LinK3
俺には母親がいない。
俺が3歳の時に親が離婚し、父が男手1つで俺を育ててくれた。
さびしくないと言えば嘘になる。
でも必死に働く父を見て、我儘は言えなかった。
北青学園に入学して、周りの人とも打ち解けた頃、俺は恋をした。
藤原萌美さん。
常にタック(拓人のニックネームだ、俺がつけた)の近くにいて、世話をやいて、(そこに、俺がいたらいいのに)
「どうしたんだ、加賀、難しい顔して」
「えっ、いや、メグさん今日も可愛いなと思って、」
「またかよ、お前、懲りないな」
「俺の恋の炎は誰にも消せないぜ!!」
「ははっ、何だよそれ」
俺は知らない間に、メグさんに、勝手な母親像を抱いていたのかもしれない。
シュミレーションの授業中、街でアンダーロイドが暴走していると報告が入り、急遽、出動する事になった。
鬼みたいに厳しい鬼庭教官は、全員戻ってくるように、と言った。
これが、俺達のはじめての実戦だった。
リンクした機体は軽くて、操縦してる感じなんてなくて、すぐに終わると思ってた。
「拓人!!」
メグさんの悲鳴に近い叫びが聞こえる。
タックが何かを守ろうとして、攻撃を受ける寸前、頭で考えるより先に身体が動いた。
「ハル!!」
「タック、メグさん、早く逃げろ!」
モロに攻撃をくらって、ショートした部分もある、
通信は動く、ただ、さっきの衝撃でコックピットが開かない、
通信からは鬼庭教官の焦った声が聞こえる。
「いってぇ…」
「加賀くん!聞こえる!?動けるならそこから逃げなさい!」
「…」
「聞こえてるの!?」
「なぁ、1つ教えてくれ、」
「早く回避しなさい!」
「あんた、俺の母親だろ」
「!」
「俺、ずっとあんたが帰ってくるの待ってた。
でも、あんたは帰ってこなかった」
「そんな事より、動けるなら」
「あんたにとって、俺は何だった?邪魔だった?産まなきゃ良かった?…教えてくれよ…」
きっともうすぐ、この機体ごと俺はいなくなる。
涙が、とまらない。
「俺は、あんたの息子で良かったって、思ってる」
「加賀くん!」
「最期にもう1つ、俺の名前、呼んでよ」
「っ…!何度でも呼ぶわよ!だから戻ってきなさい!春翔!」
「…ありがとう、おかあさん、」
その瞬間、眩しい光が走った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
こどもの声がする。
目を覚ますとコックピットに居たはずなのに、機体はどこにもなく、
1面黄色の菜の花畑にいた。
「おかーしゃ、あげる!」
「本当?ありがとう、ハルト」
「あっ、おとーしゃん!」
大きな木の下で父であろう、男性が手を振っている。
こどもはきゃっきゃっとはしゃぎ、父の元へ走って行った。
母であろう女性は俺の方を向いて、手を伸べた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「春翔くん…!」
「ハル…!」
少年と少女が必死に呼ぶ。
それでも彼は幸せそうな顔で、目を覚ます事はなかった。
∴春を翔ける少年のはなし