終焉
死にたくない。
それは死に損ないの言葉だった。
ただ、時代の為に生きて死んだ男の末路だった。
一面の広野。
もう死んだのだろうか。
まだ、生きているのだろうか。
体には数本の刃物が刺さり、立つことさえ不可能なこの体は腐り、魂は天国に逝くのだろうか。地獄に逝くのだろうか。
逝くことが出来るのだろうか。
「よく、あの鬼を倒しましたね」
何処からか声が聞こえる。
もう死にかけの体にはその声が女であることしか分からない。
肺は潰され、胃には機能の意味がなく、血は傷から滴るように落ちる。
そこに転がるのは、死に損ないの侍だった。唯一の装飾品である白い羽織りはボロボロになって風に舞う。刀を持ってやっと上を見上げた。
「まぁ、いいでしょう。一つ願いを叶えましょう」
目の前に立つ女は女神か何かなのだろうか。それにしても死にかけの男に願いなどある訳がない。
「もう……死にたい」
その言葉(らしきもの)に女神は少し驚いた顔をしている。
「生きたい、の間違いではなく」
侍はただ首を肯定するように頷いた。
体から多量の血が出る。
「どちらでも同じことです。私と契約しなさい」
彼女は自ら手首を侍が持っていた刃物で切った。切れば血が出る。その血の色は金色だった。
その血が混じる。己の赤の血と混じる。
この時、侍は叫びたかった。
潰れた喉で、叫びたかった。
違うのだと。