ノックをする一閃
私の家にノックもせずに男は現れた。
私の家の結界である五本のビルを真っ二つに斬って、その男は現れたのだ。
私は生まれた瞬間から一人だった。刀飾の当主は一人と古い仕来たりで決まっていた。本当だったら男が良かったのだろう。それぐらいは使用人の顔を見れば分かる。
私を産んだ父と母は死んだ。
私以外の親戚は全員使用人となり白い着物に同じ姿で誰が誰だか全く分からなかった。何故、私の父と母が死んだのかは分からなかった。
高校までは一応普通に通っている。一応、となるのは一度桜小路家を滅しているからだ。理由は、彼らは私に刀飾なんて辞めて桜小路家に属せと言い寄って来たのだ。
そうなると刀飾は滅亡する。
私が……私のせいで滅亡する。
そんなことは赦せなかった。
だから逆に滅したのだ。後悔はない。
刀飾は『永遠の生』の為ならば何でもする。それが家訓だ。
その家訓があの指輪があれば叶うだろう。
そう。フォンベルン家が持つ指輪。何でも願いが叶うと言うのはその隠し方を見ればガセではないと分かる。
だから私は獅道愁一に付いて行くことにしたのだ。ただのオマケではない。
イギリスは興味深い街だった。当然日本とは違う。そこまで考えてハッとする。今まで、あの屋敷の外に出たことはない。一度。桜小路家を滅する為に。外に出たことはあるが、こんな呑気に観光だなんてしたことがない。だから私にとっては物珍しい光景が広がっていた。
ここがイギリス。日本の、私の敷地の外。
向こうは向こうで完全に黒髪の日本人が珍しいのか物珍しげだが愁一は慣れているのか全く気にせずに歩いていた。
ならば私も気恥ずかしい姿なんて見せられない。そう思って胸を張って堂々と歩いたら何故か愁一に苦笑された。
「何よ。何か変?」
「いや。君はいつでも変わらないなぁ、ってさ」
そう言う愁一こそ何も変わらない。
「私は簡単に変わらないわよ」
「そうかな。俺は少しづつ変わっていると思うよ」
「え……」
「だって、誰しも見境なく殺さなくなったじゃない」
「それは……」
「そうすれば一発でこんな状況は終わるのに?」
「……」
私は思わず考えてしまう。
確かに彼の言うことは正しい。
しかし何故かそんな簡単には出来ないのだ。
思わず苦悩する。
そもそも考えることが間違っているはずなのに。
そうだ。目の前の愁一だって殺せば良いのだ。
しかし、何故か私にはそれが出来なかったー。