天才物理学者小山内教授の発明
この小説は、全体としても短編なのですが、前編・後編の二つに分かれています。分けたのにはある意図があります。前編の内容を読んで、後編の内容を予想していただきたいということです。もしあなたの予想が、私の内容(後編)より、ずっと面白いと自ら思われた方、あなたには、もの書きの才能があるのかもしれません。ただ読んでいるだけでは勿体ないです。(すでに書かれているのかもしれないですが・)
というわけで、三島由紀夫の転生を自負する倉本保志の新作品ここに投稿です。
地球消滅に至った衝撃の事実
都内にある、展示会場は大勢の人が集まり、かなりの盛況であった。
そこでは、パイナップル社による、新商品の、発表・展示会が開催されていて、
開発者の小山内薫教授による講演、及びメデイアへの記者会見が、始まろうと
していた。
・・・・・・
「それでは、只今より、物理学者、小山内薫教授による、講演・共同記者会見
を開始いたします。」
「司会はわたくし、10万通りもの、思いやり機能を、搭載した当社開発の
アンドロイド、名前を、ソンタ君と申します。どうぞよろしくお願いします。」
・・・・・・・
会場に拍手とどよめきが沸き起こる。
「まずは、開発者の小山内教授に、ご登壇頂き、講演をしていただきます。」
「小山内教授お願いします。 」
パチパチパチパチ・・・・
再度起こった、大きな拍手とともに壇上に上がったのは、小山内 薫(物理学者)
であった。
やや緊張した面持ちから、ふっ と大きく息をつくと、眼鏡を指で、持ち上げる
仕草をみせた。
「あれは、私が小学生の時でした・・・テレビでやっていた、マジックを何気なく
見ていたときのことです。テーブルの上に置かれていたはずのリンゴがハンカチ
をかぶせられた瞬間、消えてなくなったのです。」
「りんごは一体どこに行ったのだろう・・?」
「わたしは不思議でした・・・。」
「マジシャンは再び、テーブルにハンカチを被せたかと思うと先ほどのリンゴを、
テーブルの上に、再び出現させました。わたしはさらに驚き、次のマジックが行わ
れていたにも拘らずいつまでも、消えたリンゴのことを考えていました」
・・・・・・・
一区切りついたとき、会場が俄かにざわついた。
「あの、教授・・・」
一番前の席に陣取っていた記者のひとりが、話の腰を折るように訊いた。
「ん・・? 何ですかな・・?」
「すみませんが、新たに開発された商品に関わるお話をしていただけないかと・・・」
「・・・・・」
「なんだと・・貴様・・・」
ドンッ
演台を叩く、大きな音が聞こえた。
「出て行け、・・・・」
「わしの話が、黙って聞けん奴は、今すぐに、ここから出て行け」
・・・・・・・
小山内博士は、その記者に大声で言い放つと、顔を真っ赤にし、体を僅かに
打ち震わせていた。
シーン・・・
想定外の、教授のブチ切れに、会場は波を打ったかのように静まり返った。
「・・・・・・・」
「出ていかんのなら、私が、出て行こうか・・?」
それを聞いたアンドロイドのソンタ君は、慌てて、教授に言った。
「すみません、教授、お話を続けてください」
「あ、それと会場の皆さま、すみません、ご質問が、いろいろとあるかと
思いますが、後で時間を取りますので、よろしくお願いいたします。」
思いやり機能・世界一を誇るアンドロイド(ソンタ君)のみごとな忖度ぶり
だった。
いや、むしろ 教授、記者、この二人があまりに社会性に欠けた、大人げない
行為を仕出かした、その事をピックアップするべきなのか・・?
記者は、立って、ぺこりと会釈をすると、ばつが悪そうに自分の席に座った。
教授は、ごほんと 一つ、咳払いをすると、先ほどの記者を睨みつけ、何も
無かったように話を続けた。
「あれから、50年の月日が流れましたが、物理学者となった、今でも、あの、
リンゴのマジックは、忘れられません、いや、物理学者になったからこそ、物質
が瞬時に消えるという、物理学では到底考えられない、この現象を、私は研究の
テーマに据えて、やってきたのです。」
雄弁な学者は少ない・・・。
優秀な学者ほど、むしろ表現・伝達能力には、疑問符が打たれる とされ、その逆
の場合(口先だけ達者な学者)も多数いるのが現状だ・・・。
しかし、小山内教授は違った。物理学においては、世界的な権威であり、誰もが
その能力を高く評価していた。(天は二物を、彼に与えたということか・・・)
聴衆は、彼の話に聞き入っていた。
「そして5年前、わたしは、ある理論を思いつき、パイナップル社の協力のもと
今回の商品の開発に至ったという訳です。」
「商品開発のもととなった理論というのを、今から説明いたします。」
先ほどの激昂も、元に収まり、博士は、気分よく熱弁を振るった。
「ええと、先ほどのリンゴのマジックの話に戻りますが、本当のタネは別として
私は、この現象を 物理の問題として、こう考えたのです。」
「そのリンゴが置かれている空間 例えば、10立方センチメートルこれを、
限りなく小さくします。すると、リンゴは見えなくなり、あたかもりんご
は消えてしまったかのように見えます。」
観衆はじっと博士の話を聞いている。
「そして、数秒後、空間を元の大きさに戻してやると、リンゴはまた、姿を
表すことになるのです。この、空間縮小の理論とでも言いましょうか、」
みな、黙って博士の話を聞いていた。分かったような、なんだか、分からない
ような・・まさに博士の話術に罹ってしまったかのようだった。
