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輪廻血戦 Golden Blood  作者: kisaragi
第二章 First Quarter Moon
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第一夜 襲撃流星群

 

 足利義輝の朝は瞑想から始まる。

 しかし義輝は学校の寮で生活しているため部屋は狭いしベランダに洗濯機があるという状況だ。


 本当は朝に修行もしたいが仕方がない。

 料理スキルはそこそこある。

 実家が苦手で一人で生活することが多いため自然と身に付いた。


 しかし苦手であることに変わりはない。



 朝食の後、剣道部で練習をして授業に出る。


 ずっと生徒会長は空席だ。


 三年は自由人が多く『例の事件』もあり立候補者もいないからだ。

 宗滴がずっと二年の幼馴染みに頼んでいるが何故か断られている。


 剣道、学校、生徒会。

 己でもつまらない日常だとは思うが平穏でもある。



 義輝は顔が怖い、怖い、と恐れられるのが常だ。

 しかし、これでいいのだろう。

 と、どこかで諦めていた。


 獅道愁一に出会うまでは。


 最近は自分に対する見方が少し変わった気がする。


 どこが、とは言えないが。


 最近、留学生のケイが消えたと愁一から連絡があった。


 そんな時、高校の廊下ですれ違った際に愁一に頼まれたのだ。


「お願い。ケイさんを探すのを手伝って欲しいんだ」

「それは構わんが……俺にもやることがある」

「分かってる。出来る範囲でいいよ」


 愁一は必死だった様に見えた。

 義輝にとって、あの金髪美人との関わりはほとんどないが愁一の頼みとあらば引き受けても構わないか……とぼんやり思った。


「いいだろう。しかし、あまり期待するな。俺の行動範囲は広くない」

「ありがとう」


 愁一は笑顔でお礼を言った。

 彼は記憶喪失だからか誰にも偏見を持たない。だから多くの人に好かれるのか。それとも彼自身の人徳なのかは分からない。


 しかし彼に嘘を吐くのは少々心が痛む。

 あまりケイに構ってられない理由は刀飾を探し倒す為だ。


 正式な魂送師がいない義輝は英治には頭が上がらない部分がある。


 生徒会、剣道部を疎かにすることも出来ないので、やれる範囲だが義輝は刀飾を探すために今日も竹刀を持って学校を早めに出た。



 校門で変な少女を見付け足が止まる。


「ふーん。ここが姉さんが通ってた学校か」


 まず銀髪だ。ふわふわした銀髪で短髪の少女が校門周辺をうろうろしている。

 一応、義輝は生徒会副会長なので不審者を見過ごす訳にはいかない。


「貴様。そこで何をしている」

「貴様? 随分、偉そうだな」


 他校の制服ブレザーの少女が義輝を見上げた。紺のブレザーに紫のネクタイ、スカートはこの辺では見ない制服だ。

 そこで義輝は気が付く。


「お前、魂送師だな」

「そこに気が付くとは……お前も中々だな」


 偉そうなのは見過ごすとして。ブレザーのネクタイにはネクタイピンが着いていた。


「お前、歳下だろう。歳下は敬語を……」

「我が名はカイウス・セグシオン・フォンベルン。フォンベルン家の三女にして第三王女だ! 頭が高いぞ!」



 変なポーズを決めた少女はどう見ても変に構うと厄介なことになるタイプの少女だ。



「そうか」


 と、一言残し。義輝は早歩きでその場を去ろうとした。


「お前、狩師だな」


 しかし竹刀袋を掴まれて足が止まる。義輝はいい加減イライラして少女と向き合った。


「いいか。まず、俺は高校三年生だ。お前の姉は高校二年。つまり、お前は高校一年生、もしくはそれ以下ということになる。年上には敬語を使え」

「やだ。だって王女だもん」


 この少女は己が怖くないのだろうか。鏡で見た訳ではないがきっと恐ろしい顔をしているだろう。


「お前な」

「だって俺は俺に見合う狩師を探しているんだ。この第三王女に!」


「そうか。頑張れよ」


 義輝はとにかくこの場から去ることだけを考えた。


 しかし少女はめげずに絡んで来る。


「お前の血統は?」


 指を差されて訊かれる。

 段々と面倒になって来ていることだけは義輝にも分かった。


「知らん! 俺は帰る!」


