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LinK  作者: 及川有紀子
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LinK10



リクの持つもの全部が欲しかった。

服でもペンでも靴でも玩具でも。

同じ顔で同じように育ってきたのに。

何故かボクには違うもののように思えた。



その日は確か天気が悪くて、雷も鳴っていて、ひとりじゃ怖いと泣くリクと一緒の布団で寝たんだ。

手をつないで。

このまま、一生離れなければリクはボクから離れていかない、リクはボクのたったひとりのかみさまなんだ。

リクはお人好しで、人を疑うなんてことしないし、困ってる人を見捨てるなんてできない、そんな、他の人に向けられるその愛が、欲しかった。

勉強が出来ても、運動が出来ても、リクがいなければ意味なんてなかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「海武高校に行きたい」


そう言ったリクにボクは、頭の中が真っ白になって、なんで、どうして、としか言えなかった。



その日の夜、寒いからと理由をつけてリクと同じ布団で、あの日みたいに手をつないで一緒にいた。

このまま朝が来なければ、血管が繋がれば、1つの心臓を半分こできたら、そんなことを考えながらボクは眠った。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「突然だけど、海武高校から特別編入で三人の生徒が来るわ。入って、」



ガタンっと音がした。それは椅子が倒れた音だった。



「………リク……」



「…久しぶりだね、カイ君、」


しばらく沈黙が続いた。

それを破ったのは



「山吹楓です、隣のは聖川真守、で、こっちが福島陸、アタシの彼氏なんで、よろしく」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ボクは山吹さんが嫌いだ。

リクの彼女というだけで無償で愛される。



「カイ君!!」



シュミレーションの授業中、集中出来てなくて危うく失敗するところだった。逆にリクに助けられた。その力も欲しかった。

それがさらにボクを苛々させた。

自分の事は自分で出来てたはずなのに、なんで。

廊下を歩いていると山吹さんに声をかけられた。



「おい、福島知らねーか?」



「…何か用?」



「あー、お前も福島だもんな、リクの方を探してんだ」



「…ごめん、知らない、」



手には数枚のプリント。

沈黙が嫌で、ボクは、逃げようとした。



「お前、アタシの事嫌いだろ、」


歩き出そうとした足は動かなくて、口も乾いて。



「そん…な、こと、」



「そして自分の事も嫌いだろ」


何もかも見透かされたような気持ちになって、気づいたら

彼女の胸ぐらを掴んでいた。



「黙れ!お前に何がわかんだよ!」



「分かんねーし分かりたくもねーよ、でも、」



お前もアタシも似てんだよ。

泣きそうな声で、彼女はそう言った。


胸ぐらを掴んでいた手はいつの間にか振りほどかれていた。


「アタシは親に捨てられて、ヒナの家、ひまわり園に居たんだ。真守もな。」


「人見知りの激しいアタシは友達なんていないし、声も低いから喋るのも好きじゃなくてさ、ひとりぼっちだったんだ」


「でも、ある日、アタシより年下の女の子が来てさ、アタシに絵本読んでってせがんで来て、読んであげたらさ、」


(おねえちゃんの声、優しくて安心する)


「そんな風にはじめて言ってもらってからさ、少しずつだけどアタシはアタシを好きになれた」



「お姫様になりたくてもなれない、でも、別にお姫様になれなくても、誰かを救う事が出来るなら、誰かを守れるなら、アタシはアタシのままでいい、そのままちゃんと前を向ける」



「でも、お前は違うだろ、」



「リクから全部奪ったって、お前はお前でしかねーんだ、福島海っつー人間なんだよ、お前がお前を否定すんなよ、」



そんな、無意味でさびしいことすんなって、

そう言って彼女は歩き出していた。


ボクはボクが嫌いだ。

いくら勉強出来ても、運動が出来ても、リクがいなければ、ボクは息すらできないままだ。

学校だって親が決めた。リクがいるならどこだって良かったんだ。

リクが海武高校を受験すると言った時、勝手に裏切られた!って、思ったんだ。


リクはちゃんと自分と向き合っていただけなのに。



「カイ君…?」


同じ顔が心配そうにこちらを見ていた。


「…リク、ボク、」


「これ、カイ君にあげる!」


「…これ」


「クッキー焼いたんだ、食べてよ」



ニコニコと笑う、初めて見た、リクの笑った顔。



「少しずつで、いいんじゃないかな?


「えっ?」


「ボクはね、カイ君と違って運動も勉強も苦手なんだよ」


「…知ってる」



「でも、お化粧や服の知識は女の子にも負けないと思うし、女の子の格好してる方がボクは好きなんだ」


「…うん、」


「ずっと隠してきた。でも、楓さんや真守くんが、いいじゃんって言ってくれて、」


「………」


「少しずつだけど、男の自分も好きになれたんだ」


「ボクらは双子だけど、ボクは福島リクで、君が福島海。別の人間なんだから」


違うのは当たり前だよ。

そう言って、二人で目が溶けるんじゃないかってくらい泣いた。


その日の夜、ボクらはまた二人で眠った。

雷も雪もない、静かな夜だった。



∴あのこになりたい、あのこがほしいと、ぼくはないた。








      

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