「これ(理論)を使って、空間縮小装置の試作品 りんご1号を開発しました。
これは、元の位置から、空間を移動できなかったので、まあ、手品のタネとして
は、十分でしたが、それ以外の目的にはあまり用途を考えつきませんでした。」
「次に、空間を移動させる方法が、ないものか、必死で考えました。」
「もし、これができれば、いわゆる、瞬間移動、が、可能になります。」
「リンゴ2号 これその試作品でした。実験は成功したかに思えましたが、実は、
このリンゴ2号 には大きな欠陥があり、実用化は無理という結論になりました。」
「移動した先の空間での位置ベクトルが、元のそれとどうしても合わず、いわば
逆立ちをした格好で現れてしまうのです。まあ、サイコロのような、立方体などで
あれば、さほど、問題はないのですが、複雑な、電子機械などでは、移動させた
後には、それはもう、機械としての役割を果たさないものになってしまうのです。
「・・・・・・」
「かわいそうなことをしました」
博士は眼鏡を取り、目頭を押さえた。
「・・・・・?」
「一体どうしたというのか・・?」
会場が一瞬ざわめき、皆が不思議に思った。
「この移動の実験にヤギを使ったのですが、ヤギは胴体の背中に足が4本、角の
ように突き出ている、変な生き物に変わり果てていたのです。」
おおお・・・
苦笑ともとれるようなざわめきが、会場を取り巻いた。
「これからは、質問をフリーで受け付けます。質問のある方は、挙手をお願いいた
します。」
時間を考慮して、ソンタ君は、予定より早く質問を受け付けることにした。
会場にいた、多くの記者が挙手をした。
「はい、先ほどの記者のかた。」
司会のソンタ君が、忖度をもって彼を一番に指名する。
「そのヤギは、その後、どうなりましたか・・?」
「ええ、暫くは生きていましたが、すぐに死んでしまいました。」
「解剖してみると、臓器が体内で逆転しており、おそらく機能不全を起こし
たようです。」
「・・・・」
周囲が、しんと静まり返った。暗欝な雰囲気がくぐもっている。
「そして2年の歳月、500億という費用を研究に費やし、今回開発された
のが、このリンゴ3号という、商品という訳です。」
「すみません、月刊アポーの編集をしています、馬場といいます。」
「今回出来たものは、商品ということですよね、当然、今お話されたような
問題は解消、つまり・・・ヤギをそれで、移動させても、大丈夫ということ
ですね・・・?」
「仰るとおりです。もうベクトルの変転の問題は解消されました。」
「他に考えられる問題、ええと、たとえば、元の、大きさよりも小さくなったり、
逆に大きくなったりということはないんですか。?」
「あ、そのことについては、後で実際の商品をデモンストレーションするときに
説明しようと思っていたのですが・・・」
「大きさを、自由に変換つまり、拡大・縮小が可能なのです。」
おおお・・
「それって生物も、できるのですか・・・・」
「いくつかの実験でそれは、成功いたしております。
うちの研究所には、2メートルほどのゴキブリが、一匹、飼育されています。」
わはははは・・・
澱みのない笑い声が会場に広がった。
「薬で言うところの・・・副作用というものは、ないのでしょうか・・・?」
「たとえば、その2メートルのゴキブリは、酷く凶暴だとか・・・?
わはははは
再び、屈託のない笑い声が、どっと湧き起こる、
「いまのところ・・ですが、そういった、傾向はみられません。」
「まあ、おそらくは、大丈夫なのではないかと」
質問をした記者は、予想以上にウケたことに、満足げであった。
「電子機械を拡大させた場合、インピーダンスの変化など、理論的には、それが
使用できなくなると思われますが・・・・」
別の記者が、質問をした。
「そんなことをするバカには、この機械を、使って欲しくないですな・・」
今度は、失笑に似た 笑いが起こったが、それほど大きいものではなかった
「・・・・・」
「ふん、ゴキブリを大きくさせるのは、バカげていない、とでも言うのか?」
質問を嘲るかのような返答に、その記者は、吐き捨てるように言った。
ひと通りの質問が終わり、講演・記者会見は終わった。
その後、実際の商品によるデモンストレーション(実験)、など、予定されて
いたイベントは、滞りなく実施され、すべて無事に終了した。
・・・・・・
メデイアが、大きく取り上げたこともあり、博士の発明は、たちまちに世間
の話題となった。
輸送の混雑解消、ごみ処理問題、はては、旅行先への移動手段としてなど、
様々な分野で、利用価値が期待でき、多くの企業・団体の注目の的となった。
しかし、機械の購入と稼働には莫大な費用がかかることが後で判明し、販売
計画は頓挫、その為 パイナップル社は、倒産し、ソンタ君の製造・販売特許
は、とあるIT企業に転売された。
ソンタ君は、携帯電話のショップなどでの客寄せとして、見かけられること
となった。
それから、三年が経った。
世間は、世界的大発明のこの商品のことも、小山内博士のことも既に忘れて
しまっていた。
さらに数年後、地球が隕石に衝突することが分かった
前編 おわり
後編は、大体の流れはイメージしているのですが、まだ手をつけていません。書いているうちにあれやこれやと話が混線してしまって、最初の構想と違う展開になってしまうこともあったりします。まあ、最後は地球が消滅してしまうここだけははっきりしています。(いや、新キャラ登場で、案外救われる、という結末になってしまうかも・・・?)