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Halloween Corps! -ハロウィンコープス-  作者: 詩月 七夜
第四夜 Frankenstein's Dream
32/46

Episode31 Ideal -真人-

「『怪物を殺すモノアナザーフランケンシュタイン』だって…!?」


 アルカーナ(吸血鬼(ヴァンパイア))が、謎の女性…メアリー・フランケンシュタインを見上げながらそう言った。

 調整器(レギュレーター)「プロメテウス」

 禁書「Ω(オメガ)(ひつぎ)」によって建造されたという超技術の塊であるこの工房において、フランチェスカ(雷電可動式人造人間フランケンシュタインズモンスター)の総身点検(メンテナンス)を行うべく内部に進んだ彼女達の前に、突如、メアリーは出現した。

 しかも、自らプロメテウスの「起動素体(ユニット)」と自称したのだ。

 プロメテウスの起動(キー)が失われた今、メアリーの力無くして調整器の起動はあり得ない。

 そんな唐突な状況に陥った一行は、困惑と驚きをもってメアリーと相対するしかなかった。


「ちょ、ちょっと待って~」


 そんな状況の中でも、口調だけはいつも通り呑気な六堂(ろくどう) 那津奈(なづな)錬金術師(アルケミスト))が尋ねた。


「貴女がこのプロメテウスの『起動素体(ユニット)』なら、今の今まで一体どこにいたの~!?」


「待ってくれ、那津奈!君は彼女(メアリー)の事をアメルハウザーから知らされていないのか…!?」


 プロメテウスがあるこの研究所(ラボ)は、元はと言えば那津奈の師である「狂乱のアメルハウザー」が所有者だ。

 弟子である那津奈がメアリーの存在を知らなかったとなると、彼女は余程の事情により秘匿されていた事になる。

 アルカーナのその問いに、那津奈は頷いた。


「私が師匠(マスター)から知らされていたのは、このプロメテウスとその基本的な操作法、そして起動(キー)の保存場所と『起動素体(ユニット)』の存在までよ~。だから、彼女と会うのはこれが初めて~」


「その人の言っている事は嘘ではないわ」


 黄金の髪を掻き上げながら、メアリーは薄く笑った。


「私を製造したマスター・アメルハウザーは、自分以外に私の詳細を漏らしてはいないはずよ」


「それは…やはり、プロメテウスが他者に利用されないためかな?」


 アルカーナの言葉に、頷くメアリー。


「そうよ。このプロメテウスの価値は計り知れないものだもの。それに『王の紋章(キング・クレスト)』の連中にその存在が知られれば、どうなるかは分かるでしょ?」


王の紋章(キング・クレスト)」とは、世界中の魔術師を統括する秘密結社である。

 ここに所属、もしくは登録されている魔術師達は全てその厳格な(ルール)命令(オーダー)を遵守しなければならない。

 同時に「王の紋章(キング・クレスト)」は、それらの魔術師達が研鑽した術法や研究成果を保護し、著しい功績を残した者には資金補助を行ったりする。

 そして、自らが保管する希少な資料の閲覧や貸し出しも保証してくれる。

 だが、それらの中には「禁書」に指定され、外部には絶対に漏らすことが許されないものも存在する。


 それ故に。

 アメルハウザーが盗み出した禁書に記述された技術で成り立つこのプロメテウスの存在や、フランチェスカの素性が表沙汰になった場合「王の紋章(キング・クレスト)」がどのように動くかは、吸血鬼であり、完全な部外者であるアルカーナですら容易に想像できる。


