LinK13
「聖川くんと山吹さんはどうするの?」
海武高校は寮があった。
けど今は特別編入で北青学園の生徒だ。
ここに寮はない。
福島は実家がある。けど、アタシと真守は。
「うちに妹いるけど、良かったらおいでよ、」
真守は白石の家に。
アタシは。
「ねぇ、山吹さん、家に来る?うちならお姉ちゃんいるから服とかいっぱいあるし、僕が嫌なら先生ん家行くし!」
「…よろしく、」
小松の家に行く事になった。
帰り道は静かで、山に沈む夕陽が少し滲んで見えた。
「ただいまー」
がらりと玄関を開ける。
とても広い家だ。
「お、おじゃまします…」
「おかえりー、有、ともだ…ち…」
奥から出てきた女性はほわほわして、のんびりした感じで、少しずつ私に近づくと抱きついてきた。
「きゃー!お人形さんみたい!可愛い!やだ有の彼女!?私の妹!?ああもう今日は寝かさないわよげへへって痛い!」
小松が近くにあったスリッパで女性の頭を叩いた。
「彼女じゃなくてクラスメイト!行くとこないから家に来てもらったの、お姉ちゃんはしばらく律先生のとこ行ってね」
「え、やだ。こーんなに可愛い子がいるのに行くわけないじゃん、あんたが行きなさい、あ、私有紀の姉の明です。明るいって書いて、あき、あなたのお名前は?」
「や、山吹、楓です…」
「楓ちゃんね、私の事はお姉ちゃんって呼んでね!」
「ごめんね山吹さん、うるさくて、お姉ちゃんの部屋貸してね、」
「当たり前よ!さ、早くあがって、」
普段誰かの面倒をみてきたアタシには、誰かに甘えるなんて出来なくて、二人の優しさがくすぐったかった。
「楓ちゃん背が高いからな〜…よし!今日だけこれで我慢してね、明日買いに行こう!」
「でも、アタシお金ないです…」
「何言ってるの!私が出すから、大丈夫よ、」
「そ、そんなに迷惑かけるわけには…」
「なーに言ってるの!迷惑なんてかけて当たり前!私は気にしないし、うちは、ほら、弟だから服の趣味合わないし、妹が出来たら二人で買い物にいくの夢だったんだよ!」
楓ちゃんは、わたしの大切な妹よ、と、お姉さんは小松と同じように笑った。
アタシはどうも人に優しくされると、大切にしたいって思えた。でも、できない。
それが嫌だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さーて次は…」
「ま、まだ行くんですか…!?」
下着や衣類、靴、化粧品、軽く2万円は使ったんじゃないだろうか。
お姉さんはまだ行くという。
自分の事には無頓着だったから正直疲れてきた。
「疲れたでしょ?お茶でも飲んで行きましょ」
ゆっくりと時間が流れているような空間は居心地が良かった。
「楓ちゃん、私の事苦手でしょ、」
お姉さんはくすくす笑いながら言った。
「いいよ、私の事嫌いでも。買ったもの全部捨てたって構わない。でもね、私が昨日言った事は本当よ、あなたは、私にとって大事な妹よ、」
「…アタシは、今まで人に優しくされたことなくて、どうしたらいいか分かんなくて、でも、おねえさんの事は、嫌いじゃ、ないです」
上手く伝えようとしたが、どうにもアタシは苦手らしい。
「良かったー!私こんな性格だからさ、嫌なら、はっきり言ってね、」
「…アタシと関わると、必ず不幸になるんです、アタシは両親が大好きで、大切だったのに、父親の暴力、母親の不倫、ひまわり園に行って、陽向、真守、他の子達も大事だった。でも、火事になって、陽向はいなくなって、真守しかいなくて、」
真守はいてくれた。
それだけが救いだった。
「アタシは、いつも大事なものはどこかに行ってしまう、それが、嫌で、だから、おねえさんも、いなくなってしまったら、アタシは、」
「なら、私を大事にしなくていいんだよ、」
おねえさんの顔がぼやけて見えやしなかった。
「楓ちゃんにとって、1番じゃなくていい、100番目でも、どこでも。私がいたって事、覚えててくれたら、私は十分よ。」
「…はいっ…!」
「ほら、泣き止んで、私、女の子の涙に弱いから、」
それから、おねえさんと沢山話した。
帰り道、ずっと手を繋いでくれた。
少しずつだけど、冷えきった心が溶けてく感じがした。
学校に行く時、小松に言われた。
「山吹さん、なんか変わったね、雰囲気というか、家に来て良かったでしょ、」
「…うん、」
「お姉ちゃんは馬鹿だけど、真っ直ぐな人だから、…時々うざいけど、」
「悪かったなうざくて。ならお弁当いらないね、」
家を出てすぐおねえさんがお昼を届けてくれた。
小松の分と、アタシの。
「ほら、二人共遅刻しないようにね、行ってらっしゃい、」
「行ってきまーす」
「…行って、きます、」
言いたくても、言えなかった、あの日に、置き去りに、してきた言葉。
今なら、胸をはって、言える。
∴ありがとうもごめんねもいえないままあなたはいってしまうのでしょう