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webclap the 7th

9月の拍手小話等の再掲です

200字ショートショートと一部のお話の後日談

 

■勝負のゆくえ(from:野球部 79話のつづき)


「泉さん任せろ。こいつの苦手なコースは把握している。コントロール自信ある?」

「うん、結構」

「おい……」

「それは良い。俺のリードで完璧に打ち取らせてやろう」

「わあーい!」

「おい」

「外野に飛んでもフライやライナーはアウトだろ。山下ァー! もっと浅めに構えてろ!」

「おっけー! どこ飛んでも任せろ! 走ってキャッチしてやる!」

「おい!」

「うるせーよ松浦」

「お前どっちの味方なんだよ! 野球部の沽券に関わる問題だぞ!」

「さっきも言ったが俺は女子の味方だ」


「泉ちゃん、がんばって~」

「泉ちゃんファイトー」

「がんばるー! もし勝ったら2人の分もアイス要求してあげるね!」


「え、アイス……?」

「聞いたか?お前のような邪な考えの持ち主より純粋な女の子の味方して何が悪い」

「よ、邪って……」

「俺は全てお見通しだ」





■ニックネームの由来(from:(I love you) just the way you are.)


「ねえ、なんで先輩に『ミシュ』って呼ばれてるの?」

「えっ……」

「それはねー」

「あ、先輩」

「(げっ)」

「ミシュは高校のときからミスチルの大ファンでさ、あるとき話してて「ミシュチル」って噛んだんだ。で、クラスのみんなが大ウケしてそれからあだ名がミシュ」

「へえー!」

「…………」



「ちょっと! ミシュチルって噛んだのはあんたでしょ! なんで私が噛んだことになってんのよ!」

「じゃあ本来の由来言ってもよかった?」

「う……」

「でもカワイーと思うんだけどなあ、ミシュランタイヤのあいつ」

「かわいくない……」

「かわいーよ」

「かわいくない」

「ま、俺だけがかわいいと思ってればいいんだけど」

「はあ?」





■いつもいつでも(from:ねむり王子)


「……えーこのようなおめでたい席にお招きいただいたこと、たいへん嬉しく思っております。ご年長の方をさしおいてはなはだ僭越ではございますが、ご指名により、お祝いを述べさせていただきます。どうぞおふたりはお座りください」


「(……ちょっと。ちょっと!)」

「(…………。はっ!!)」

「(なんで主賓スピーチで寝られるのよあなたは!)」

「(いや寝てない寝てない目を閉じてただけ)」

「(ぜ っ た い ね て た)」

「(ねえ瞼に目、描いてくれない?かなり本気)」

「今この高砂でできると思う?太腿にフォークを突き刺してでも起きてて。せめて主賓スピーチだけは」

「(声デカい)」


「──彼は普段は寡黙なタイプで、黙々とひとりで仕事をこなし、時々いるのかどうかわからないほど気配を感じさせないこともあるのですが、いざ本番となると別人のようになり、軽妙でもありながらかつ真摯、誠実なトークによりお客様の信頼をしっかりと得る大変頼もしい人材で……」


「(絶対寝てるだけでしょ……。それを慌てて取り返してるんでしょ……)」

「(言うな……)」


「──最後になりましたが、ご両家の皆様と本日ご参列の皆様のご健康をお祈りいたしまして、挨拶の言葉と代えさせて頂きます。本日は、まことにおめでとうございました」


「…………」

(ドカッ!!)

「はっっ!!」



「(新郎寝てなかった?)」

「(寝てた)」

「(寝てた)」

「(完全寝てた)」





■ここは東京リバーサイド(≒200字ショートショート)


東京タワーが好き、と言ったら

「俺の部屋から見えるよ。見に来てみる?」と誘われた。

どきっとしつつその誘いにのる。


……でも何故私は新宿から(くだ)り電車に乗っているのだろう?


連れられ降りた最寄駅は新宿から快速40分。

彼のマンションは河原沿いの15階建て。


「ほらあそこ。わかる?」


遥か遠くに5mmぐらいのオレンジ色の棒が立っていた。





■きみのおにぎり(≒200字ショートショート)


背から何から全てコンパクトな彼女。


野外実習の昼飯で、女の子たちがワイワイとおにぎりを握っている。

ずらっと並んだおにぎりだけど

君のだけすぐわかるんだよな。他のよりも小さいから。


大きいのを選ぶ男らを横目に小さいそれを手に取る。


中身が俺の好きなおかかばかりだったのは、自惚れだろうか。





■super hypnotic!(≒200字ショートショート)


「起きろー! 文化祭の準備で早く行かないとでしょ!」


慣れた部屋にノックもせずに入り幼なじみを揺する。

「ん……」


寝ぼけた奴はぐいっと私の手を引っ張るとそのまま抱きしめ

なんと、キ……キスをした!


