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Sweet 14(fourteen) Rock ’n’ Rollの、一応まあ続きです
■Sweet 14(fourteen) Rock ’n’ Roll on the radio
「マイムジ英斗と」
「軸の」
「オールナイト、ジャ、パーン!」
「えー、みなさんコンバンワ、マイネムジク英斗です」
「どもこんばんはー! じくじくじっくんでーす!」
「軸、その自己紹介どうにかなんない。なんかサムイ」
「一部には好評なんだけどナー」
「えー今夜は、スタジオにドラムの刻生も来てます」
「……どうも」
「でもトキオ喋んないから居るか居ないかわかんないね!」
「ディレクターに写真撮ってもらえば。んでTwitterにあげてもらおう」
「おっいいねー。今日のトキオは図体に似合わないピンクのTシャツを着てまーす」
「それでは今日の一曲目、僕らマイネムジクで『Sweet 14 Rock'n'Roll』──
「えーとラジオネーム“俺のミュウちゃんマジ天使”さんから」
「おーいキミのミュウじゃねーぞ!」
「お前のでもねえけどな」
「オレの妹だ!」
「出たよシスコン。えー“俺のミュウちゃんマジ天使”さんからの質問、『ミュウちゃんの苦手な科目はなんですか』。つーかチビここにいないんだけど。兄キが代わりに答えろ」
「うーん、どうだろ。あ、この間数学のテストで48点取ってきたな」
「……一応聞くけど50点満点じゃねえよな?」
「200点満点だったな」
「実質24点じゃねえか! ちょ、大丈夫かよ」
「ファンのみなさーん。ミュウが勉強に集中しやすいように、ミュウの学校生活は守ってやってくださいネ! お兄ちゃんからのお願いでしたー」
「続いてラジオネーム“エジワス最高!”さんからの質問。……送る番組間違えてね?」
「エッジワース最高!」
「えー、『メンバーの好きなタイプを教えてください』。これって俺らでいいんだよな? エジワスのメンバーに聞いてんじゃないよな?」
「じゃあ今度オレがエジワスの番組に同じ質問送っとくよー。好きなタイプって異性でってことだよね。うーん、オレは素直な子かな」
「そういや高校時代、軸と刻生でそのときバンドにいた女の子取り合ったことあったよな」
「…………」
「あー、あったあった! もうあの小悪魔ちゃんにはほんと振り回されました」
「そんで、バンド内に女の子を入れるのはもうやめようとなりまして、」
「そうそう、暫くスリーピースでやってたけど、でもオレがどーしてもキーボードを入れたくなって、ミュウを連れてきたのが今のマイムジの始まりだよね」
「…………」
「あ、トキオは思い出したくない思い出だったようでーす。ちなみにトキオの好きなタイプは?」
「……一途な子」
「トキオくん彼女募集中!(笑)」
「(笑)」
「じゃああと英斗の好きなタイプは?」
「俺? うーん…………、大人っぽい女性かな」
「あ、そうなの? じゃあダメじゃん! ──イテッ」
「大人っぽくて包容力のある女性募集中です、ヨロシク」
「英斗は右手が恋人だもんね、イテッ! 間違えた、ギターだった、ギターが恋人ギターが恋人(笑)」
「そうです、今はギターが恋人です。ていうかチビが聞いてたらマズいだろうお兄ちゃん」
「ミュウは今頃はオネンネ中ですよー」
「まあそうだな。──じゃ、ここらで曲いきましょう。今夜2曲目は噂のエッジワースで『ダイアグラム』……
***
「お兄ちゃん! 英斗! なんなの昨夜の放送は!!」
ラジオの生放送が終わった俺たちは、そのままいつものように軸の自宅へなだれ込み、軸の部屋で眠っていた。トキオは彼女の家へ行った。そう、彼女募集中なんて大嘘だ。あいつは一途な彼女ともう3年付き合っている。だからいつも軸の部屋で一緒に雑魚寝するのは俺のみなわけである。
そこへセーラー服姿でずかずか乗り込んできたらしいのがどうやら登校前のチビだ。“らしい”とつけたのは、俺は眠っていて目を閉じているわけで、つまり見ていないからである。
「え……? なんだよ……。ぐえっ」
部屋のドアを開けたすぐ手前にうつぶせで寝転がっていた俺の背中にチビの右足が踏み込まれた。俺の苦しみも知らず軸はぐっすり寝ている。こいつは昔から一旦寝るとなかなか起きない。
「数学のテストのことなんか言わないでよ! ツイートで嘘八百なことまで出回ってるじゃないの! 私がほんとは落第して17歳だとか書かれてるのもあったんだから!」
「……あ、もしかして昨夜聞いてらっしゃった?」
「小学生じゃないんだから。起きてるっつーの!」
お兄ちゃんのウソツキ。つか重い。足どけて。
「あとね! 下品なことラジオで言うのもやめてくんない!? すっごいどん引きなんだけど!」
あ、そこも起きてらっしゃった? 意味わかったんだ? いつのまにか大人になったね……
「ぐおっ」
踵で背中をぐりぐりするチビ。地味に痛い。
「い、言ったのはお前の兄ちゃんだ……」
「一緒にやってるんだから英斗も同罪だよ! 第一どうせ踏んだって起きやしないんだからお兄ちゃんは!」
ぐりぐりぐり。いていていて。あとで起きてる軸に同じことやってやる……!
散々ぐりぐりした足がピタッと止まった。ほっとする。
しかし暫くしーんと静かなのでどうしたんだと思ったところで、
「──それから」
「え?」
「それから、英斗のタイプが包容力のある大人の女性とは知らなかったよ」
振り向き顔を上げると、眉に皺を寄せ顔を顰めたチビが俺を見下ろしていた。
「もうこんな中学生のガキなんか構ってないでとっととオトナの恋人作れば?」
チビは足を引くとスカートをひらりとさせて踵を返し、部屋を出て行った。
「──おい!」
俺は起き上がると、コーヒーテーブルの上に置いてあった財布とスマホに手を伸ばす。Tシャツの上にパーカを羽織ると、チビのあとを追いかけて階段を下りた。
「おはよう、英斗くん」
「あ、おばさんおはよう。ちょっとチビ送ってくるわ」
「あらそう、ありがと。いってらっしゃい。戻ったら朝ごはん食べる?」
「うん」
既に玄関で靴を履いていたチビの横で自分もスニーカーを履く。
「ついて来ないでよ」
「学校まで送ってやるよ」
「いいよ」
「なんだよ、ヤキモチ妬いてんの? 自分が俺のタイプと違うから」
「ち・が・う!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ、俺はチビの将来性に賭けてるから。あんなの気にしないでいいよ」
「気・に・し・て・な・い!!」
自分の内心の何故か焦った心を俺は隠すようにして、チビをひやかし揶揄った。
MJのディスク、MJのディスク……自分に言い聞かせる。
チビのあの顰めた顔が妙に胸に焼きつく。
あれが、なんなのか。
──まだ考えるのはやめておこう。
「チビー、俺と付き合おうぜー」
「お・こ・と・わ・り!!」
“エッジワース”はミュージックシーントップに君臨する男子4人組ロックバンドです。
マイムジと同年代なので、交流があると思われます
 




