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Halloween Corps! -ハロウィンコープス-  作者: 詩月 七夜
第四夜 Frankenstein's Dream
33/46

Episode32 Invisible -透明人間-

  「人工生命体(ホムンクルス)」…それは錬金術(アルケミー)の技術の一端を用いることで産声(うぶごえ)を上げる、自然の摂理から外れて誕生する存在である。

 表の歴史では、稀代の錬金術師(アルケミスト)パラケルスス…テオフラストゥス・フォン・ホーエンハイムが唯一の成功を果たしたとされる人工生命体(ホムンクルス)の生成だが、裏の世界に身を置く「魔術師」は、おしなべてその生成には通じている。

 その中でも「錬金術師」は「創造(クリエイション)」に特に長けており、彼らの手で生成される人工生命体(ホムンクルス)の性能も自然と高いものとなる。

「天才錬金術師」と名高い六堂(ろくどう) 那津奈(なづな)も、当然その道には精通していた。

 実際、那津奈の研究所(ラボ)には数体の人工生命体(ホムンクルス)が稼働し、彼女の身の回りの世話や施設の管理を行っている。

 驚くべきことに、彼らの外見から内面まで人間と大して変わらない。

 そこまで人間に近い人工生命体(ホムンクルス)魔動人形(ゴーレム)の生成が可能なのは、並みいる錬金術師の中でも、那津奈の他には彼女の師である“狂乱のアメルハウザー”くらいだろう。

 しかも、彼らが生成した人工生命体(ホムンクルス)達は総じて「生まれながらにして様々な知識を有する」という特殊性能を持っているのだ。

 普通の人間よりも多い知識を有し生まれてくる彼らは、教育を施すまでもなく完璧な自律活動を行う。


 それは彼らが揺り(かご)とするフラスコの中にいる時点から、外界のあらゆる情報を収集し、その身に蓄えているからと言われていた。


「さて、では始めましょうか」


 そう言うと、メアリー・フランケンシュタインは一同を見下ろしつつ、薄く笑った。

 その笑みに何かを察したアルカーナ(吸血鬼(ヴァンパイア))が、わずかに顔を強張らせる。


「始める?フランチェスカの総身点検(メンテナンス)をかい?」


「残念だけどハズレ」


 そう言うと、片目をつぶるメアリー。


「でもまあ、フランチェスカ(お姉ちゃん)をバラバラに解体する点では一緒かな」


「か、解体って~」


 那津奈が目を丸くする。


「そんな乱暴な総身点検(メンテナンス)なんて聞いたことないんだけど~!?」


「そうね。だから今から行うのは総身点検(メンテナンス)なんかじゃないわ」


 メアリーの目が鋭く光る。


()()()()()()()()()()()()()()よ」


 その言葉と共に調整器(レギュレーター)「プロメテウス」は低く鳴動する。

 同時にこれまでにないくらいの魔力が周囲に満ちた。

 その明らかな異変と敵意の奔出に、アルカーナが腰の細剣(レイピア)に手を掛ける。


「…一体どういうつもりかな、メアリー=フランケンシュタイン」


「どうもこうも、最初に名乗ったでしょ?」


 黄金の髪の毛を掻き上げつつ、メアリーが薄く笑う。


「私は“怪物を殺すモノアナザー・フランケンシュタイン”だって。なら、私がこれから何をするかも(おの)ずと分かるはずよね?」


 それを聞くと、アルカーナは剣の柄を握り直した。


()せないな…君の言葉を借りれば、君とフランは『姉妹同然の存在』なのだろう?なのに、何故君はフランを排除しようとするんだい?」


 そこまで言ってから、アルカーナは低い声で続けた。


「それとも…君の創造主(アメルハウザー)にでも命じられでもしたのかな?」


 その問いに、フランチェスカが僅かに身を震わせる。

 真の創造主ではなかったにしろ、アメルハウザーの元に身を寄せていた彼女にしてみれば、衝撃的な一言だった。

 だが、あり得ない話ではない。

 禁書「Ω(オメガ)(ひつぎ)」とフランチェスカに内蔵された「虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)」により、人工生命体(ホムンクルス)「メアリー・フランケンシュタイン」と調整器(レギュレーター)「プロメテウス」は完成した。

