夜の暗黒の光
こうして愁一は日本に戻って来たのだ。
夜弥は相変わらず付いては来るが風貌が以前と全然違っていた。
まず、普段は一人で堂々としている彼女が素直に愁一に付いて歩いた。
それが英治に伝わればいいのだが世の中はそう優しくない。
「どうして俺に付いてくるの?」
愁一は夜弥に再び問いかけた。道中に世間話でもと多少、夜弥とは会話した。
彼女はもう反発もせずに大人しくしている。いや、これが素なのだろう。一族によって祭り上げられたのが殺人鬼の姿なのだ。
「私も上杉に認めてもらいたいの。確かに殺人鬼の刀飾はいた。でも今は違うわ。私は相応の罰があると思うのよ」
「それは……」
「確かに怖いわ。けれど私の望みは殺人集団刀飾の滅亡よ。これはあの指輪ではない。私が自らしなくちゃいけないの。だから今すぐに相応の刑を受ける訳には行かない。それを認めてもらいたいの」
確かに彼女は変わった。しかし、堂々とした姿は変わらず意思の強さも変わらなかった。
空港での手続きを全て終えて二人は一度愁一の家に向かうことになった。
英治に久々に会うのだが、やはり家に直接という訳にも行かず。
場所は電話で藤堂高校を指定された。
「え……どうして」
『色々と都合が良いからです。夜なら人気も少ない』
電話は繋がるには繋がるが英治との会話はいつも綺麗サッパリとしている。
仕方ないにしても一度友情を交わした友の反応がこれだと思うと少し寂しかった。
高校にはまだ悪霊が彷徨いていた。狩っても狩ってもキリがないのだと一度、月臣に聞いたことがある。
「こんな白けた場所を指定するなんて上杉もどうかしているわ」
「試す気なんだよ」
「試す?」
「そう。君が本当に変わったのかね」
「そんな……!」
「直接会うには色々と大変だと思うなぁ。何せ一度君たちハッキングしているし」
「それは……」
こうして向かうことになった高校の入り口は既に暗くどんよりとした空気に満ちている。
「……分かったわ。上杉の挑戦、受けようじゃないの」
「え?」
「ここの悪霊を冥界に送りながら頂上に辿り着け、って話でしょう?」
「そうだね……」
「でも見るに大した悪霊は居ないと思うけど」
藤堂高校とはまた懐かしい場所だ。
ここは愁一が始めて現世に降り立った場所でもある。
そうして、今回と同じように屋上まで悪霊を狩ながら登るという試験を受けた場所でもある。
あの時は降り立ったばかりで何が何だかろくすっぽ分からなかったが今回は違う。
ちゃんと目的を理解した上での行動だ。
夜の藤堂高校は静かだったがしかし、何かが蠢く気配はした。
「簡単には行かないって話でしょう」
夜弥は胸から刀を取り出した。
愁一はその行動に驚いた。
「夜弥さん!?」
「お荷物はゴメンなのよ」
愁一が持つ刀とは色違いで鞘が白い刀だ。
「それは……」
「これは貴方が持っている刀の対よ。そして刀飾の家宝でもあり命でもあるの」
そう言いながら夜弥の姿は段々と薄れていた。
そんな夜弥に刀を手渡されて愁一は慌てて受け取る。
「貴方になら渡して……というより貴方にしか渡せないわね。私はその刀と繋がっているから。後は頼んだわよ……」
そう言い残し夜弥は消えて行った。
愁一は残された刀を握って強く決意する。
「必ず屋上まで行って君と英治君を合わせるから」
そうして愁一は藤堂高校の中に入って行った。
一時期愁一も通っていた藤堂高校は懐かしかった。相変わらず余計なものはないシンプルな校舎で夜になると悪霊に満ちている。
愁一は刀を二本抜いてその悪霊に立ち向かった。
走りながらもどんどんと悪霊を狩るのもまた懐かしい。最近は人物と対面する事が多かったからここまで迷わずに狩るのもスッキリする。
狩った瞬間に悪霊は消えているので英治が魂送しているのだろう。
その感覚も久し振りだった。
二階まで登った瞬間だった。
階段の踊場に大きな悪霊が姿を表す。
唸り声を上げて両腕を広げる悪霊は例えるならば大きなゴミの山に手足が付いた状態、というのが一番しっくり来るだろう。
愁一は二本の刀で闇に包まれた手を防ぐ。
そのまま二本の刀の力を解放する。黒い刀は金の光を放ち、白い刀は暗黒のオーラを放つ。
その刀で悪霊はクロスする攻撃に沈んだ。
屋上までもう一歩だ。