30 常識と非常識
「今すぐじゃない。卒業したら付き合って欲しい」
期末試験3日前。
「教師と生徒ってことはわかってる」
人気のない教室で。
「だから約束して。あと1年待ってて」
でも今気持ちを言っておかないと。他の奴に持ってかれるのは勘弁だし、と彼は言う。
「あの」
私は担任教師に尋ねた。
「何?」
「こういうのって普通、教師の方が留まるものじゃないんですか」
「留まってるよ、だから『卒業したら』って言ってる」
「男性教師ってのは、女生徒“からの”告白をやんわり優しく断るってのが通常運営なんじゃないんですか」
「女子生徒から告白されたことあるよ。そしてやんわり優しく断ってる」
じゃあ常にそうしてるべきだ。教師自ら告ってくるな。
「……若い子が好きなんですか」
「たとえ君が10歳年上でも好きだろうね。これでも一応1年ぐらい悩んだんだけど」
「悩んだ結果常識を捨てた、と」
「好きな子に好きだというのは常識なんじゃないかな」
ああ言えばこう言う。
「……でも」と彼が手にしたのは私のスマホ。いつの間に!? スーッと操作する。ヤバい! データフォルダには!!
「盗撮は非常識だと思うよ」
そこには、目線が合っていない遠目の担任がいっぱい並んでいた。
「わかりました! わかりましたよ!」
「たまに放課後、理科準備室で勉強会しようね」
「常識の範囲内でお願いしますよ……」




