LinK9
カイ君は何でもできた。
スポーツも勉強も。友達だって多かった。
逆にボクは何もなかった。
同じ誕生日で、同じ顔なのに。
スポーツも勉強も苦手で、友達と呼べる人も少なかった。
だから、ボクはボクが嫌いだ。
鏡の前でチョコレートブラウンのウィッグをかぶり、
ピンクのグロスとチーク。
白のブラウスとピンクのワンピース。
白いソックスに赤いパンプス。
鏡の前には、ボクだけどボクじゃない、おんなのこ。
寮のドアをこっそり開けて、街に出た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
両親に言った。ボクの我儘。
「海武高校に行きたい」
カイ君が北青学園を受けるのを知っていたボクは、比べられるのが嫌で、カイ君から、逃げた。
カイ君はボクが海武高校に行く事を知った時、ずっとなんで、どうして、と繰り返してた。
ボクは、カイ君の顔を、見れなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ぼんやりと海を眺めながら歩いていると人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさいっ!」
「悪い、怪我ないか、」
ぶつかったのは同じクラスの山吹さんだった。
クラスメイトに見つかるなんて!
でも、今は女装してるからばれないよね、なんて思っていたら、
「お前、福島だろ?同じクラスの。」
ばれてた。
どうしよう、気持ち悪いよね、あんまり話したことのないクラスメイトが女装だなんて。
なんて言い訳したらいいか分かんなくて、下を向いていたら目頭がつんとした。
「似合ってんぜ、その格好」
ばっと顔をあげると照れくさそうな山吹さんがいた。
「アタシはそういう格好似合わないから、福島が羨ましいぜ、」
「…気持ち悪く、ないの?」
男が、こんな、おんなのこみたいな真似事して。
「別に。可愛いしいいんじゃね?好きなんだろ?だったらそれでいいじゃん、」
山吹さんはあっけらかんと、言った。
すると待ち合わせしていたのだろう、聖川くんもきた。
「楓!悪い、遅くなった!……福島…?か?」
聖川くんにもばれた。
すると山吹さんがボクの肩を抱いて、
「かわいーだろ?アタシの彼女」
「なっ、なっ、」
ボクより、聖川くんの方が顔が真っ赤だ。
「ははっ、ジョーダンだよ、福島、この後暇か?」
「な、何の予定もないよ!」
「なら、お前が好きそうな店、連れてってやるよ」
ボクは2人に着いて行った。
路地裏に入ると、そこはあった。
「うわ〜…!すごい…!」
アンティークで飾られた、小さいお店。
「福島、お前、甘い物食えるか?」
「うん!好きだよ!」
「お前、やっぱ笑ってた方がいいな、可愛いし」
山吹さんは男のボクより男の子っぽくて、彼氏でもないのにボクを褒めてくれる。それがなんだかくすぐったかった。
運ばれてきたのは沢山のフルーツとクリームが乗ったパフェとチョコレートとバナナのパフェ、チーズケーキとコーヒー、ミルクティーが2つ。
山吹さんはチーズケーキとコーヒー。
聖川くんがチョコバナナパフェ
ボクがフルーツパフェを選んだ。
「なんか意外だな、聖川くん甘い物食べるイメージないから」
口のまわりにクリームを付けながら食べてる聖川くんを見た。
「真守は甘党だしコーヒー飲めないんだぜ、」
「さっ!最近飲めるようになった!」
「それでも砂糖とミルク大量に入れないと飲めねぇだろ、」
「2人は本当に仲良しなんだね、」
「ま、家族みたいなもんだしな」
「「だけど、お前は友達だろ、」」
ただのクラスメイトだとばかり、ボクは思っていたから、二人の言葉にまた泣きそうになった。
「どんな格好してようが、福島陸は友達だ。」
「福島も俺たちの事知らないだろ、逆に俺たちも福島の事をあんまり知らないけど、少しずつ知っていけばいいだろ、」
空っぽだったボクは、少しずつ満たされていく気がした。
その日、どうやって帰ってきたかなんて覚えてないけど、
幸せで、温かくて、お腹がいっぱいになって、ボクは眠った。
∴午前零時のお茶会