表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅び往く世界で君に「さようなら」を言えたなら。  作者: 金魚鉢の中のゲロちゃん
1/3

発見

「さあ、もう終わりだよ……ね? デウス」


 彼は、小さく微笑むと左手に持った拳銃をこちらに向ける。彼との距離は、約十メートル弱。ここから走って近くの柱に向ったとしても、五秒ほどかかる。オマケに、相手の獲物はフルオート式の拳銃と来た……俺が産まれてきて史上最も最悪な展開だ。


 彼女の頬を、血で滲んだ右手で触れる。「もう……終わりみたいだ。君とは、二度と再会出来ないようだ」

「少しだけ、いいか」


「うん? 遺言かな」


「…………暁だけは、殺さないでくれないか」


 俺の言葉に思わず表紙抜けたような顔をするジョーカー。数秒の静寂の後、「オーケー。約束しよう。君――デウスを速やかに殺害後、暁暁子だけは、生きたままにしておく。それで大丈夫かな?」


 頷く。どうせ、最初から死が決まっているなら…暁子だけは無傷で生還させたい。ただの世界に一匹だけしか存在しない《怪物》のツマラナイただ一つの望みだとしても。好きだった女性を、俺の為に命を散らしてほしくはない。


「じゃ、そこの柱に頭の上に手を当てて、座ってくれるとありがたいかな。弾一発で君を殺害する予定だからね? 無駄に弾を消費したくないんだ、この弾、一発……過去の金額で四千万円弱掛かるんだからね」


 俺は、彼女の手を握ってから素直にソイツの言う事を聞く。柱に背を当てて手を頭の上に…それで、適当に座っておけばいいか。


「ソロソロ、現世とのお別れしようか、デウス。目を閉じて、息を吸って、一の二の三で――」


 目を閉じたと同時にパンと重い銃声。肉を抉り突き抜ける激痛。


 それが、俺にとっての最期の―――


 ※ ※


「おっ…! っと」


 床に散らばる瓦礫を避けながら追っ手から逃げる。


「このガキ…ッ」


「ここから先は行き止まりだぞ。捕まえて殺してやるッ」


 怒声が後ろから飛んでくる。その相手は分厚い鎧に身を包み、鎧に描かれている紋章が『ソレ等』の仲間だと証明する。


「相変わらず、すげぇな…!」


 惚れ惚れするほどの足の速さだ。あんな分厚い鎧を着ながら、よく俺の足に付いて来れるな。ある意味尊敬するぞ。


 目の前には断崖絶壁。追い詰められた。二人の敵が俺をジリジリと崖に追い詰める。


「…………」


「投降するなら命だけは救ってやるぞ?」


「まあ、その後はどうなるかは分からないがな」


 ゲラゲラと笑う。気持ち悪いくらいに。


「風は良好……高さは…六十メートル程か。ギリギリ行けるな…!」


 少し危ないが、行くか。このままコイツ等に殺されるよりマシだ。


「キヒヒ…!」


 ガチャリと一人が一歩踏み出す。それから逃げるように足を後ろに―――。


 ――――崖から落ちてゆく俺は、


「飛べ―――ッ」


 俺は、大きな声で叫ぶ。


 『アレ』の詠唱が終わり、効果が発動する。


「――ッしゃ! 成功」


 無事成功した事を心の中でガッツポーズする。毎度の事ながら飛び降りは怖いと思う。成功しなかったらグチャって死んでるし。


「浮いたッ あれは一体何なんだ」


「あれは……聞いた事があるぞ、この廃街には空中を統べる『魔法使い』が存在するって……!」


 そんな風に叫ぶ二人。俺は、それを空中から眺める。ははっ、ここまで来れるものなら――ってあぶね 槍投げてくるな! 下手したら死ぬ マジ死ぬ!


