LinK10
リクの持つもの全部が欲しかった。
服でもペンでも靴でも玩具でも。
同じ顔で同じように育ってきたのに。
何故かボクには違うもののように思えた。
その日は確か天気が悪くて、雷も鳴っていて、ひとりじゃ怖いと泣くリクと一緒の布団で寝たんだ。
手をつないで。
このまま、一生離れなければリクはボクから離れていかない、リクはボクのたったひとりのかみさまなんだ。
リクはお人好しで、人を疑うなんてことしないし、困ってる人を見捨てるなんてできない、そんな、他の人に向けられるその愛が、欲しかった。
勉強が出来ても、運動が出来ても、リクがいなければ意味なんてなかった。
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「海武高校に行きたい」
そう言ったリクにボクは、頭の中が真っ白になって、なんで、どうして、としか言えなかった。
その日の夜、寒いからと理由をつけてリクと同じ布団で、あの日みたいに手をつないで一緒にいた。
このまま朝が来なければ、血管が繋がれば、1つの心臓を半分こできたら、そんなことを考えながらボクは眠った。
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「突然だけど、海武高校から特別編入で三人の生徒が来るわ。入って、」
ガタンっと音がした。それは椅子が倒れた音だった。
「………リク……」
「…久しぶりだね、カイ君、」
しばらく沈黙が続いた。
それを破ったのは
「山吹楓です、隣のは聖川真守、で、こっちが福島陸、アタシの彼氏なんで、よろしく」
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ボクは山吹さんが嫌いだ。
リクの彼女というだけで無償で愛される。
「カイ君!!」
シュミレーションの授業中、集中出来てなくて危うく失敗するところだった。逆にリクに助けられた。その力も欲しかった。
それがさらにボクを苛々させた。
自分の事は自分で出来てたはずなのに、なんで。
廊下を歩いていると山吹さんに声をかけられた。
「おい、福島知らねーか?」
「…何か用?」
「あー、お前も福島だもんな、リクの方を探してんだ」
「…ごめん、知らない、」
手には数枚のプリント。
沈黙が嫌で、ボクは、逃げようとした。
「お前、アタシの事嫌いだろ、」
歩き出そうとした足は動かなくて、口も乾いて。
「そん…な、こと、」
「そして自分の事も嫌いだろ」
何もかも見透かされたような気持ちになって、気づいたら
彼女の胸ぐらを掴んでいた。
「黙れ!お前に何がわかんだよ!」
「分かんねーし分かりたくもねーよ、でも、」
お前もアタシも似てんだよ。
泣きそうな声で、彼女はそう言った。
胸ぐらを掴んでいた手はいつの間にか振りほどかれていた。
「アタシは親に捨てられて、ヒナの家、ひまわり園に居たんだ。真守もな。」
「人見知りの激しいアタシは友達なんていないし、声も低いから喋るのも好きじゃなくてさ、ひとりぼっちだったんだ」
「でも、ある日、アタシより年下の女の子が来てさ、アタシに絵本読んでってせがんで来て、読んであげたらさ、」
(おねえちゃんの声、優しくて安心する)
「そんな風にはじめて言ってもらってからさ、少しずつだけどアタシはアタシを好きになれた」
「お姫様になりたくてもなれない、でも、別にお姫様になれなくても、誰かを救う事が出来るなら、誰かを守れるなら、アタシはアタシのままでいい、そのままちゃんと前を向ける」
「でも、お前は違うだろ、」
「リクから全部奪ったって、お前はお前でしかねーんだ、福島海っつー人間なんだよ、お前がお前を否定すんなよ、」
そんな、無意味でさびしいことすんなって、
そう言って彼女は歩き出していた。
ボクはボクが嫌いだ。
いくら勉強出来ても、運動が出来ても、リクがいなければ、ボクは息すらできないままだ。
学校だって親が決めた。リクがいるならどこだって良かったんだ。
リクが海武高校を受験すると言った時、勝手に裏切られた!って、思ったんだ。
リクはちゃんと自分と向き合っていただけなのに。
「カイ君…?」
同じ顔が心配そうにこちらを見ていた。
「…リク、ボク、」
「これ、カイ君にあげる!」
「…これ」
「クッキー焼いたんだ、食べてよ」
ニコニコと笑う、初めて見た、リクの笑った顔。
「少しずつで、いいんじゃないかな?
「えっ?」
「ボクはね、カイ君と違って運動も勉強も苦手なんだよ」
「…知ってる」
「でも、お化粧や服の知識は女の子にも負けないと思うし、女の子の格好してる方がボクは好きなんだ」
「…うん、」
「ずっと隠してきた。でも、楓さんや真守くんが、いいじゃんって言ってくれて、」
「………」
「少しずつだけど、男の自分も好きになれたんだ」
「ボクらは双子だけど、ボクは福島リクで、君が福島海。別の人間なんだから」
違うのは当たり前だよ。
そう言って、二人で目が溶けるんじゃないかってくらい泣いた。
その日の夜、ボクらはまた二人で眠った。
雷も雪もない、静かな夜だった。
∴あのこになりたい、あのこがほしいと、ぼくはないた。