「何すんだ!!」


ビンタをくらった奴はベッドから落ちる。


「いや、今……夢の中で催眠術にかけられてて……キスしろって……」

「あれは“やらせ”でしょーが!!」



うちの催し物は『スーパー催眠術』だ。

むろん演技である。





■転校生トライアングル(from:東京代表ガール&ボーイ)



 日米ハーフの彼が転校してきて1ヶ月弱。


 すっかり一般人の私と彼が、それぞれ委員会を終えたあとにばったり昇降口で会って、途中まで一緒に帰ろうかと言っているところに、例の転校生がやってきた。


「お、マイケル」


 彼が転校生に声をかけた。ちなみに転校生の名前はマイケルではない。

 声をかけられた転校生は、若干青みがかった瞳を薄くして不満げにこっちを見た。


「あのさ、俺確かにアメリカの血入ってるけど、マイケルって名前じゃないから。なんでみんなマイケルって呼ぶわけ?」


 そう、彼はなぜかマイケルと呼ばれている。ちゃんと日本名があるにもかかわらず。

 なぜかって? アメリカ人ときたら「マイケル(・ジャクソン)」だから、かな? 多分そうだ。


「まあいいじゃん。みんな珍しいんだよ転校生が」

 彼が笑って言う。


「珍しいもなにも、聞いたけど二人だって転校生なんだろ? 東京からの」

「そうだけど、アメリカからの転校生のおかげで一気に存在が希薄になった」

「私、東京からって言っても西の方のど田舎から来たし。こっちの方がまだ都会だよ」

「え!」


 マイケルがなぜか私の一言に食いついた。

「そうなんだ!? 俺もなんだよ! アメリカっつったって、オハイオ州ってとこでこことそんなに変わらない程度の町だぜ? しかも1年しかいなかったしその前はずっと厚木(※神奈川県)に住んでたんだからとーぜん英語なんか喋れないし、何回もそう言ってるのにみんなに通じないんだよ……」

 だんだんと声に勢いがなくなってきた。


「みんな見た目と肩書きで判断するからなあ……。マイケル見た目結構向こう寄りだし」

 彼もちょっと同情的。少し前までは同じ目にあってたからね。まあ彼は普通に東京の都会っ子だったけど。


「別にいいんじゃないの? 必死に真実を語らなくても結構みんな勝手にいいように解釈してくれるよ? で、そのうちまた転校生がくるよ」

 私は自分の経験からアドバイス。それにホラここは転校生受入奨励学校だし。いや私が勝手にそう思ってるんだけど。


「アメリカからの転校生よりインパクトあるの、来るかなあ……」

 彼が言って、マイケルがまたちょっと眉をしかめる。


 なので、顎に拳を当てながら

「そうだねえ、火星からの転校生とかならきっと……」

と答えたら、男子二人がぽかんと私を見た。


「い、いや、冗談だよ?」


 なんとなく恥ずかしくなって慌てて言うと、二人はブーっと噴き出した。


「い、一瞬マジで言ってるかと思った」

 彼がひいひい笑いながら言うと、マイケルも

「そ、そうだな、きっと火星からの転校生なら、俺の影も薄れ……」

と続け、暫く二人の笑いは収まらなかった。




 それからなんとなく3人でよくツルむようになって、周りからは「転校生トリオ」なんて言われるようになるんだけれど、今度は新たな噂というか、好奇の目で見られるようになった。


『さすが東京の魔性のオンナ、東京のオトコとアメリカのオトコを手玉にとってる』


「ね、ね、ね、どっちが本命なの?」

 なんてキラキラした目で聞いてくる女子多数。



 私はただの東京の田舎者なんだってば!!(言ってないけど)





■羽化するセミ(from:七年目の羽化)


 彼の部屋で一人で起きた朝。

 もう何も考える気も起きず、ささっと身支度をして玄関ドアを開ける。

 ……開ける、……開けようとしたんだけれど、開くには開くのだけれど、なぜかドアが重い。

 なんとか開けて、出ると、彼が外廊下でドアにもたれかかって座っていた。


「な……に、してんの」

「あ、起きたんだ。帰んの?」


 なんで彼はこんなところにいるんだろう。一体いつ帰ってきたの?