 となれば、他者にその技術が渡らないように禁書を封じ、フランチェスカ(オリジナル)は処分するという発想がアメルハウザーに湧いても不思議ではない。

 現にメアリーはフランチェスカを指して「用済みになったゴミ」と言い放ったのである。


「さあて、どうかしらね」


 当のメアリーは、はぐらかすように両手を広げ、続けた。


「でも、それが『私の望み』であるのは間違いないわ」


「悪いけど、承服できないな」


 明確な害意を認識したアルカーナが、ついに細剣を抜く。


「僕は今回の旅でフランチェスカを守る誓いを立てた。その誓いに懸けて、君の行動は絶対に阻止させてもらう」


「見上げた騎士道精神ね…でも」


 不意に。

 メアリーの姿が一瞬で掻き消える。

 目を剥くアルカーナ達。


「また消えた~!?」


「…反応、完全に消失(ロスト)。物理的にも霊的にも補足できません」


「一体、どういうトリックなんだ!?」


「教えて欲しい?」


 間近で聞こえたその声に、身を強張らせるアルカーナ。

 そのすぐ背後にメアリーの姿があった。

 彼女は、アルカーナの耳元へ囁くように唇を寄せている。

 咄嗟にアルカーナが細剣を振うも、その切っ先は空を切った。


「あら、コワい」


 声が再びアルカーナの背後から響く。

 振り向くと、そこに悠然とたたずむメアリーがいた。

 目を見張るアルカーナ。


(馬鹿な…瞬間移動(テレポーテーション)でも使えるのか?)


 アルカーナが知る限り、そうした超能力を有する人工生命体(ホムンクルス)が存在するなど聞いたことがない。

 だが、そうとしか考えられないほど、メアリーの動きは不可解だった。

 吸血鬼であるアルカーナの超感覚も。

 電子・霊的に感知可能なフランチェスカの感覚器(センサー)も。

 多目的(マルチプル)な機能を有する那津奈の携帯端末(タブレット)も。

 メアリーの所作を察知できないのである。

 常識ではあり得ない事象だ。


「メアリー…君は一体何者だ?」


「ふふ…言ったでしょ?ただの人工生命体(ホムンクルス)よ」


 そう言うと、再度消失するメアリー。

 アルカーナ達が一斉に身構える中、産屋(うぶや)には低い鳴動のみが響き渡る。

 辺りを油断なく見回しながら、アルカーナは鋭く指示を飛ばした。


「…フラン、那津奈を挟むように僕と陣を組むんだ。そして、そのまま前方に注意しろ。那津奈は僕達二人の背後から目を離さないよう、走査(スキャン)し続けてくれ」


「了解しました」


「ハイな~」


 互いに身を寄せ合う三人。

 アルカーナは自らの全器官をフル動員した。

 吸血鬼の感覚器官や反射神経は、人間のそれをはるかに凌ぐ。

 本気になれば、どんな異変も即座に感知し、即座に反応することが可能だ。

 いかに禁書の落とし子であるメアリーでも、逃れることは容易ではないだろう。


 一方で、アルカーナには一抹の懸念があった。


 メアリーがいかなる術で身を隠しているのか分からないが、何故か魔力の発動は感知できないのである。

「姿隠しの術」は、古今東西の魔術や呪法に存在する。

 呪文や効果、触媒となる呪物は様々あるが、それらの術は往々にして何らかの魔力などの発動が起こるはずだ。

 しかし、メアリーの場合はそれが感じられない。

 ということは、何かしら別の方法で姿を隠しているとしか思えない。

 メアリーが姿を消す瞬間、呪文の詠唱などが無かったところを見ても、その可能性は非常に高いといえる。

 残された可能性としてアルカーナ自身が思いつくのは「超能力」に属する「瞬間移動(テレポーテーション)」である。

 だが、それにしてはメアリー自身が姿を消し、現れるまでのタイムラグに違和感を感じる。

瞬間移動(テレポーテーション)」ならば、その名の如く、消えた瞬間、別の場所に姿を現すはずだ。

 が、メアリーの場合は消えてから姿を現すまでのタイミングにズレがある。


(いずれにしろ、僕達三人の誰もが気配すら察知できないのは、異常ずぎる)


 アルカーナが思案していたその時である。


「うひゃあ~!?」


 突然、那津奈が素っ頓狂な声を上げた。

 振り返ったアルカーナ質の眼前で、那津奈の身体が仰向けで宙に浮いていた。

 まるで、見えない何かに持ち上げられているかのようだった。


「那津奈!?」


「お、降ろして~!」


 ジタバタともがく那津奈。

 が、その身体は浮遊したままだ。


「そこか!」


 神速の速さでアルカーナが細剣で突きを繰り出す。

 稲妻の如きそれは、那津奈の身体の真下の空間を貫いた。

 不可視となったメアリーが存在するとしたら、那津奈をリフトアップしていると踏んでのアクションだった。

 しかし…

 剣先には何の抵抗も生まれない。


(手応えが無い!?)


