17 May and December 4
知人が最近気に入っているというダイニングバーに行ったら、注文を取りにきたのが隣家の少女だった。
「こんな酒出すとこでバイトか?」
「店長が友達の親戚なの。土日だけだし21時には上がるから」
避けられてから3年ほど経っていたが、普通に会話できてほっとする。
久々に間近で見たアユは随分大人っぽくなっていた。軽口でナンパする大学生らしき客もいて眉間に皺が寄る。
バイト上がるときに一緒に帰るからとアユに声をかけると、もう子供じゃないんだけどと言われたが、強引に約束を取り付けた。
そして、何もなかったように昔と変わらずに色々喋りながら帰る。ただ当時毎回出ていたアユからの告白まがいな言葉は一切なかったが。
そうして土日は店に行き、2人で帰るのを繰り返す。
そのうちに夏になり、ある日アユが「今月末でバイト辞めるから。今までありがとね」と帰ってきた玄関前で言った。
「……今までほんとにありがとう。前はそれも言えなかったから今度はちゃんと言いたかったの」
アユは俯いていたが、やがて顔を上げて微笑した。オレは何故かアユを引き寄せ抱き締めていた。
ああ~、やっぱりこうなっちゃうのか。おじさんおばさんに何て言えばいいの? オレ。
MaDは今回でおしまいです
ちなみに二人の年齢差は12~13歳
以下は拍手に載せていたさらに2年後のお話です。
これはひとつでMaD1~4ぐらいの長さがあります。
そして若干、若干ですがR15気味ですのでご注意ください。
* * * *
【May and December Romance】
ユキちゃんと私が、その、精神的にではなく、物理的に、もっとわかりやすくいうと肉体的に、結ばれたのは、ベタだけれど私の二十歳の誕生日だった。
お付き合いしていく中で、もちろんキスはしていたし、まあなんというか身体を触られることもあったのだが、ユキちゃんの二言目の口癖は「未成年はマズい」だったわけで。
私は、ユキちゃんが受け入れてくれたあの日から、ずっと聞きたくて、でも聞いたらまた振り出しに戻ってしまう気がして聞けなかったことを、そのときに初めて聞いた。
「ユキちゃん、ユキちゃんはなんであのときになって私を受け入れてくれたの?」
ユキちゃんは、数回あった行為のあとに、うつらうつらと眠っていたけれど、私はとてもじゃないが眠れなかった。そして、明け方になってきてユキちゃんが、ううん、と身動ぎしてから薄目を開けてこちらを見、「アユ起きてたの?」と掠れた声で言うので、おはよ、と頬にキスをしてから尋ねてみたのだ。寝ぼけているほうが本音を聞けると思ったし。
「え……?」 ユキちゃんはまだ覚醒していない。
「多少オトナになったから? まああのときはまだ未成年だったけど……」
「うーん……」
「まあ以前がダメだったのはなんとなくわかるけど。小学生や中学生相手にどうこう思ってたら完全ロリコンだもんね」
「…………」
「でも、なんでだか、いまだによくわからない」
ユキちゃんは、うーんと、と言いながら、私を抱き寄せた。
「3年ぐらい顔合わせてなかったのがデカいかな。そこで、『生まれたときからずっと知ってるアユ』ってのが一旦途切れたから。だから店で久しぶりに会ったときは、そのときに出会った女性、的な感覚だったんだよ」
話しながら、ユキちゃんは私の髪の一房をくるくるといじる。
「それまでは、やっぱり兄貴とか父親的な感覚だったし。でもそれが一旦リセットされてさ、もう見かけも中身も大人っぽかったし、あのとき制服着てなかったからな。もともとお前は話しやすいし楽しいし。そうなるとさあ、まあ、変わるよな、俺も」
結局、一度ユキちゃんと(私の中で一方的に)さよならしたことが、ユキちゃんとの関係を変えることになったらしい。あのときはこんなことになるとは全く思いもしなかったけれど。人生どう転がるかわからないものだ。
で、忘れてはならない、ついでに聞きたかったことをもうひとつ。
「あのとき、ラブホから一緒に出てきた女の人って当時付き合ってた人だったの? 今は……別れてるんだよね? なんで別れたの?」
ユキちゃんのくるくるお手てがピタッと止まった。じっと顔を見ると、つつーっと目があさっての方へ泳いだ。
「え、別れてないの?」
びっくり的な感情で(悲しみとか怒りではなく)、ポロっと言うと、あさっての方へ行っていたユキちゃんの顔がぶんっと音を立てるように戻ってきた。
「あほか! そんなわけないだろが!」
「だって今目が泳いだよ……」
ユキちゃんはちょっと眉毛を八の字に下げてから、私の頭を抱えて自分の鎖骨あたりにくっつけた。これじゃ顔が見えない。
「彼女は、まあ付き合ってたわけでもなくて、なんというか、遊び相手というか……。お互い相手がいなくって、軽く飲んでてソノ気になると、まあちょっとというか。あのときもそんな感じだったんだけど、お前に見られてなんかすっごい罪悪感覚えじゃってさ。そういえばあれからまったく音信不通だな……」
それってセフレってことなんだろうか? ユキちゃんにセフレ……。
「あのさあ、言い訳がましく聞こえるとは思うんだけど、俺も30過ぎてるし、さすがに彼女の1人や2人はいたことあるし、まあそれなりにね、経験つんでるわけですよ」
頭を抱えた腕が強くなる。
「でもさ、お前のことはほんとに真面目に考えてるし、すごく大事に思ってるから……」
わかってる。わかってるよ。今日も(昨日か)すっごく優しくしてくれたから。
いつもお父さんやお母さんに気を遣って、健全なお付き合いをする誠実な恋人でいてくれているから。
「お前の最初で最後の恋人でいられるように努力するよ」
優しく優しく髪を撫でながら、心をこめて言ってくれているのがわかる。
すっごく嬉しい。
嬉しいけど、でも私の前に何人も恋人がいたことのあるユキちゃんに対して、ちょっと反撃したい気持ちが湧いた。
「……ユキちゃん、あのさ、ユキちゃんは自分が私の最初の恋人だと思ってるの?」
案の定、ユキちゃんは、私を抱えていた腕を放し、ガバッと起き上がった。
「え、なにお前、違うの!? あ、そっか3年、間があるし……。あの間にカレシいたことあんのか? でもお前昨夜初めてだったよな……。いやでもキスとかお触り程度は……。10代のオトコなんて煩悩の塊だもんな、それしか考えてないもんな……マジかよ……えー……いやまあ仕方ないけど……でも……」
若干ショックを受けたらしく、独り言のようにぶつぶつ言い出したユキちゃんをみて私は少し溜飲が下がった。
カレだって、キスだって、なんだって、全部ユキちゃんが初めてだよ。告白されたことも何回かあったけど、ユキちゃんを忘れるためにも付き合ってみようかなと思ったこともあったけど、無理だったんだ。
でも、しばらくはナイショ。今までの私の気持ちを少しは味わえばいい。
私も起き上がって、ユキちゃんの首に手をまわして、顔をみつめてにっこり言った。
「ユキちゃん、今はユキちゃんだけだよ?」
ユキちゃんは、ますます眉を情けなく曇らせた。
end
* May and December Romance や May and December Love で歳の差恋愛という意味らしいです。
本編ではあえてRomanceやLoveはつけませんでした。最初の時点ではおませな小学生の女の子、というお話なだけで、続いていって恋愛にいくとは思わなかったので。
でもまあ、結果こんな感じになっちゃったので、今回はRomanceを付けてみた次第です。