「当たらねえ!」


 さて、そろそろ逃げるか……。このまま、この場に居て新しい追跡者が来られても困るし、あの二人も待ちわびているだろうし。

「それじゃ、サヨウナラ。《軍》の守衛殿」


 俺は、空中に浮かんだまま頭を下げ、その場を後にする。去る途中、「後で、殺してくれって言っても簡単に死なせない拷問をやってやる 覚えてろ」って言われたのが恐ろしかった。出来れば、あの二人には二度と会いたくないと思った。


 ※ ※


「お待たせ。待たせたか?」俺は、目の前にいる二人にそう声を掛けた。


「無事そうで良かったよ」

「……遅かったね。どーせ、守衛に見つかって呑気に鬼ごっこでもしてたんでしょ」


「まず、捕まったら殺される鬼ごっこがあってたまるか。命懸けだぞ」


 人の気も知らないで…まあ、それもあってコイツなんだが。


「で、アレは?」


 少女は首を傾げながら手を出してくる。ほんとまあ…人が命懸けで持ってきたってのに。少女に腰に着けていたボロ布の袋を渡す。


「ほい。この中に入ってる奴で大体、二週間ほどは大丈夫だろ―――パンだけど」


「この、ご時世パンでも食べられればなんでもいいでしょお腹も膨れるし。あ、食べたくないなら食べなくていいよ。貴方の分は私とグランで分けるから」


「ふざけんな、俺も食うぞ!」


 命懸けで《軍》の守衛から奪ってきたのに、少し嫌そうな顔しただけで「食べなくていいよ」ってのは嫌だ。


 廃ビルから地面を見下ろす。相変わらず、高いな。こんな小さいビルでも十メートルはあるんだから……ん?


「どうかしたの? そんな変な顔して」


 あれは…………人か? それにしても、なんであんな場所に人が倒れているんだ? 《軍》から逃げてる最中に体力が尽きてそのまま死んだか。


「あ、いや、人らしき物が向こうのビルの中で倒れていたから」


 嘘と言いながら少女は廃ビルから身を出して眺める。「どこにもいないじゃない。どこに人がいるのよ」


「ほら、あそこだよ…四キロほど向こうに少し歪な形のビルがあるだろ。そこの三階の窓際に倒れてるんだ」


 少年は、その場所に指を指す俺に困惑…むしろ、呆れたような溜息を吐き、「見えないよ…ボクとセリアは

真希みたいに視力が二十以上はないんだから」


「ああそうだったな」


 うっかりしてた。この二人は俺とは違って『常人』だったな。本当に、うっかりしていた。

「で、どうするの?」とセリア。どうするって…何がだ?


 表情に出ていたのか、「だから、その倒れてる人の所に行くか、行かないかのどっち?」と半ば可哀想な子を見るような眼差しで俺を見るセリア。って、そんなに可哀想な子を見るような目で見んな。


「一応、見てくる。グランとセリアは此処で待っててくれ。十分ほどで帰ってくるから」


「気をつけて、マキナ。相手が死んだふりして襲い掛かってきても安全に対処しなよ」


「……別に、マキの事を心配しないけど念のために気を付けて」


 とモジモジしながらセリアが言う。そんなセリアの頭を右手でワシワシしながら当たり前の事を言う。


「絶対に戻ってくるから安心しろ。まあ、敢えて死んでセリアの泣いてる顔を見るのも有りか――イタッ! 頭目掛けてコンクリート投げんな、ホント死ぬから」


「うっさい、死ね! 人が心配してるのに、そんな事を言うマキなんて死ね―――っ」目に涙を浮かべながら俺に向って当たったら確実に死ぬほどのコンクリート片を投げつけてくる。


「やめてくれ、死ぬ―――」


 ―――ッ。


「…。ほら、そこまでにしといてあげなよ、セリア。それ以上やったらマキナが死んじゃう」


「いいわ、私が殺す! 人の気持ちをなんだと思って――」


 その瞬間、小動物のようなグランの顔が変わり、いつもより機敏な動きでセリアの口を手で塞ぎ、耳元で囁く。


「―――」


 一体、グランから何を聞いたのか分からないが、セリアの顔は険しく青白くなり、身体は小刻みに震える。少しは安心したみたいだけど、これ以上、心配させるのはダメみたいだな…。


「それじゃ、遅かったら先に帰っててくれ。ここらは【死徒】が良く出るからな。グランとセリアじゃ対処できないだろ?」俺は意地悪そうに言う。それに微笑みながら「そうだね。けど、ボクはずっとマキナが帰ってくるまでここにいるよ。いつまでもね」とグラン。コイツ、俺のなんだろうな。嫁? 自分で勝手に思って吐き気した。