 間違いなくプロメテウスは即座に徴収か解体。

 フランチェスカも捕獲され、最悪の場合、実験用のモルモットとして機能停止のその時まで玩具(おもちゃ)のように扱われるだろう。


「成程。アメルハウザーが何を思ってご禁制の書物を我が物としたのかは、この際置いておくとして…秘匿しようというその意思は理解したよ」


 アルカーナは改めてメアリーを見やった。


「…で、残るは君自身に関わることだが」


 それにメアリーは小悪魔的な笑みを浮かべた。


「私が今までどこに潜んでいたか…とかね?どうしても聞きたい?」


「ああ。是非ともご教示願いたいね」


 アルカーナが慇懃無礼(いんぎんぶれい)に返す。


「僕達の目的のためには、どうあっても君の協力が必要になる。だから、君の事をなるべく理解し、友好的な関係を築きたい。いかがかな、レディ」


「まあ。丁寧なご返礼ね。いいわ、それでは少しだけお話ししてあげる」


 そう言うと、メアリーは立っていた場所から着地した。

 年齢は二十歳そこそこくらいだろうか。

 間近で見ると、那津奈とそう変わらない歳に見える。

 ただ、スラッとした身長はアルカーナに近く、そんじょそこらのモデル顔負けのスタイルである。

 注目すべきはその美貌だ。

 やや吊り目気味なせいでキツめに見えるが、目鼻立ちは人間以上に整っている。

 輝きを放つような金髪(ブロンド)と少しだけ尖った耳が印象的だ。

 そして、左右の色が異なる異色瞳(オッドアイ)が、更に神秘的に見せていた。


「さっき言った通り、私はこの調整器の心臓部である『産屋(ここ)』を起動させるための素体(ユニット)として製造されたわ。故にこの場所からは一歩も出たことは無いの」


「うそ~!」


 那津奈が驚いたように目を見開く。


「私はプロメテウス完成後から知ってるけど~、構造上、貴女が収納されるような空間(スペース)は無かったはずよ~」


 驚く那津奈に、メアリーは呆れたように言った。


「貴女、さっき自分で言っていたじゃない。いくらマスターの弟子とはいえ、この調整器の全てを知っている訳では無いんでしょう?」


「それはそうだけど~」


 渋々といった那津奈に代わり、アルカーナが尋ねる。


「では、君は今までこのプロメテウスの何処に居たんだい?」


()()()よ」


 すると、メアリーは背後を振り向いた。

 そこには、例の水族館にあるような巨大なガラスが()め込まれた壁がある。

 相変わらず内部は暗く、周囲に漂う濃密な魔力の影響なのか、アルカーナにも中の様子は伺うことが出来なかった。


「あそこって…まさか~…!?」


 那津奈が再度驚きの声を上げる。

 それにアルカーナが尋ねた。


「那津奈、先程から気になっていたんだが…あの奥には何があるんだい?」


「あの中は~…このプロメテウスの心臓部である『産屋(うぶや)』の更に中核~…」


 那津奈が息を呑む。


「『虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)』が設置されているのよ~」


「何だって!?」


 今度こそ。

 アルカーナは目を剥いた。


「どういうことだい!?その『虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)』とやらは、フランの内部に組み込まれた装置の名だろう!?」


「私が教えてあげる」


 そう言ったメアリーに、全員の目が集中した。


「そこの人造人間に組み込まれた『虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)』は『Ω(オメガ)(ひつぎ)』に記された技術で生成されたものよ。それはご存知かしら?」


「ああ。ここが彼女の誕生の場という事もね」


 アルカーナの言葉に、メアリーの笑みが深くなった。


「それが違うのよ」


「何だって…!?」


「ええ~!?」


 アルカーナと那津奈が思わず声を上げる。

 メアリーは悠然と続けた。


「『雷電可動式人造人間フランケンシュタインズモンスター』フランチェスカ…彼女はね、このプロメテウス建造以前に既に存在していたのよ」


 室内に沈黙が下りる。

 やがて、それまで無言だったフランチェスカが、静かに尋ねた。


「理解不能です」


 そう言いながら、自らの胸に手を当てた。


「この私の製造技術には『Ω(オメガ)(ひつぎ)』が必要不可欠です。マスター・アメルハウザーがそれを入手した以上、誰も私を製造する事は…」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…?」


 再度、沈黙が落ちる。

 誰もが思い思いに思考を巡らせ、それに集中するあまり、硬直するしかなかった。


「私が把握している記録によれば『Ω(オメガ)(ひつぎ)』が『王の紋章(キング・クレスト)』の魔術師達によって蒐集され、禁書指定になったのは、今から約100年前。そして、マスターが禁書を取得したのは約50年前よ」


 メアリーはフランチェスカに問い掛けた。


「でも、貴女の製造年代を(さかのぼ)れば、150年以上になるはずよね?これって、矛盾していると思わない?」


「…確かにミステリアスだね」


 内心の動揺を抑えつつ、アルカーナは続けた。


「しかし、それはあくまで君からもたらされた情報だ」


「何が言いたいの?」


 笑みを浮かべたまま首を傾げるメアリーに、アルカーナは言った。


「証拠が欲しい。フランがアメルハウザー以外の人物に製造されたという証拠がね」


「そういうこと。なら、簡単ね」


 そう言うと、メアリーはフランチェスカへと向き直った。


「人造人間フランチェスカ。貴女は自分が生まれた時のことを覚えているのかしら?」


「それは…」


 説明しようとした瞬間、フランチェスカは動きを止めた。

 まるで、石像と化したようだった。

 メアリーの笑みが深くなる。


「貴女はいつ自意識を得たのかしら?」


 動かないフランチェスカに、メアリーは一歩ずつ近寄っていく。


「その時に見た光景は?目覚めた場所は?製造年月日は言える?」


「…」


 その眼前に立ちながら、メアリーは醜悪に笑った。


「なあんだ…()()()()()()()()()()()()♡」


「待ちたまえ」


 アルカーナが見かねたように仲裁に入る。


「たぶん彼女(フラン)はこの状況に混乱しているのだろう。それに君がアメルハウザーに製造された存在なら、彼以外に製造された彼女(フラン)は、君の姉にはならないはずだが?」


