70 kiss me, please
「えっと、あの、あのね。……キス、してみたい」
学校からの帰り、寄り道した夕暮れの公園で、思い切って彼に言った。
「う、うん。俺も……」
彼が応じたので、向かい合って、私は目を閉じる。
幼なじみからカレカノに昇格して半年。中学生の私たちはまだ手を繋いだことしかなかった。
ドキドキと待つ。しかしいつまでたってもアクションがない。
「……?」
そーっと薄目を開けると、彼も目を閉じていた。
「ちょ、私から!?」
「え、だって普通言いだしっぺがやるもんだろ」
「普通男からでしょ!」
「男女差別だ!」
ギャーギャーやっていたそのとき、いきなりそばを猫が飛ぶように横切った。
思わずびっくりしてよろけて彼に倒れかかって、彼が私を支えようとしたけれど二人してコケて、そのときに彼と顔がぶつかって口もぶつかった。
「…………」
「…………」
初めてのキスは──痛かった。
「……えーと、どうする? やり直す?」
彼が私に訊いてくる。
「──今日はノーカンで。また今度仕切り直す」
もうこうなったら徹底的にロマンチックなシチュエーションでやってやる!
海辺か、観覧車か、富士山の頂上とか!?
「ちょ、最後のヤメロ」