「じゃ、俺は行ってくる――俺、これが終わったらセリアにプロポーズするんだ」


 と、笑いながら言ってみる。セリアの表情こそは険しいままだが、様子は少し落ち着いた様子だから普通に大丈夫か。後は、グランに任せるとしよう。二人に背を向けながら手を振り、窓から飛び降りる。


 ※ ※


「はー……はー……」


 頭を押さえながら廃ビルだらけの砂漠を歩く。腐臭が辺りからするが、それはここが【死都】だからだろう。


「うーー」


 唸る。頭が痛い。槍で頭を突かれているかのような鋭い痛みする。時々、転びそうになるが、近くの廃材やらに掴みなんとか転ばないようにするが、結構キツイ。しまいに、死徒まで蠢いてる始末だ。あと少しで目的地に着くってのに、近付く度に死徒の数が増えているのはなんでだろうか。普段なら二十~三十程度なのに、今日に限っては六十ほどいる。


「……帰るときはかなりキツイだろうなあ~………萎える」


 歩き数十分が過ぎた時、ようやく目的地の歪な形をしたビルに着いた。さて、三階の窓際に向うか。取り敢えず、ビルの中に死徒がいないことを願いながらビルの中に飛び込む。


「荒れてるな…しかも、動物の骨みたいな奴も落ちてるし………うわっ」


 壁に手をついた瞬間、壁がドシャと音を立てながら崩壊する。本格的に、ここは危険なんじゃないかと思う。


 死徒の足音に気を付けながら、先に進む。行きは何事もないまま無事に目的地に着く。目の前には一枚の錆びた鉄の扉。ドアノブに手を掛ける。同時に聞き耳を立てる。


 中からは何一つ音がしないのを確認終え、「………大丈夫か」扉を開け、勢いよく部屋の中に入り、後ろ手で扉を閉める。


 部屋の中は意外にも廊下ほど荒れておらず、奇麗だった。窓際に近付く。「…。っ」息を呑む。


 外から見た時と同じように、人が倒れていた。女性だった。


「死んでる死んでないかの確認だけしておくか」


 女性の遺体に近付く。反応はない。死徒だったら部屋の中に入ったと同時に襲ってくるはずだから違うはず。首元に手を当てる。俺は、目を見開く。


「…生きてる……」その事実に驚いた。本来なら、この女性は襲われているはず。だが、この女性は傷らしい傷が見当たらないし、血すらどこにも出ていない。完全な無傷だった。だが、それだと余りにも不可解で――。


「考えるよりも行動するか。割れてるガラスは……っと、このサイズでいいか」


 床に落ちていた鋭く尖ったガラスを右腕に当て、


「――」引き裂く。血がビチャと辺りに撒かれる。用済みになったガラスを部屋の隅に抛り、割れていない部屋の窓ガラスに俺の血を使って印を描く。左右非対称で歪な印。この世界で最も嫌悪されている魔法。


「よし、完成。あとは……」


 この女性が生きているのは分かった。ただ、ここから四キロを移動できるだけの体力があるかどうかだ…。


「うーむ」


 こんな時に限って、魔力を大量に含んだ鉱石を忘れるんだか。俺ってばホントドジ。


 血を媒介して魔力をこの女性に移す事は出来るけど、失敗したときが怖いからな…。下手したら俺と、今救おうとしてる彼女と同時に発狂して自殺しかねない…それだけは勘弁。マジ勘弁。救おうとして死んだら本末転倒だし。


「一か八か、だ。少し、酔うと思うが、我慢してくれ」意識がない女性にそう言ってから抱き上げる。


 小さく「門よ、開け」と俺は言う。


 瞬間、目の前にある窓ガラスは歪んでいく。ぐにゃりぐにゃりと空間が千切れ曲がり捻じれ――やがて、左右非対の《門》が完成する。《門》は一人でに開き、俺を喰らおうと深淵が覗く。その光景はまさに狂気。知り得ない空間。未知の世界。


「よし」


 俺は、その狂気なる《門》に足を踏み入れた。千切れ、曲がり、捻じれ、全になって一になって―――。


 ※ ※


「大丈夫」


 心配そうに駆け寄る一人の少年。俺は「全く、大丈夫じゃない」と額に脂汗を浮かせながら言う。死ぬかと思った……今度から《門》の使用は控えないと、ホント死ぬ。


「………?」


 俺は、その視線に気がつき、視線のする方を見る。あ、セリアじゃないか。


「おっ、セリア。久しぶり。一時間二十五分三十三秒ぶりだね」


 少し苦しいけど顔に爽やかな笑顔を貼り付けて言うが、セリアの反応は全くない。むしろ、虫をみるような目で見てる気がする。何があった?


