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Halloween Corps! -ハロウィンコープス-  作者: 詩月 七夜
第四夜 Frankenstein's Dream
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Episode30 Birth -生誕するモノ-

 「魔力」とは、簡単言えば万物に宿る不可視の力のことである。

 大まかにいえば「生命力」や「精神力」などと同種であり、それらよりも、より「神秘」の分野に属する力ともいえるだろう。

 その内包量は種族ごとに様々であり、例えば同じ人間の中でも、個人個人でその量は千差万別である。

 つまり、生まれながらにして大きな魔力を持った人間もいれば、そうでない者もいる。

 それは人間以外の動物も同じであるが、俗にいう「怪物(モンスター)」といった「神秘」に属するものは、人間や動物よりも多くの魔力を有する。

 中でも(ふる)き種族である(ドラゴン)や、聖別された幻獣…一角獣(ユニコーン)などは人を遙かに凌駕した魔力を有する。

 そして、天使(エンジェル)族や悪魔(デーモン)族などの高次の存在は、この世界に実体化する際に膨大な魔力を必要とするため、更に次元が異なる魔力量を持っているとされた。

 一方、生物(有機生命体)と異なり無機物が持つ魔力の量は、格段に落ちる。

 神合金(オリハルコン)真銀(ミスリル)日緋色金(ヒヒイロカネ)といった「神秘」に属する希少金属や、生成時から魔力を蓄えてきた神話・伝説に登場する武具などを除けば、その量は微々たるものだ。