 強引に歩こうとすれば義輝の方が遥かに力が上であることが分かる。

 少女はずるずると引きずられた。


「分かった! お願いします! ずっと見付けた狩師に断られてばっかりで! 日本人冷たい!」

「それはお前がポンコツだからだ」

「何故、バレた!」

「お前の姉もポンコツだからだ」


「……頼むよ。一回。試すだけでいいから」


 少女は手を合わせて頼んで来た。義輝はしばらく悩む。刀飾を狩るにも、どのみち一人では無理だ。

 英治と連係するのも悪くないが、このまま英治に借りを作り続けるのも怖い。


「お前、ゲートは開けるのだな」


 少女は必死に頷いた。


「血統解放も出来るのだな?」


 更に必死に頷いた。


「……いいだろう。一回試してやろう」

「……マジで! お前、意外といいやつじゃん!」


 少女……カイウスはぴょんぴょん跳ねて喜んだ。

 外見は姉のケイと同じなのにどこか残念だ。


 いや、姉のケイもどこか残念だった。





 二人は夕暮れの街を歩く。


 分かっていることは刀飾には無差別に人間を殺すタイプと一人に絞って殺すタイプとがいるということだ。

 最近起きる無差別殺人は全て刀飾によるものである。


「つまり、その刀飾ってのは人を殺した瞬間にその人の魂を喰ってるんだな?」


「そうとしか思えない。上杉の調査結果を見ても」

「噂通り上杉ってのは凄いんだな」


 カイウスは頭の上に腕を組んで付いて来た。

 ある程度の知識は備えているようで義輝は少し安心する。


「まず、どちらかを叩かなければ話にならん」

「俺だったら無差別の方を拘束するね。そっちのが雇われている可能性の方が高い」

「……奇遇だな。俺もそう思っていた」


 義輝は驚いてカイウスを見る。


「俺の力、見せてやるぜ!」


 しかし安堵してはならない。カイウスも狩師にたらい回しにされたポンコツなのだ。


 刀飾を倒すだけなら義輝の力だけで十分だ。

 だが、その刀飾が術者であると少し厄介なことになる。


「では見せてもらおう。刀飾の殺しの持ち場を探せ。そんなことをしている奴は無差別殺人者だ」


「了解」


 カイウスはビシッと敬礼した。


 そしてネクタイピンを外し杖にする。


「大量の魂が発生する瞬間だ。一時的でもいいから見付けろ」

「分かった。……お前って案外頭が切れるんだな。今まで会った狩師は戦うことばっかだったぜ」


 それが英治に叩き込まれた知識の一部なので義輝は素直に喜べなかったし何も言えなかった。


 カイウスの様子を伺う。


「……」


 カイウスは魂送師の力を解放した。


 完全な男性の喪服姿で六芒星の杖になったネクタイピンを振り回す。

 強制力もちゃんと働いている。街の住人は見向きもしない。

 捜索の範囲も中々広い。どこがポンコツなのか義輝は少し勘繰っていた。


「……見付けた。……けど範囲が広い。東京の円状の駅だ」


「……山手線か」


 カイウスは捜索を解いた。


「山手線?」


 義輝は路線地図をデバイスで検索してカイウスに見せる。


「そうそう! こんな形!」

「この駅は円状だ。今がチャンスだ」

「……なんか気が合うと思わないか、俺たち。そういえば、お前の名前は?」

「……今回の作戦が成功したら教えてやる」

「えー。それ、なんかずるい」

「いいから、行くぞ。山手線は遠くない」


 義輝は走ろうとしたが彼女にそれだけの力があるとは思えない。


「……仕方ない」

「ひょえ!?」


 義輝は彼女を抱えてビル街の上を跳んだ。


「すっげぇ!」


 カイウスは怖れることもなく楽しそうだ。


「そういえばお前の姉は何処に行った。姉の狩師が探していたぞ」


 義輝は一応、聞いてみた。


「今回の作戦が成功したら教えてやる」


 同じ台詞を言われて義輝は顔をしかめる。




 夜中、山手線を目指し跳んだ。


「それにしても、すごい身体能力だ。もしかして、すごい血統だったりして」


 カイウスに褒められてもあまり嬉しくない。

 結局、己は愁一に負けたのだ。

 そんなことは置いておいて義輝は今の状況を考える。


「それにしても、妙だ」

「え?」

「何故、刀飾は円状の駅を選んだ。挟み撃ちに合えば捕まり易い……もしかしたら向こうも何かあるのかもしれないな」

「すごく強いとか?」

「その可能性も無くはないが……だとしたら、こんな所でちんたらしていない」

