48 文房具店の看板娘
私は短大を卒業後、家業の文房具店を手伝っている。小さな文具店だが、近所の小学校と市役所を顧客としてかれこれ20年以上続いている。
そんな私は開店前の朝の散歩が日課。つばの広い帽子を被って市役所前の公園内をゆっくり歩くのだ。
公園へ行くまでの歩道でいつもすれ違う若い男性がいる。自分の帽子のつばで隠れて顔はわからないが、目に入る靴と歩き方で同じ人だということがわかる。8時すぎにすれ違うから、市役所勤めかな。
春からすれ違い始めそのまま夏になり、秋になって帽子は厚手のキャスケットに替わった。さすがに興味がわいたけれど今更顔をあげられない。
そして冬。どんだけだ。私の帽子はつばのない毛糸の帽子になった。不自然じゃないよね。ずっと被っていた帽子がニットキャップになっただけ。いよいよ彼と、ご対面。
緊張しつつ歩いていると、前からやってきたのは。
「よう」
「えっ……小松?」
「やっと気づいた? 遅すぎ」
そう言って笑ったのは小学校時代の同級生だった。
「俺、そこの母校で春から先生してんの」
驚いて声も出せない私に今後ともよろしく、と彼は去って行った。
思いもかけない初恋の人との再会に、私は暫し寒空に佇むこととなった。