 “魔動人形(ゴーレム)”など、稼働に魔力を必要とする無機物生命体を除き、無機物自体が魔力を発することはほぼないと言える。

 しかし、那津奈(なづな)錬金術師(アルケミスト))に案内された「狂乱のアメルハウザー」の研究所(ラボ)にある謎のドームは、それを覆していた。


「さて、それじゃあ早速中に入ろうか~」


 那津奈が呑気な声でそう誘う。


「それは構わないのだが…無防備に入っても問題はないのかい?」


 ドーム全体から放たれる魔力の量に、警戒の色を隠さないアルカーナ(吸血鬼(ヴァンパイア))。

 実際、周囲に満ちる魔力は濃密で、アルカーナ自体も全身に言い得ぬ活力が行き渡るのを感じる。

 心なしか、一角獣(ユニコーン)に負わされた足の傷も(うず)きが薄れたようにも思える。


「問題ありません。以前、私が来た時と比較しても、各種センサーに異常は見当たりません」


 ドームを走査(サーチ)しつつ、そう答えたのはフランチェスカ(雷電可動式人造人間フランケンシュタインズモンスター)だ。

 彼女にとって、この研究所は生まれ故郷でもある。

 その言葉は信じるに値するだろう。


「もっとも、以前訪れたのは、かなり前の事ではありますが…」


 アルカーナはそれに頷いた。


「…そうか。だが、君がそう言うなら信じることにしよう」


 そう言うと、アルカーナは改めてドームを見上げた。

 高さは10mは無いだろうが、それでも巨大だ。

 直径も20mくらいはありそうだ。

 表面は鈍い灰色の光沢を放っている。

 一見すると材質は不明だが、瞠目すべきはその構造だろう。

 表面を何かで塗装しているのかも知れないが、壁面には継ぎ目一つ見当たらない。

 那津奈によれば、この建造物は禁書「Ω(オメガ)(ひつぎ)」の記された技術の一端が利用されているらしい。

 そうであるなら、このドームは明らかな「存在し得ないもの(オーパーツ)」だろう。

 何故なら、かの禁書には「異なる次元の知識」が記されているとされるからだ。

 その中には、このような代物を建造する知識も含まれているはずだ。


「入り口はこっちだよ~」


 那津奈がドームの正面(?)にアーチ状に設けられた空洞へと案内する。

 他にそれらしいものが無いとことを見ると、そこが出入り口になっているようである。

 扉も無いところを見ると、簡単に出入りできそうだ。

 そして、外からは無明の闇に見えた内部は、中では壁全体が(ほの)かに発光しており、明るかった。


「…む、これは…」


 中に足を踏み入れた瞬間、アルカーナは更に濃密な魔力が周囲に満ちるのを感じた。

 古代ギリシャに提唱された「第五元素(エーテル)」というものがある。

「地水火風」の四元素の上層にあるとされる仮定の存在であり、天体そのものを構成するという元素とも言われている。

 宗教の中では神々が存在するとされる高次元「天界」に満ちるものとされており、そうした由来から必然「神秘」に根深く関連する元素ともされていた。

 永い時を存在してきたアルカーナ自身「第五元素」に触れたことは無い。

 が、もしかしたらこの濃密な魔力の海は、それに値するものなのかも知れない。


「外にあれだけの魔力が放たれている理由が分かったよ。内部にこれ程の魔力が満ちているとはね」


 アルカーナの言葉に、先を行く那津奈が振り返った。


「えへへ~、びっくりしたでしょ~?これはこの調整器(レギュレーター)『プロメテウス』の炉心から漏れているのさ~」


「『プロメテウス』?それがこのドームの名前かい?」


「そう~。名付けたのはアメルハウザー(師匠)だけど、たぶんメアリーの小説に引っ掛けているのかな~」


 メアリーとは「フランケンシュタインの怪物」が登場する原作小説「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」の著者、メアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン・シェリーである。

 英国(イギリス)の女流作家であり「SFの創始者」とも評される人物だ。

 よく誤解されがちだが、俗に呼ばれる「フランケンシュタイン」の名は、実は怪物の名前ではない。

 怪物を創造した科学者「ヴィクター・フランケンシュタイン」を指す名前であり、怪物そのものは名前が無い。

 そして「プロメテウス」とはギリシャ神話に登場する男神で、神々に取り上げられた「火」を人間の元に取り戻したとされ、同時に人間を創造したともいわれている。

 このドームがフランチェスカの創造に用いられたとしたなら、その名前もそうした神話からもじったのかも知れない。


(そうか…それで、さっき那津奈が言っていた台詞に合点がいったよ)


 アルカーナは歩を進めながら、内心そう呟いた。

 先程…一角獣(ユニコーン)に遭遇する前に那津奈が口にした「師匠(マスター)は、神様になることを目指していた」という言葉。

 その意味は、彼女の師であるアメルハウザーがこの調整器(レギュレーター)「プロメテウス」を用い「人間(フランチェスカ)」を創造することを目指していたということ指してのことだろう。