「……ごめん。言い忘れてたけど俺の捜索の範囲はそこそこあるけど、精密性は低いんだ。お前の言う通り、何かあるのかも」

「その程度は想定内だ」


 義輝とカイウスは山手線の駅に着地した。

 電子掲示板には人身事故のため一部の駅が停まっていると表示されている。


「これ、チャンスじゃん!」

「……いや、罠だろう」


 しかし義輝は堂々と動く車両に乗った。



 車内は死体だらけだった。

 カイウスは杖を握る。義輝は表情一つ変えずに立っていた。


「何で……罠だって判ってて乗るんだ?」

「罠だということは確実に刀飾がいるということだ。つまりチャンスだ」


 義輝の笑顔にカイウスは杖を握り直す。


「二手に分かれよう。これ通信用」


 そして小さい方のネクタイピンを義輝に投げ渡す。


「お前はなるべく死体が少ない場所に行け。俺の血統で追い込む」

「……けど血統解放は?」

「今、出来んのか?」

「……やってやるさ! お前の血を寄越せ!」


 義輝はそのネクタイピンで指を切って血を数滴撒いた。


 カイウスはその血から義輝の血統を探る。


 今。そして遠い過去。


 名前も知らないのに何故か見えた。脳内に浮かぶように義輝の過去が見えた。




 足利義輝は足利義輝の紛い物だ。

 遺伝子を操作して造られた血統だ。

 義輝の家は本当の家族ではない。科学者の父と母は義輝を研究開発の一部としか見ていない。



 義輝はなりたくて狩師になった訳ではない。


 そんな過去がカイウスの過去とリンクする。


 カイウスはなりたくて第三王女になった訳ではない。第三王女、だなんて何も出来ない。父と母からは何も期待なんてされていない。


 足利義輝とカイウス・セグシオン・フォンベルンは繋がった。




「お前の血統は足利 義輝だ!」


 カイウスが叫んだ瞬間、義輝は血統を解放する。遠い過去。遡る過去の力。


「そうだ。俺は足利 義輝だ」


 それが、この侍の名前だ。





 車内が戦国時代の路地に変わる。

 その路地の奥に一人の女性がいた。


「あら。まるで舞台のようですね」


 聖女の格好をした女性が立っていた。首には十字架がぶら下がっている。


「まさか……お前が刀飾か」

「世には汚い大人は山程居ます。私はその方たちを地獄に送っているだけです」

「冥界を通さずして地獄だと? 笑わせる」


 聖女らしき女は十字架を両手で持ち微笑む。それは狂気に満ちた笑顔だった。


 義輝は刀を抜いた。


「あら。死んで消滅する方が地獄だと思いません?」

「思わんな」

「貴方の力。私には通用しませんよ」


 義輝は相手が女だろうと手加減はしない。大量の刀を解放して縛られている紐をほどく。


「行くぞ」

「何時でもどうぞ」


 義輝はその中から刀の一本を構えた。


 そして素早く女性に向かって走る。この空間では義輝の方が有利なはずだ。


 しかし女性に刃を降り下ろして義輝は一瞬で下がった。


「流石ですわ」

「全く、恐ろしい凶器だ」


 義輝は肩を叩いて、凶器を落とす。


 一瞬だけか細く何かが光り地面に落ちる。

 その凶器は針だ。

 細く、長く、尖った針である。

 使う者が使えば一人の女性でも人を大量に殺せる凶器。


 聖女はそれを大量に放った。

 確かに……これでは今、この空間は分が悪い。


 義輝は素早くその空間を解いた。


「……え? どうした……」


 違う。今度は針ではない。


 カイウスの頭を過った刃物を何者かが無数にある刀の一振りで受け止める。


「あらぁ。流石」

「やっぱり、もう一人いた」


 その刃物を受け止めたのは獅道愁一だった。


 やはり敵はもう一人いた。

 愁一が受け止めたのは小刀だ。弾かれ転がる様に落ちた。

  もう一人。ナイフを放った方は女性か男性か分からない中性的な容姿をした暗殺者が数本のナイフをくるくると回している。

 その瞳に光はない。


「それはこちらの台詞だ。直前に連絡して良かった」


 義輝は車内に乗る前に愁一に連絡していた。


「そういうことはちゃんと言えよ!」


 義輝の言葉にカイウスは怒る。


「言ったら奇襲にならん。獅道は刃物の方を頼む」

「分かった」


 愁一と背中合わせで敵と対立する。


「針は一本も通さん。一度あの二人を一緒にしてくれ」

「了解」


