の描いた絵が動いた、ぐらいなら不思議ではない」

「……え、じゃあ、その上杉って先輩は……?」

「結論を言うと面倒なので今は関わりたくない」


「え~そんな個人的な理由で」


 みさきは思わず微妙な顔で月臣を見つめる。


「仕方ないだろう。頼み事を蹴った後にどの面下げて行けと」


 月臣も居心地の悪そうな顔で腕を組んでいた。


「じゃあ、先輩が一緒に原因を追及してくれるんですね!」

「……」


 嫌そうな顔で睨まれた。


 しかし身長の差というものは大きい。下から見上げられると見え方も違って来る。この人こんな表情もするのか、とみさきは思った。


「面倒な……式神を連れて来るのを忘れた……」


 月臣は月臣で何かをぶつぶつ言っていた。


 そして、しばらくして何かを切り替えるようにみさきに向き合う。

「良いだろう。つまり君は俺が神社の神主であり、何かしら霊的な力を持ち、そしてそれらに影響を与えることが出来ると信じる訳だ」

「え? そりゃ……信じますよ。言われなくても」

「いいや。確認は重要だ。例えばこの一件、巡りめぐって君が犯人だったとしよう」

「……え!? そんな訳」

「仮に、だ。それで君は俺がそうだと判断したとして信じるのか」

 月臣はみさきを見定めるかのような瞳で見つめる。教室は暗いはずなのに、その瞳は青く光って見えた。


 つまり八咫みさきは一ノ宮月臣を信じるのかという話だ。


「信じますよ。一ノ宮先輩が神社の神主で、そういう力を持っている人だって」


 みさきは頷いた。


 自分の直感と感覚だけは疑わない。それが霊的な力を感じていると思っているみさきの信条だった。しばらくの間を置いて、月臣は頷いた。


「良いだろう。七不思議の解明、生徒会の依頼として認めよう」

「なんか、そう言うと格好いいっすね!」

「アホか。いいか基礎中の基礎だ。負の連鎖は繋がる。一つ起きれば七つある。それが七不思議というものだ」

「でも先輩は噂は信じないって言ってましたよね?」

「ああ。そんなものは信じない。だから知らない。なので協力してもらうぞ」

「えぇええええ……」

「言っただろう。ある一定の力の持ち主としてお前が原因の可能性もある」

「……仮に、そうだったとして先輩は……」

「安心しろ。悪意さえ無ければ綺麗に浄化してやる」


 月臣はいい笑顔でペンライトのスイッチをカチカチと押した。


 つまり、みさきが霊が見えるという事実を信じる、という話だ。

 ここまでえらく長い道程だった気がする。


 普通の、まぁ、知り合いの会話なら「お前って霊が見えるの? マジで?」で済む話だ。


 さて、と調査に動く月臣を見て、みさきは何となくこの人は人間関係下手なのか……と思った。


「それで、どこに飛んで行った?」

「旧体育館の方っすよ。向こうは校舎と違うので」

「で、七不思議のもう一つは」

「旧体育館のトイレのイトウさんです」

「典型的なトイレの花子さんの亜種か」

「……もうちょい言い方なかったんすか?」


 何も言わず月臣は歩き出す。


「え、まさか行く気ですか!?」

「当然だ。推理が正しければカラスは七不思議の発生場所に向かう。どれかに先回りして姿を目視するしか方法はない」

「えぇええええ……」

「……それと」

「……はい?」

「君は少し馬鹿正直過ぎだ。チャラい癖に」

「チャラいのは余計じゃ!?」

 急に罵倒され、みさきも驚いたが月臣は真っ白なキャンバスの裏側から何かを取り出した。


 それはノートの切れ端だった。

 丁寧に広げる。

 そこには文字が書いてあった。それを月臣はみさきに見せた。



『次は八咫』


 みさきは寒気に両腕を抱える。


「犯人はお前にノートの回収を頼んだ女子生徒の可能性もある。まだ何と断定出来るほどの証拠は何もない」

「……何で、そんな冷静なんですか……」

「信じていないからさ。何もな」


 月臣は顔色一つ変えず言った。


 今日はやたらと暗い。暗いのは月が出ていないからだと気が付いた。


「七不思議の一つで、一の付く名前の人が始めて最後に八で終わるっていうのがあるんです」

「それで? また八から一まで戻るのか?」

「何で分かったんですか?」

「単純に無限性を示唆したらそうなる。八の人間は異次元にでも行くんだろう」

「自分は関係ないからって簡単に言わないで下さいよ!!」


 みさきはぽこぽこと軽く月臣の腕を叩いた。


「無関係ではない。俺の名前にも一応数字はある」


「……あ」

「つまり一の付く名前の人間が始めなければ八まで辿り着かない。一が七不思議の一であり、八で終わる。次が美術室。もう一つが旧体育館。後……」

「四つだから……三つっすか? 意外と少ない」

「そうだな。しかし一の付く名前の人間が犯人だとすると案外多い。後に繋げたのが面白がって関係のない人間だとしても。逆に八の付く名前の人間は少ない。年に一人いるか、いないかだ。だから発生したと考えられる」


「先輩はまだ俺を疑っているんですか?」

「ああ」


 月臣があまりに素直に頷いたのでみさきはガックリ項垂れた。


「何でそんなことするんですか……」

「暇だから」

「……え?」

「理由なんて絶対にそんなものだぞ。暇だから。退屈だから。何かが起これば楽しい。いじめの原因もそんなものだ」

「……そんな」

「人の感情とは時には醜いものだ。だから怨念が生まれる」

「……」


 みさきは何も言い返せなかった。

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