 そして、アメルハウザーは実際に成功をしたのだ。

 ただ、唯一異なる部分がある。

 それはプロメテウスのような人類創造の御業(みわざ)の代用として、禁断の書を使用したという点だ。

 もっとも、そのどちらも「人の身には過ぎた代物」であるという点だけは同じと言えた。


「見えたよ~。あれが炉心に近い『産屋(うぶや)』さ~。あそこなら総身点検(メンテナンス)を万全の状態(コンディション)で行うことが出来るよ~」


 見れば、眼前に半透明の壁が見える。

 一見すると、()りガラスでできた壁のように見えた。


「『産屋』ということは…この先がフランの…」


「そう~、フランちゃんが生まれた場所さ~」


 そう言うと、那津奈は擦りガラスの壁面の前に立ち、右手を壁面に(かざ)した。


「Nullas matrem suam((なんじ)、母無き者なり)」


 短くそう唱えると、壁面は音も無く横へとスライドを始めた。

 まるで自動ドアのようだった。

 そして、開き切った先には、四角い大きな透明の水槽が鎮座していた。

 中身は空だが、人間一人は余裕で横たわることが出来そうだ。

 その周囲にはいくつものパイプ管が伸び、垂直にそそり立つ巨大シリンダーに接続されている。

 そして、水槽の上には天井から吊るされた透明な台があった。

 一方、部屋一面には見たことも無いような計器が並び、これまた用途不明なモニターや作業用と思われる機械じみたアームが設けられている。

 極めつけは部屋の出入り口より対面の壁にある透明な窓だ。

 分厚いガラスで仕切られたその姿は、まるで水族館にある巨大水槽の表面を思わせる。

 その先は薄暗くなっていてうかがい知れないが、アルカーナはその奥から膨大な魔力の波動を感じていた。

 全体的には機械じみてはいるが、どこか懐かしい感じがすることに、アルカーナは首を捻った。


「…えっ?どういうこと~っ!?」


 不意に。

 室内の一角に設けられた大型な操作盤に向かっていた那津奈が、素っ頓狂な声を上げる。


「何かあったのかい?」


 その様子に異変を感じとったアルカーナが、那津奈に問い掛けると、那津奈は驚いた顔のまま振り返った。


「な、ななな無いの~!!」


「無い?何が?」


「『産屋』を起動させるための(キー)が~!!」


 その言葉に、アルカーナも目を剥いた。


「何だって!?どういう事だい!?」


「ほ、本来はここに厳重に保管されているのに~!無いのよ~!」


 そう言いながら、那津奈が半泣きで操作盤の真下の床を指差す。

 そこには小さな(くぼ)みが認められたが、中には何も無かった。

 恐らく、偽装された床自体に仕掛けがあり、その中に起動(キー)とやらが秘匿されていたのだろう。


「私と師匠以外は、この隠し場所も開錠方法も知らないはずなのに~!!」


「落ち着きたまえ、那津奈。以前、ここに来た時にどこか別の場所に移動させたんじゃないか?」


「それはないわよ~!」


 那津奈が首を横に振った。


「絶対、絶対、ぜぇーーーったい、ここに戻したんだもの~!!」


「…ということは」


 アルカーナは傍らのフランチェスカを見やった。


「彼女の総身点検(メンテナンス)はどうなる!?」


「実行不可能になるわ~!!」


 那津奈が床に手をついて崩れ落ちる。


「さっきも言ったけど、私の研究所は電気代が未払いだから総身点検(メンテナンス)中に電気を止められたら大事になっちゃし~!私のバカバカ~!こんなことなら奮発して霊子観測用特殊端末『視れるンです』の違法改造用パーツなんか買うんじゃなかった~!!」


 頭を抱えながら、よく分からない悔恨をする那津奈に、アルカーナは片手で顔を覆いながら天を仰いだ。


「よく分からないが…無いものは無いで仕方がない。何か別の手段を講じるしかないだろう」


 そう言いながら、アルカーナは室内を見回した。


「那津奈、君は師から予備鍵(スペアキー)とか預かっていないのかい?」


「ないわ~。師匠はとことん人を信じない人だから~」


「ふむ…さては、君の手から起動(キー)が盗まれる可能性も想定していたか…では、(キー)を再度鋳造できないだろうか?」


「自信はあるけど…それには『Ωの棺』が無いとムリ~」


「では、他に起動方法は?」


 そこで、那津奈はハッとなった。


「…あるかも~」


 それにアルカーナは身を乗り出した。


「その方法は?」


「前に師匠から聞いた話だけど~」


 那津奈は記憶を探るようにこめかみに手を当てた。


「こうしたアクシデントに備えて、起動するための(キー)に自律機能を持たせた『起動用素体(ユニット)』を製造したって~」


「『起動用素体(ユニット)』?それは一体どんなものだい?」


「それは私よ」


 突然、その場にいないはずの四人目の声が響く。

 アルカーナは、咄嗟に吸血鬼特有の超反応で周囲を探った。

 が、周囲に満ちる濃密な魔力のせいか、声の主の位置が特定できない。


(一体どこだ!?)


「捕捉しました」


 そんな中、フランチェスカが落ち着いた声で告げる。

 フランチェスカを見やると、彼女は部屋の上空を見上げていた。

 それを追ったアルカーナの目に、一つの人影が映る。

 人影は天井から吊るされた透明な台の上に立っていた。

 女性だ。

 黄金の長髪に碧と紅の異色瞳(オッドアイ)

 均整のとれたその肢体を、漆黒のボディスーツのようなもので包んでいる。


「君は…誰だ?」


 アルカーナの誰何(すいか)に、女性は薄く笑った。


「聞こえなかったの?」


 長い髪を掻き上げながら、女性は続けた。


「いま貴女達が話していた『起動用素体(ユニット)』が、この私よ」


「何だって!?」


 驚愕するアルカーナと那津奈に、女性は笑みの色を深くした。


「私はメアリー」


 女性の右目…紅の瞳が赫光を灯す。


「メアリー・フランケンシュタイン…『怪物を殺すモノアナザーフランケンシュタイン』よ」


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