 愁一の長刀を横目で見て義輝は竹刀を取り出す。

 その姿に聖女は……もはや聖女と呼ぶべきではない女は嘲笑う。


「そんな物で、勝てると思いですか?」

「や……」


「やってみなければ分かんねぇよ!」


 カイウスの存在を忘れていた。

 しかしカイウスはちゃんと、どちらの攻撃も当たらない場所に避難している。ちゃんと杖も構えている。


 後ろには愁一がいる。

 これなら大丈夫だ。聖女の意識を義輝にだけ向けていればいい。


 カイウスとのリンクは強い。

 言わずとも分かるはずだと義輝は刀を投げ背負っていた竹刀を取り出し構えた。


「何時でもどうぞ。お嬢さん」

「……っ! 行きますわよ!」


 針が降る。


 義輝は竹刀一本でそれを受け止めた。

 刀で弾いても良かったが、それをした場合は見えない針まで弾く必要がある。

 いくら針と言えど持つにも限界があるはずだ。向こうが凶器に尽きた一瞬が勝負だ。


「……針がっ」

「剣道剣術を舐めてもらっては困る」


 義輝はドンッと竹刀を地面に置いた。竹刀には数百本の針が刺さっている。


「今だ、カイウス!」

「了解!」


 義輝は一旦、地面に手を置いて回転しながら跳び、愁一に押されていたナイフ使いを交わす。


 二人は一緒にぶつかった。


 義輝は刀を持たず構えた。


 義輝が着地した瞬間。

 風景が一瞬にして変わる。


 あの戦国時代の路地に。


「ま、待ちなよ。こんなこと悪霊以外にしても意味ないじゃん」

「そうよ」


 足利家の家宝。

 無数の刀を紐解く。

 その一振りを義輝は持ち構える刀には霊気に溢れていた。


「もちろん。体には意味がない。しかし、そんな分かりやすい必殺技が一つな訳がない」

「……え」


「この空間は全て俺の物だ。造るのも壊すのも」


 義輝はそのまま上段突きを放つ。

 瞬間に一気に空間が崩れた。


「死ではない地獄を味わうがいい」


 その空間ごと穿つ。



 そして次の瞬間にはただの車内になっていた。

 敵の二人は一番端の壁ごと崩れ一緒に気絶している。


 車両は停まったままだった。


 遠くからパトカーのサイレンの音がする。


「上杉か……」

「俺が来る時に連絡したんだ」


 愁一は長刀を包みに仕舞う。

 その包みには何故か不釣り合いなライオンのストラップが付いていた。


「……っあのさぁ! お前、放置するわ、今だ! とか、まだだ、とか、単語で話すなよ! 最悪、目線で語るなよ! 分かるかぁ!」


 カイウスが怒りの表情でつかつかと義輝に向かって歩いた。


「しかしお前、分かったではないか」

「それは、なんか……何でだろ。今までこんなこと無かったのに」


「はーい。それはリンクが正式に繋がったからです。おめでとうございます」


 英治がひょっこり顔を出した。

 そして警察官に素早く刀飾の確保を命じる。


「……お前その登場の仕方やめろ」

「そう言われても」

「リンクって……この男と!?」


 カイウスは英治を上杉と知らず義輝を指差しガサガサ揺さぶった。


「そうです。でなきゃ低級魂送師のアンタが足利先輩の血統を完全解放出来る訳がない」

「……低級」


 義輝はカイウスを睨む。


「そ、……それは」

「足利先輩以前にマトモに血統解放出来た狩師はいません」

「お前、嘘吐いたな!」

「だ、……だってそう言うしか無かったし!」


 やはり、どこかおかしいと思った。


「でも、すごかったよ。息ピッタリだね」

「どこの誰だか知らない優男の兄ちゃん、そうだ、そうだよな!」

「偶然のくせに何を……」

「正式に繋がれる魂送師と狩師はそういうもんです。で、どうします? パートナー登録しますか?」

「……」


 英治の問に義輝は若干渋った。まだ完全に不安材料がなくなった訳ではない。


「この切れ目のイケメンは?」

「上杉だ」

「……なっ、そうですか、貴方様が上杉でしたか」


 カイウスの態度が完全に変わった所にも微妙に腹が立つ。


「いや。一回試してみただけだ」

「え……そこはOKだろ! 頼むよ、ここまで来た意味がないじゃん! 一族に、完璧なパートナー見つけて絶対に魂送師になってやる! って出て来たのに」

「お前も大概だな。……分かった。いいだろう」

「やったぁ!」


 カイウスはぴょんぴょん喜んだが英治に耳打ちされる。


