-第3撃- 本当の自分
「今晩は~」
今まで必死に探していた男はいとも簡単に僕の目の前に現れた。
突然のことでずっと気になっていたことや聞きたかったことがうまく言葉にできない。
「あんた誰だ?」
「あぁ~、失礼、自己紹介がまだでしたね
私の名前は”綱木 世道”」
世道と名乗る謎の男は軽く頭を下げて微笑んでくる。
やはりその笑顔にはどこか懐かしさを感じ、いやな気持ちにはならなかった。
「一応聞きますが、あなたのお名前は?」
一応?
僕のことを調べたのか?何のために?
いや、そもそもどうやって情報を手に入れられたんだ?
それとも探りを入れてるだけなのか。考えてるときりがない。
「...名前、わかんないんです
名前だけじゃない...今まで生きてきた記憶がすべてないんです」
世道は少し考えた後、
「なるほど、それなら納得がいく」
小さくうなずき、こちらを向く。
そして何かを思いついたような顔をするとこういった。
「私についてきてください」
「はぁ!?今何時だと思ってるんですか??
それに、なんでいかにも怪しい人についていかなきゃならないんですか...」
「自分が何者か、知りたくないんですか?私に聞きたいこともあるんでしょう??」
僕は馬鹿なのかもしれない。いや、馬鹿だろう。
こんなあほみたいな記憶喪失と夢なんかのために、身の危険も顧みず自ら罠にハマりに行くなんんて...なんていいカモなんだ。
こんな遅い時間に私服に着替え、バックに必要なものを詰めて外出の準備をする。自分は今からどこに連れていかれるのだろうという不安な気持ちを心の奥底にしまい家の鍵を閉めた。
「では、行きましょう。外に車を用意してます。」
「は、はい、、」
外にある階段を降りるとあまり車のことが詳しくない自分でも良さそうな車だなと思わせる真っ黒できれいなものが殺風景な道にたたずんでていた。
世道にリードされ助手席に座る。外見もそうだったが中もかなり高級感が漂っていて、謎の緊張感に包まれ僕は一息つく。
「では、出発しますね
少し時間がかかるのでリラックスして寝ていてください」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
聞きたいことは山ほどあるが、わざわざどこかへ連れて行くということはここでは話してくれないんだろう。そう考えているうちに夜も遅く仕事で疲れていた僕はすぐに寝てしまった。
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「...さい、....きてください」
ん...なんだ朝か?
「起きてください!」
「す、すみません。爆睡してました。」
世道は面白そうに笑いながらシートベルトを外し車のドアを開ける。
何時間たったのだろう、かなり僕は深い眠りについていたらしい。車の窓から見える景色は何の変哲もないただの駐車場。ただ、日の光が入ってきていないのと窓らしきものが見当たらないのでたぶんここは地下だ。
とりあえず僕もシートベルトを外し、涎を拭き車から出る。
「こっちです」
世道に案内をされながら建物の中に入る。エレベーターから出ると白衣を着た人やスーツを着た人など様々な人がいる。
「ここって研究所かなんかなんですか?」
「ん~、まあそんなもんですかね~」
これから僕は研究材料にされるのか!?
なんてそんなバカな話あるわけないだろ!と自分のボケにツッコんでみる。うん、つまらない。
そんなくだらないことを考えているうちについたみたいだ。
「お待たせしました~到着で~す」
そこは部屋の扉の前だった。僕はここに一度も来たことはないのになぜか懐かしい気分に陥る。まるで我が家に帰ってきたかのような安心感があり、ここなら何かつかめそうなそんな気がした。
「ほんとに自分が誰なのか分かるんですか?」
「この部屋に入ればわかります」
僕は心のどこかに迷いがある、もしこの記憶が戻ったとしてそれが残酷な記憶だったとしたら?忘れていたほうがいい記憶だとしたら?この扉の先にその真実があるとしてそれをどう受け止めたらいいか分からない。
『人類を、地球を救え』
この言葉が頭から離れずにいる。こんな厨二臭いセリフ、普通だったら真に受けないはずなのにその言葉の一語一語が僕の心に訴えかけてくるのだ。いつもの僕なら多分、この扉を開けずに逃げ出していただろう。けど今回は違う、自分の中に存在する違う誰かが突き動かす。すべてを知れと。
震える手をドアノブに伸ばして深呼吸し、ゆっくりと傾けドアを引く。
「これは.....」
そこには十数人程度の男女が仕事をしていた。ただそれだけ、ただの仕事部屋。
それだけなのになぜだろう、
僕が泣いているのは。
別に記憶を取り戻したわけでもない、どこか痛いたいわけでもないのに涙があふれてくる。
「何か思い出した?
二間 烏.....いや、クロ?」
二間 烏。
それが僕の名前らしい。
難しいよう