LinK20
「もうすぐだ…!もう少しで…逢える…!」
青白く光る中の背中は小さかった。
今、ここに居る存在にはきっと気づいていない。
僕ははもと来た道を戻った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やっぱり、ここに居た。」
「…なんや、おったら悪いんか」
「…いや、僕も入れてよ」
丸まっていた白虎のお腹を枕に僕は横になった。
柔らかい毛を、ゆっくりと撫でた。
太陽の光が、眩しかった。
「おー!ここにおったか!」
「慎さん、」
「いや〜やっぱり天気は晴れの方がええのぅ、」
のっそりと白虎が起き上がった。
「どうした白虎、便所か」
「慎さん、デリカシーなさ過ぎ」
「それがわしじゃからのぅ!」
「開き直ったよ…」
もう、白虎の姿は見えなくなっていた。
「ほうじゃ!キャッチボールせんか?」
「キャッチボール?」
「いや〜片付けてたらグローブとボールが出てきたけぇのぉ、おまん、運動苦手そうじゃし、」
「いや、ずっと野球やってきたし、」
「そうか!ほれ!息抜きにやろうや!」
慎さんは太陽のように、笑った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「すごいわね、千鶴」
「さすが僕達の子供だ」
大手家電メーカーの社長の父。
中学教師の母。
僕は子供の頃から色んな習い事をした。
習字、ピアノ、水泳、そろばん、英会話…
最初は両親も褒めてくれた。けれど、次第にそれが「当たり前」になっていった。
テストで百点取るのも、
運動会の徒競走で1番になるのも、
息をするみたいに、僕にとっては普通になっていた。
そんな時、野球を始めた。
どんなボールも取れたし、打てば必ずホームランになった。
最初はチームのメンバーも喜んだ。
ただ次第に誰も何も言わなくなった。
そんな時、椿と出会った。
試合が終わった時、話しかけてくれた。
「すっげーな、お前!」
「そ、そうかな…」
「おう!また対戦する時は負けねーからな!」
太陽みたいに笑う顔が、忘れられなかった。
また椿と試合出来るように今まで以上頑張って練習した。
でも、頑張っても頑張っても、何を頑張ればいいのか、分からなかった。
それから、椿が野球を辞めたと聞いた。
ねぇ、まだ再戦してないよ、椿。
いつか椿が救ってくれたように、俺が、椿の光になりたかった。
それなのに、機械と楽しそうにキャッチボールする、椿を見た。
なんで、どうして、俺じゃないの、なんで、なんで、俺の方が先に椿と会ってるのに、なんで、あんな機械に笑いかけるの、なんで、
そして、アンドロイドの勉強をした。
破壊するのは、簡単だった。
ただ、抵抗されたのは計算外だったけどね。
これで椿は俺を見てくれる!
そう、思ってたのに、椿は、泣いていた。あんなガラクタの機械に。涙を、流していた。
「…ねぇ、慎さん、俺、欲しいものはずっと手に入ってたのに、1つだけ、手に入らないものがあるんだ、どうしたら手に入るのかなぁ…」
「…そりゃ、金で買えるものは簡単に手に入るが、買えないものは、どんなに欲しくても手に入らんたい、じゃから、大事にするんじゃろう、生命も、感情も、心も」
慎さんの投げたボールが、綺麗にグローブに吸い込まれた。
∴私の恋心は死にました