 彼が私の顔を凝視する。

「……なんで、そんなに目、赤いの?」

 彼に言われて顔を伏せた。昨夜は彼のベッドに一人で潜って泣いていたのだ。

 でも、何気に見ると彼の目も赤い。

「そっちこそ目、赤いよ?」

 オールだったから? 鍵を無くしたとか? と、ここでふと私も合鍵なんか持っていなかったことに気付いた。そうだ、勝手に出て行ったら無施錠になるところだった。それにしても、彼だってインターフォンを鳴らすとかすればよかったのに。


「……いや、まあ、眠れなかったから。…………ここで、ずっと」


 ここで?


「ここでっていつから? なんで?」

「あんな酔っ払いを一人で置いていけるかよ。……でもあのまま同じ空間に居れるほど俺、人間できてねーし。お前ほんと気をつけろよ。とてもじゃねーけど危ねーよ」


 なんだかよくわからないけど、迷惑をかけたのだけはわかった。涙が滲む。


「ご、ごめん……。ごめんなさい……」


 泣き出した私に彼は目に見えて慌て出した。

「いや、あれ、なんだ、違うよ、泣くなよ、その、いや、いんだよ、俺の部屋に、いる分には。安心するから。だから、これは、俺の、問題で、つまり、あのまま同じ部屋だと、その、まずいから、でも、離れられなくて、だから、だから……」

「…………」


 ──これは、彼の言うこれは、どういうこと?


 心なしか目だけでなく、顔も赤いような気がする彼を見て、思考がぐるぐる交差する。


 もしかして……?

 え、も、もしや、これは自惚れてもいいの? これは羽化するチャンスなの?


「あの、わた……」

「あのさ!」

 羽化する直前のセミを彼が止めた。

 う……羽化失敗……? 身体が固まりだす。

 でも、彼が、そっと、私の右手を取った。


「……俺、お前が好きなんだ。もう7年も前から。ずっとずっと言えなくて、お前の気持ちも掴めなくて、ひたすら隠してたけど。でも、もう限界なんだ。昨夜みたいなことがあると、もうどうしていいかわからないんだ。もし、もし駄目なら、ちゃんと、ちゃんと諦める。ちゃんと友人に戻る。だから。だから、お前も、もし好きでもない男の部屋だったとしたら、もう無防備に泊まったり、するな」


 彼も、セミだったのだ。七年目の。



 私の選択肢など、ひとつしかない。


 殻から抜け出し彼の胸に飛び込む。



 セミはちゃんと羽化して柔らかに翅を伸ばし、これから精一杯恋をする。

 でも私たちはセミじゃないから、七日間だけじゃなく、これから先、できれば何十年も、恋をし続けたい。





■プライスレスな彼女(from:プライスレス)



 ──お兄さんに50円じゃなくて、この子あげるわ──



 そんな店主の言葉に彼女も俺も固まった。

 にこにこしている店主を前に先に口を開いたのは彼女だった。涙は止まっていた。



「お、お母さん、私って50円なの?」


 いや、50円とか、気になるのはそこなのかな。

 そもそも俺たち、こう何にも、そう何にもどうにも始まってもいないんだけど。


「て、ていうか、私、別に……」

「あのねえ、こう見えてもあなたたちより人生約20年先輩なのよ? 見てりゃわかるわよ」

「こう見えても何も、大体20年じゃなくて30年でしょ……」

「ちょっと、突っ込むとこそこなの? じゃあ間をとって25年でいいわ。とにかく」


 そういうと店主は俺をみた。ちなみに俺はまだ一言も喋っていない。


「お兄さん、すぐ仕事?」

「はい、あ、いえ、でも時間は取れます」

「じゃ、この子貸すから、ちょっと二人で話してらっしゃい。お客さんもひけたし店は私一人で大丈夫だから」


 そう言うと店主は彼女のエプロンを引っぺがし(本当に引っぺがすという表現がぴったりだった)、俺たち二人を店の外へ追いやった。


 とにかく店主の勢いだけで突然放り出された俺たちは、顔を見合わせる。お互いそこには、照れと、戸惑いと、そして少しだけの期待を持ち合わせ──。



* * * * *



「え? 1万円になったら声かけようと思ってたの?」

「そう」

「でも、週に3回は来てたよね。ひと月で600円だとしても1年で7200円、1年半で1万円にはなってたんじゃないの?」

「うんまあ実は1年3ヶ月ぐらいで1万は越えてたんだよね……」

「なにしてたの残りの9ヶ月……」

「うんまあ、いろいろと。迷惑かなーとか、フラれたらもう店行けねえなーとか、そもそも恋人とかいんじゃねえかなーとか」

「で、転勤決まって、そのまま去ろうとして、お母さんにお尻たたかれた、と」

「それを言ってくれるな……」


 君だって何にも言ってこなかったじゃないか、という言葉は飲み込んだ。やはりこういうのって男から言うべきだとは思うから。まあ、結局最初に言いだしたのは女性である店主だったんだが。ううう。


