52 半袖少年タケル(前)
小学生のときのタケルはいっつも半袖だった。夏はもちろん、春も秋も、冬も。
雪の日でも半袖なのにはびっくりした。でも手袋ははめている。「雪合戦するにはさすがにひつよう」なんだって。タケルのお母さんは「頼むから、せめてその上に何か1枚!」と嘆いていた。
そんな感じで小学校時代を過ごし、そして進学した中学の、さすがにブレザーは長袖。タケルは大抵着ないで鞄に詰め込んでいたけど。
逆に寒がりな私にいつもブレザーやジャージの上を貸してくれていた。周りは冷やかしたりしたけれど、子供の頃からこんな感じだったから何とも思わない。
けれど中2のとき、先輩に告白されてなんとなくOKしたら「もうあいつの上着とか着ないで」と言われて、私はそうするしかなくなってしまった。
それからタケルはブレザーを着るようになった。ジャージも着るようになった。貸してっていう女子がいたみたいだけど、いつも長袖を着るようになった。
もうタケルの真っ黒な腕は夏以外は見られない。
そこで私は初めて自分がタケルを特別に思っていたことに気付いた。
その頃にはタケルにも彼女ができていたけれど。
私が先輩と別れてからも、もうタケルが半袖に戻ることはなかった。
つづきます




