82 いわゆるひとつのニックネーム
「でさ、そのときママが……」
俺ははっと口を押さえた。しまったつい。
俺は実は未だに両親をパパママと呼んでいる。男子高校生がクソ気持ち悪いとは我ながら思うのだが今さら呼び方を変えられず現在に至る。ちなみに親とはすこぶる仲も良い。さらに付け加えれば俺は名前にちゃん付けで呼ばれている……。
しかし、今ここで付き合い始めたばかりの可愛い彼女の前で言ったのはおそらく大失敗だろう。
なんとかごまかそうと「マ、マ、ままどおる(※福島銘菓)って美味いよな!」などと脈絡のないことを言ってみるも。
「お母さんのことママって呼んでるの?」
しっかり聞かれていたのであった。
「キモいよな……いい年してママなんて」
「そんなことないよ。要はニックネームみたいなものじゃない?」
にっこり笑う彼女を見た俺の心に光が射した。眩しい。眩しすぎる。今までこんな俺を受け入れてくれた女の子はいなかった。
「私も似たようなものだし。あ、うちココなの。送ってくれてありがとう」
彼女を眩しく見つめていると玄関が開いて人が出てきた。
「おう、おかえり」
「あ、親父! ただいま!」
彼女が笑顔で言った。
……確かにこんなのはいわゆるひとつのニックネームにすぎない。




