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LinK  作者: 及川有紀子
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LinK7

夕暮れの公園で、女の子と男の子が歩いていた。

途中で男の子が転んでしまい、泣きだしてしまった。

女の子が駆け寄ると、男の子は泣き止み、二人は手を繋いで歩き出した。

その光景が、いつかの僕と重なった。

かくれんぼをしていて、次第に日が暮れて、さびしくなって、泣き出す寸前で、お姉ちゃんが見つけてくれた。


(ゆうちゃんみっけ!もうゆうがただからかえろっか!)


お姉ちゃんが手を繋いで、僕らは家に帰ったっけ。



お姉ちゃんは最近変わった。

Tシャツとジーパンだった服がワンピースやスカートに。

スニーカーはヒールのある靴に。

少年漫画からファッション雑誌に。

フィギュアを置いてある台には化粧品が増えた。



ぼくらは姉弟なのに、遠くに感じた。



「ただいまー…」


「おかえりマイスィートハニーあーちゃーん!」


玄関をあけると知らない男性に抱きつかれた。

人は驚くと声もでないんだね、痴漢にあう女性の気持ちが少し分かったかも。



「…ん?あーちゃんじゃない、君、だれ?」


それはこっちの台詞だ。ばっきゃろう。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


抱きついてきた人は、お姉ちゃんの恋人だと言った。


「律です。熊谷律。保健教諭をやってます。君が、有紀くんだね?」


「なん、で、ぼくの名前…」


「あーちゃ…いや、お姉さんから話は聞いてるから。すごく賢い弟がいるって」


「ぼくは、そんな…」


人見知りしがちなぼくはどうこたえたらいいか分からなくて、どうしても沈黙が多くなる。

お姉ちゃんは逆にニコニコ笑って、空気を和ませてくれる。

だからぼくは、いつもお姉ちゃんのうしろにいた。


「いつも自慢の弟だー!って言ってたし、家族喧嘩の事も聞いたよ、」


お姉ちゃんは、本当は都会の高校に行きたかったらしく、お父さんとお母さんを説得したが、両親は駄目の一点張りで、


「そんなに有紀の方が大事なら、私を殺せば良かったじゃない!なんでいつも有紀ばっかり良くて私が駄目なの!?なんで産んだのよ!!」


お姉ちゃんの泣いてる姿を見たのははじめてだった。

ぼくは将来何になりたいかも、まして、高校も出れたらどこでも良かった。

お姉ちゃんはアニメ好きで、声優になりたいって、ずっと言ってた。

でも、結局近くの高校に入学して、専門や大学には行かないで、ずっとバイトしてる。たまに劇団に呼ばれて出演してるときもある。


気付いたら、繋いでたはずの手は離れて、ぼくは真っ暗な中、ひとりぼっちで、どこに行けばいいかも、何をしたらいいかも分からない。

きっとこの人は、ぼくからお姉ちゃんを奪ってしまう。

それが無性にかなしくて、苦しかった。



「…ってください…ぼく、から、おね、ちゃんを、とらないで。」


ぼたぼたと涙が制服に染みていった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「おはよう、今日からうちのクラスの副担任になった熊谷律先生よ、」


「熊谷律です。よろしくお願いします」


クラスメイトはイケメンだね、とか、彼女いるのかな?と話してる。

男の僕から見ても先生は爽やかで格好いいとおもう。

ただ、お姉ちゃんの事をマイスィートハニーとか言わなければ。


「あと、進路調査票配るから、明後日までに私か熊谷先生に渡してね、」


クラスメイトの大半は書き終わってすぐ提出していたが、ぼくのは真っ白なままだ。ぼくは、お姉ちゃんがいないと、何も決められない。どこにも、いけない。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アンダーロイドが暴走しているとの連絡があり、ぼくらはすぐ向かった。

ただ、着いたときには姿がなかった。

もしかしたら、どこかに隠れているかもしれない。


(集中しろ…!)


加賀くんや零菜さんを失った今、誰も犠牲者は出したくない。



「有紀!上だ!」


白石くんの言葉が聴こえた時、僕は機体ごと飛ばされた。



「いってぇ…」


視界は真っ暗で、何も見えない。

他の人は無事だろうか。


(お姉ちゃんなら、見つけて、くれるかな、無理かな、)



「…!ん…ゆ…くん…!」


誰かが僕を呼んでる。

少し開いたコックピットから見えたのは、


「有紀!!」


「お、ねえ、ちゃ、」


「掴まって!」


もう少しで、手が届く。

そんな時、僕の手を掴んだのは、律先生だった。


「有紀くん!もう少しだけ頑張れ!」


律先生が、いつかのお姉ちゃんの姿と同じように、眩しく見えた。

先生の手は、ごつごつとして、でも優しい、大きな手だった。

少しだけ、光が見えた。気がした。


「ふー、無事で良かったよ、」


「んの馬鹿!心配したんだからね…!」


「ごめん、」


大きかったはずのお姉ちゃんは、僕よりも小さくて、手が震えていた。


「…有紀くんは言ったよね、お姉ちゃんをとらないでって、」


「…!」


「ぼくは、君から明ちゃんを取るんじゃない、明ちゃんが苦しい時や悲しいものを半分こするんだ。そして、有紀くんが迷った時はもちろん手を伸ばして、」


正しい方向に導くんだ。


先生はそう言って笑った。




「わたしさ、声優になりたいって、ずっと思ってた。でも、最近考えたんだよ、声優以外にもアニメと関わる仕事。」


「先生の知り合いの人が、アニメとコラボして服や鞄を通販で販売してる人がいてさ、そこに就職しようかと思ってるんだ、」


「一度お世話になってる所で、私がちょっとデザインした鞄が売れてさ、手紙届いたんだよね、」


使いやすい鞄で嬉しい、

この鞄のおかげで友達ができた


「もちろん苦情とかもあったけどさ、それ以上に使ってる人にそう言ってもらえるのも幸せだなって。」


「私がもし都会の高校行ってたら先生に会うことも、なかったと思う。私は、今まで、歩いてきた道が間違いだったなんて言いたくないし思いたくない。」



ひとつひとつ、選んだのは自分だから。

その道が間違ったって、最後はここにこれるように。とお姉ちゃんは笑った。



ぼく、は。


「先生…いや、律、さん、」


「なんだい?」



「お姉ちゃんは、頑固で意地っ張りで頭は悪いし口も悪いし可愛くもない、」


「うん、」



「それでも僕の進むべき道をつくってくれた、自慢のお姉ちゃんです」


「…うん、」



「どうか、末永くよろしく、お願いします。」



「…喜んで。」



学校に戻るとき、僕の右手はお姉ちゃんと。

左手は律先生と繋いだ。

じんわりと広がる体温が心地よかった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆)


「あなたの成績なら明文大でもいいと思うけど…」


「はい、でも。ここで学びたいことがあるんです。」



進路調査票には専門学校に進学と書いた。

人見知りな僕は文章で伝えようと考えたのだ。



先なんて、見えない。けど、


(この選択は、まちがって、ない、)



そんな気がした。







∴世界は僕に優しくなかった。でもそれは僕が拒絶していただけで、世界は思ったよりも僕に優しかった。










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