 でもその後は俺だって頑張った。あのあと店主に『ちょっと話し合ってきなさい』と二人して店を追い出され、戸惑いと照れを持ちつつも、期待と ばばばっと頭の中で展開させた計算を胸に、入ったコーヒーショップで自分から彼女に気持ちを伝え、そして自分たちの今後をすらすら提案した。

 初めて50円渡されたときから好意を持っていたこと。ずっと声をかけたかったこと。転勤が決まっていったんは諦めようと思ったけれど、こうなったらどうにかこまめに通うので付き合ってほしいこと。そしていずれは結婚も視野にいれてほしいこと。

一度腹が決まれば行動力はあるのだ。……ただその腹がなかなか決まらないだけで。


 あれから俺は彼女の店から車で高速2時間の地に異動になったが、なんだかんだマメに行き来して交際を続け、1年たった現在、入籍を目前に控え既に彼女は俺の家に引っ越してきていた。店のことを心配しようにも店主はあっさりバイトの女の子を雇い入れ、とっとと娘を家から追い出してしまった。(オトコ)前すぎる。


「俺、一生お義母さんに頭上がらないなあ……」

 彼女が、私もだよ、とくすくす笑う。

「でもお母さん、あなたが50円のかわりに私をもらってくれて助かった、って」

 なかなか嫁にいかない娘を内心心配していたらしい。(実は彼女は俺より2歳年上だった)


 いやでもそこは全力で訂正させていただく。



「君に値段がつけられるわけないだろ」



 あの日の出会いも、レジから出された50円も、

 何度も食べた定食も、漢前なお義母さんも、

 君にかかわるもの全て、

 そして君自身も、


 プライスレスなんだから。





■イケてる彼のモテない理由(≒200字ショートショート)


新しい近所の歯科医院の先生は超イケメン。

特に虫歯はないけれど、定期検診を装っていそいそと足を運ぶ日々。

しかし、何にもきっかけを掴めないままだった。


そこで起こった奇跡!

友人の主催した合コンに彼が現れたのだ!


「先生、いつもお世話になってます」

声をかけるも首をひねられる。挙句、

「歯、見せて」

いー、と見せると

「ああ! 天然で綺麗な歯並びの学生さん!」


人を歯で覚える人でした……。


先生、そんなんじゃモテないよ!





■先に眼鏡が仲直り(≒200字ショートショート)


同棲中の彼と喧嘩した。

そのまま夜になり、先にベッドを占領してやった。

後から入ってくる方が何となく気が引けるものだ。



いつも通り先に目覚める朝。

ちょっと離れて隣には彼。背中を向けている。

起き上がって眼鏡を探す。昨夜置いたところにない。



──見つけた眼鏡はリビングのテーブルの上で、

彼のそれとくっついて並んでいた。



思えば下らない喧嘩だった。

彼のために目覚めのコーヒーを淹れてあげよう。





■野球部:こういう場合、お話の展開としては勝負は泉さんが勝つでしょう。ていうか勝ちました

■ニックネーム:彼は本当は本名で呼びたいと思っています

■いつもいつでも:出席者に写真撮られてた(寝てるとこの)

■ここは東京~:「あっちはサンシャイン60。あそこが新宿だねー。スカイツリーも冬なら見えるよ。反対側には富士山もばっちり!どう?気に入った? お嫁に来ない?」交際すっとばしてプロポーズ

■おにぎり:直接握ってますが不潔と思わないでくださると助かります…彼にしてみればそれもエキス ←

■スーパー催眠術:とある高校1年4組のインチキ出し物です

■転校生~:このあと女1男2の三角関係ラブコメに(うそ)

■セミ:彼も一途でした

■プライスレス:きれいに決めた!と思っていても所詮はヘタレ

■イケてる~:こんなような漫画、ありませんでしたっけ?(ありそう)

■眼鏡:『今夜はなんとなくくっついて寝れないけれど せめてふたりの眼鏡は一緒に』




長々お付き合いいただきありがとうございました! 次回の更新もよろしくお願いします

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