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81　ねむり王子

　とにかくよく寝る男だった。

　先週は映画を一緒に観に行って途中退出してしまった。あの静かな空間で、眠る、寝言を言う、いびきをかく、椅子からずり落ちるといったこの男の隣で観ることが耐えられなかったからだ。(コメディかアクションにすべきだった。寄りによってシリアスなラブストーリーだった)

　過去にもいろいろある。電車では立ったまま寝て手すりに頭をぶつける、バイト先のコンビニのレジでは客に起こされる、家庭教師先では生徒に起こされる、ライブでも寝る、説明会も駄目だ、講演会も苦手、英会話もやめた方がいい、スポーツはさすがに寝ないがサッカーのGKは駄目だ、自チームが攻めていると寝る。

　先日は仕事先で訪れた工事現場の足場の上で寝たらしい。落ちたら下手すると死ぬにもかかわらずだ。この男は仮に雪山で遭難し「寝るな、寝たら死ぬぞ」という場面でも真っ先に寝るだろう。起きたときには天国だ。

「だからさ、とにかくもうずっと僕の側にいて、見張っててほしいんだよ」

　そう言って私の指にきらりと光るものを嵌めた男は、その1分後に私の膝枕で寝た。

　仕方ないな、とそのサラサラの髪を撫でる私もたいがいである。