 目を剥くアルカーナ。

「姿隠しの術」は不可視化こそは可能でも、実体そのものまでは空虚には出来ない。

 言ってみれば、那津奈やアメルハウザーの研究所(ラボ)の出入り口に施された「光学迷彩」に近い術だ。

 消えたように見えても「そこにいる(在る)」ことは歪めることは出来ないのである。

 姿を消したメアリーが、那津奈に何かしらの力を作用させているのは明白だ。

 が、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あり得ない現象だった。


「プロフェッサー、いま救助します」


 そう言いながら、フランチェスカがその鉄拳を振るい、浮遊したままの那津奈の真下を薙ぐ。

 が、結果はやはり空振りに終わってしまった。

 物理的には完全に干渉ができないとなると、非常に厄介な相手である。

 何故なら、姿も補足できないのだから、無暗に魔術の行使も出来ない。


「那津奈、何とか抵抗できないか!?」


「ふええ~!?そ、そんなこと言われても~…」


 アルカーナの呼び掛けに、困惑する那津奈。

 が、それも一瞬で、自分のベルトのバックルを指で押す。


「できちゃったりして~。ポチっとな」


 すると、那津奈が(まと)っている白衣に、青白い光が走る。

 同時に一瞬だが、那津奈をリフトアップするメアリーの影が床面に浮かんで消えた。

 そして、那津奈がの身体が重力に誘われて落下する。

 アルカーナは持ち前の反射神経を使い、それを受け止めた。


「怪我はないか!?」


「ふぃ~…助かったよ~、アルカーナ~」


 感謝の言葉を述べる那津奈に安堵しつつ、アルカーナは尋ねた。


「一体何をしたんだい?」


 すると、那津奈はお姫様抱っこされたまま、胸を張った。


「へへ~、この白衣に備わった防衛機構の一つさ~。ベルトのスイッチ一つでプラズマ電流を発生させ、触れた相手を感電させるんだ~」


 ギョッとなりつつ、アルカーナが腕の中の那津奈を見やった。


「さ、さすがは天才だ…でも、何故そんなものを仕込んだんだい?」


「吸血鬼とか夢魔とか、痴漢撃退用~♪」


「…今は、その用意周到さに敬服しておく」


 冷や汗と共に、とっとと那津奈を地に立たせるアルカーナ。

 何となくだが、一刻も早く那津奈から離れたい気分になったのだ。


「でも、今ので少~しメアリーちゃんのカラクリが見えてきたかな~」


 眼鏡を光らせつつ、薄く笑う那津奈。

 それに頷くアルカーナ。


「ああ。僕にも段々と見えてきたよ…()()()()()()の姿が」


 細剣を身構えつつ、アルカーナは続けた。


「しかし…一つだけ腑に落ちない事がある」


「な~に~?」


彼女(メアリー)は不可視だが、実体があるのは分かった。しかし何故、彼女は君に()()()()()?こちらからは()()()()()()のに」


「ん~…憶測は幾つでも立てられるけど…」


 白衣を正してから、携帯端末(タブレット)を操作する那津奈。


「たぶん~…意図的に身体部位を限定し、位相(ズレた)空間に置いているのかも~」


 那津奈の仮説に、アルカーナが目を剥く。


「冗談だろう?じゃあ、彼女は二重の空間を行き来できると言うのかい!?」


「あくまでも仮説だけどね~」


 那津奈が指を立てて、講釈する。


「でもまあ、科学的には証明できるよ~。一部の“二重存在(ドッペルゲンガー)”との遭遇事例はその典型だしね~。あ、『フィラデルフィア事件』とかはいい失敗例だね~」


「…フラン?」


 傍らに立つ相棒の人造人間に手短に意見を求めるアルカーナ。

 それにフランチェスカが頷く。


「理論的には可能性は高いかと。また、電撃に対して怯んだ様子でしたので、こちらにも優位性が認められます」


「成程…上手くすれば、あの厄介な『隠れ蓑』を引きはがせるやも知れないという訳か」


 アルカーナはしばし黙考し、二人に囁いた。


「では、こういう作戦はどうかな…?」

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