「おい、グラン。どうして、セリアが無言で怒っているんだ? 帰りが遅かったから怒っているのか?」


 グランは気まずそうに目を泳がせる。一瞬、俺の腕の中で気絶しているその女性を見る。


「不潔」セリアは言い放つ。「まさか、女性を誘拐して連れてくるほどの変態とは思わなかったわ! この女たらし、いい加減に朽ち果てろ、死ね、死なないなら私が直接殺してむぐむぐぐぐぐ」


 罵声を俺に浴びせるセリアの口をグランは塞ぐ。「まず、罵声を浴びせる前に…話を聞くのがボク達の仕事だと思うんだ。だから、少しだけ落ち着いて。殺すのはその後でも遅くはないから。ね? ………それで、その女性は?」


「さっき、向こうのビルで――」


ドザーンドガーンバゴーン…………。


 …は?(汗)


「……建物…、崩壊…したね…」


 グランは二十メートルほど空中に舞う土埃を見ながら言う。丁度、俺が数分前までいたあの歪なビルが倒壊したそうだ。あと数分、あのビルから出るのが遅く、もしくは、歩いていたら間違いなく倒壊に巻き込まれていただろう。


「――で、窓際にいた人がコレ。普通の正常な人間で、死徒じゃないから安心しろ。ただ……」


 俺は言い淀む。なにしろ、あんなに死徒がいたのに、襲われていなかった事にある種恐怖を覚えている。あの、生物を見ただけで捕食行動を取ろうとする怪物が…。


「無理に言わなくていいよ。分からないことを言って余計に分からなくしてもマキナが困るだけだし」


「そう…か。サンキュー、グラン。そう言って貰えるのが一番うれしいぜ」


「そうかい、なら良かったよ」


 グランは笑う。「……質問いいかしら」


 ジト目のセリアは続ける。


「なぜ、その子は《軍》の服を着ているの? もしかして、《軍》の関係者じゃないよね?」


「……………………………もしかしたらな」


 この女性が着ている服は、《軍》上層部が支給される上層部にいる一部の人間しか着る事の出来ない軍服

だ。それを、この女性は着ている………それが意味するのは一つしかない。


「……ボク達を殺そうとしている奴ら、だよね?」グランは恐る恐る言うが、実にその通りだ。俺達を、たっ

た一言で《軍》に所属する人間使って、殺戮する事が出来る人間ってこと。


 自身の事しか考えない自己中心的な組織。


「…彼女…街に連れて行くの? 街の子供達と大人が知ったら……マキと彼女、殺されるよ? あの人たち、《軍》に所属する人間を徹底的に嫌っているから」


 セリアは目を伏せながら言う。グランも気まずそうに目を逸らす。


「責任は全て取る。だから…」


「この子を~、っていうのはナシよ? って、なんで俺が言おうとしたことを……って顔してるけど、私は仮にも十五年一緒に暮らしているんだから、それくらい分からなくてどうするの」


「ボクもだけどね。そもそも、ボクとセリアは、マキナが何言っても聞かないことを知っているからね。ど

うせ、セリアが「無理、嫌だ」って言っても、部屋の隅で看病とかしてると思うし……」


「そ。私と同い年と思う少女を、入浴や治療をするのは気が気じゃなくて任せられないし。もし、私がその立場だったら絶対に嫌。だから、私が看病する。マキ一人で、全てを背負わせるなんて、家族失格でしょ」


 セリアはそっぽ向きながら自身の長い髪弄る。


「問題があるね」とグラン。


「どうやって、街に連れて行くの? ここからじゃ、街まで二時間掛かるし、もう夜だから外に出るだけで死徒が集まってくるし」


 本当は、使いたくないが…《門》を使うしかないか。長距離移動すればするほど生命の危機になる―――。


「は―――?」


 身体が怠い。バタリと俺は倒れる。あーちくしょう。失血か。


「――――」

「――――」


 二人が何か俺に向って言ってるが……何も聞こえない。目も、白くて……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