「いいんすか。結局ヘッポコ魂送師っすよ」

「まぁ確かに。繋がった感覚はあった。足りない霊力も完全以上に戻った。仕方ない。……それに」


 義輝は穏やかにことを見守っている愁一を見た。


「うん?」

「コイツはケイの妹だ。何か分かるだろう」

「……足利君! ……ありがとう!!」


「つうか、誰だ! この優男の兄ちゃんは!」


「お前の姉の狩師だ」

「……へ? 姉さんの?」

「お前の姉の行方を探している」


「ケイさんが何処に行ったのか、知ってる?」


 愁一に真剣に尋ねられ、カイウスは言った。


「姉さんなら国に帰ってるぜ。何でも『完全に力を付けて愁一さんの血統を解放してやる』って言ってた……ああ、兄ちゃんが『愁一さん』なのか」

「……国ってフランスにある?」


 英治の言葉にカイウスは頷く。


「俺はそこに……」

「無理っすね。その国は永世中立国かつ、普段は部外者の入れない密国です」

「そんな……」

「そう気を落とすな。向こうが気が済んで戻ってくるまで待てばいい」


 義輝は愁一の肩を叩いた。


「……そうだね。居場所は分かったし」

「じゃあ、今回はこれで解散で。……一回捕まえた刀飾を尋問する必要があるんです」


 上杉はビシッと敬礼して刀飾をパトカーで輸送するために車内から去っていく。



「何でだよ。俺たちが捕まえたのに」

「いや、上杉に任せるべきだ。上杉には一人、尋問にもっとも長けた魂送師がいる」

「あれが刀飾……」

「獅道は始めて見たな。そうだ。あれが刀飾だ。人を殺すことに躊躇はない」


 愁一は頷いた。



 これ以上、話せることは義輝にも無かったので踵を返して車両から降りた。

 何故か魂送師の制服を解いてカイウスも付いて来た。

 しばらく無視して早歩きで逃げようとしたが……その前に腕を掴まれる。


「そうは行かないぜ!」

「放せ! 俺は帰る!」

「……突然、国入した俺に泊まる当てがあると?」

「王族なんだろ! 何とかしろ!」

「そんなの、お前に出会う前に全部使い切ったよ! 頼む。この通り!」

「悪いが、俺は高校の寮暮らしなんだ!」

「料理、洗濯、掃除は出来るから!」


 カイウスの叫びに義輝はぴたりと足を止める。


「……本当か?」

「本当だって。第三王女なんかに使用人は付かない。一通りは出来るし、得意だぜ」


 義輝はしばらく考えて頷いた。

 確かに……居場所が分からないより近くに居てもらった方が便利だ。


「いいだろう」

「本当か?」

「但し。お前も藤堂高校に入学してもらう。流石に部外者は寮に入れん」

「するする」


 カイウスはこくこくと頷いた。

 そして彼女は手を差し出した。


「これから、よろしくな。義輝」

「……ああ」


 義輝は手を握り返した。


 しかし義輝はただ魂送が出来るから彼女と契約した訳ではない。

 流石に繋がれる、だけあってカイウスと強く同調したのは確かだ。

 正反対に見える性格だが、そこが義輝なりに悪くない、と思った。

 最初は何だ、とは思ったが。

 彼女の男女の区別がつかない。フランクな口調も案外会話しやすい。


「でも結局、義輝は俺の何処が良かったんだ?」


 実の所、決定打は三つある。


「……秘密だ」

「……ずるい! やっぱり、ずるい! じゃあ、俺も秘密!」


 義輝は彼女の、誰にでも真っ直ぐな所。義輝を見ても怯えず立ち向かって来る所。

 そして、料理、洗濯、洗濯が得意だという所が気に入っていた。


「……あっ」

「どうした?」

「思い出した。今、寮に空きがない」

「へ? お前の部屋に泊めてくれるんじゃねぇの?」

「……」


 いいと言ってしまった手前、そうするしかない。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 狩師と魂送師。 面白い発想ですね! 役目があるのが面白いです! [気になる点] 無いでーす! [一言] 私もこのサイトに『カザマンス』という西アフリカの内戦物の小説を連載していますが、 …
[良い点] 話の展開(ケイの妹が仲間になるなど)、雰囲気(車内の風景が変わるなど)、キャラクター(行動や言動に魅力的な個性があるなど)、設定がどれも洒落ていて面白いです。 [気になる点] 1話あたりの…
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