「いいえ、私達は姉妹よ。同じ『禁書』を根源とする怪物だもの」


「成程~。確かに言う通りだね~」


 那津奈が首肯する。

 そして、指を一本立てて続けた。


「でもね~、一つ言わせてもらうと~、フランちゃんが誰の手によって製造されても~、その記憶を失っていても~、私達にとっては大切な存在なのさ~。それは変わらない事実だよ~」


 いつも通りの口調ではあるが、胸を張らんばかりの自信で、ショック状態のフランチェスカを(いたわ)る那津奈。

 それに、アルカーナも追従する。


「勿論、それは僕も同意だ」


 メアリーは二人をジロリと見やると、呟くように言った。


「…そうね。でも、だからこそ()()()()()


 その台詞に、アルカーナが眉根を寄せ、口を開こうとする前に、メアリーは例の巨大ガラスの壁面を見やった。


「…話を元に戻しましょうか。何はともあれ、お姉ちゃん(フランチェスカ)がマスター以外の手によって、遙か昔から起動していたのは事実よ。そして、記憶(メモリー)を損傷し、過去を失って彷徨(さまよ)っていたお姉ちゃんを偶然保護したのが、マスターというわけ。そして、それによってこのプロメテウス…『虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)』が製造されたのよ」


「理解できました…」


 ようやく引き出されたフランチェスカの声は、心なしか僅かに震えていた。


「マスター…いいえ、アメルハウザー氏が私を保護したのは…」


 それに頷くメアリー。


「ええ。全てはお姉ちゃん(あなた)の持つ『虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)』が目的だったのよ」


「どういう事だい?」


 問い掛けるアルカーナに、フランチェスカは静かに答えた。


「先程、那津奈(プロフェッサー)が言っていましたね…アメルハウザー氏は『神になることを目指していた』と」


「…ああ」


「私自身、彼に製造されたと誤解していたので、疑うことも無かったのですが…おそらく、アメルハウザー氏はそのための『神の技術』を『Ω(オメガ)ひつぎ』だけでなく、私に組み込まれた『虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)』からも得ていたのでしょう」


「つまり…このプロメテウスは『禁書』の技法だけでなく、それによって何者かに製造され、既に起動していた君の『虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)』…その両方を用いて建造されたということか…!?」


 驚愕するアルカーナに、フランチェスカは頷いた。

 那津奈が、メアリーを見やる。


「…私にも読めてきたよ~…師匠(マスター)が常々口にしていた『真人の創造アイディール・ジェネレイト』の成就…その成果は、フランちゃんじゃなくて~」


「そう。プロメテウスの『起動用素体(ユニット)』でもあるこの私♡」


 そう言いながら、指を鳴らすメアリー。

 すると、静かな起動音と共に『産屋』が息を吹き返す。

 各機材に魂の照明(灯火)が灯り、プロメテウスは久方振りに目覚めた。

 同時に、巨大ガラス壁の奥が露わになる。

 そこには。

 金属でできた、巨大な心臓に似た形の装置が鎮座していた。


『偽・虚空の心臓(ファクーム・ヘルツ)』…異界の技術によって、そして、それによって製造された成功例(フランチェスカ)に用いられた技術によって、アメルハウザーが組み上げた模造品。


 そして「怪物を殺すモノアナザーフランケンシュタイン」を名乗る人造人間、メアリー・フランケンシュタインを誕生させた機巧。


「残念ながら、天才的な才覚を持つマスターでも、完全な複製品(コピー)の作製までは至らず、こんなに巨大になってしまったけど…それでも、この心臓は健在よ」


 不意にメアリーは両手を広げた。

 その瞬間、彼女の姿が完全に消失する。


「消えた!?」


 驚きの声を上げるアルカーナ。

 咄嗟に、那津奈がフランチェスカに声を掛ける。


「フランちゃん~!?」


「はい。現在走査(スキャン)中…ですが」


 フランチェスカの声に、珍しく驚きが混ざる。


「反応、完全に消失しました」


「僕にも感知できない…どうなっているんだ…!?」


 油断なく周囲を見回すアルカーナ。

 その瞬間、巨大ガラス壁の奥に鎮座した「偽りの創造の象徴」を背後に、メアリーが突如出現した。

 それはさながら、アルカーナ達の前に突然姿を現した時と似ていた。


「即ち、私こそがマスターが願って止まなかった成功例…『真人(アイディール)』」


 瞠目する三人に、メアリーは深い笑みを(たた)えながら告げる。


「貴女達にも分かるように、俗っぽく言えば…“人口生命体(ホムンクルス)”よ」

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