LinK16
大人は嘘つきだ。
子供に嘘をつくなと言いながら自分は平然と嘘をつく。
それから俺は、大人を信じられなくなった。
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「今日の夜はカレーよ、」
「本当!?ぼく、お母さんのカレー好き!」
「じゃあ、行ってくるよ、」
「あっ、待ってよお父さん!お母さん、行ってきます!」
「行ってらっしゃい、」
父と母と3人で、慎ましく暮らしていた。
その日の朝も、いつも通りだったはずだった。
「ただいまー…!」
学校から帰ると、母親は首を吊って死んでいた。
「お、かあ、さん…?お母さん、お母さん!」
子供だった俺は、どうしたらいいかも分からなくて、目を背けた。
しばらくは父親と過ごしたが、俺は、ひまわり園に入れられ、父親がどこに行ったかなんて知らないし、生きてるのか死んでるのかも分からない。
(迎えに来るまで、いい子にしてるんだよ、)
父親がさいごに言った言葉。
いい子にしてたはずなのに、むかえになんて来なかった。
園では女の子の方が多かった。
しばらくすると同じ年のヒナと楓と過ごす時間が増えた。
そして、火事になったあの日、
(必ず、迎えに行くから、待ってて)
なぁヒナ、俺はその言葉を、信じて、いいんだよな。
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楓と二人、行くあてもなく歩いていると声をかけられた。
がたいのいい、男性だった。
「こどもがこんな時間にうろついてたら駄目じゃき、」
楓と繋いでいた手に少し力が入る。
「あ、あなたには関係な、」
「帰るとこ、ないのか、」
何も、言えなかった。
「よし、ちと狭いけど家に来るか!わしは慎じゃ、波多野慎。教師をしちょる、まぁ、何とかなるじゃろ、」
慎さんは後先考えずに俺達を助けてくれた。
慎さんは俺達にとって、太陽みたいな人だった。
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「「海武高校?」」
「そうじゃ、わしが働いてるとこじゃき、海も見えるし、寮もある、特待生制度もある、アンドロイドやリンクに関しても最先端技術を勉強出来る、どうじゃ?」
正直な事を言えば、学校には行かず、働いて、慎さんと楓、二人といられるなら、それで良かったはずなのに、自分の事が、分からなくなった。
やりたい事、行きたいとこ、あるはずなのに、わからない。
「正直な事を言うとな、今はわしが勉強を教えちょる、けど、それじゃおまさん達の世界は狭いままじゃ、学校で、色んな友達つくって、その目で、広い世界を見てほしいんじゃ、」
「どこに行っても、ここがおまさんらの家じゃ、さびしい時、苦しい時、わしを頼りんさい、」
そして海武高校に入学した。
だが、ある日、慎さんは姿を消した。
俺達には何も言わずに。
その時、はじめて楓が泣いた。
楓はつよいと、勝手に思っていたから、どうしたらいいか分からなくて、恐る恐る抱きしめた。
抱きしめた身体は、とても小さくて。
「楓、俺は、お前をひとりにさせない、何があっても、守るよ、」
大事なもの、まもれるように。
俺は嘘をつかないというように。
∴うそつき群青