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webclap the 8-1

拍手の再掲5連発です

 

■メッセージを消す前に(from:91書きたい背中)



 学祭が終わって、散々飲んだ打ち上げも終わって、2時とかに家に帰って、そのままバタンキュー。


 今日は片づけだ。そこまではきちんとやらにゃあかん。疲れた身体に鞭打ってすっきり目覚めるためにも早朝風呂に入る。


 捻った首で背中を見た。みんな見事に描いてくれたな。確か後輩が写真撮ってくれてた筈。後日送ってもらおう。


 背中をナイロンタオルでごしごし擦る。水性とはいえ意外と取れにくい。ごしごしごし。大体落ちたかな、とシャワーで流し、もう一度首を捻って背中をチェック。


 …………あれ?


 腰の、右下の方に、落ちてない文字。おい誰だよ油性ペンかよ。

 普段はコンタクトだから、風呂に入っている今はぼやけてよく見えない。浴室のドアをあけ、洗面台にある眼鏡を取る。かける。文字をチェックする。



    『スキ』



 一気に頭に血が上った。




 これを、書いたのは──。


 あいつだ。あいつが最後にこの辺に書いていた。くすぐったかったし、最後だったから憶えてる。



「マジかよ…………」



 油性ペンの落とし方は実は知ってる。日焼け止めで落ちるのだ。洗面台から姉の日焼け止めを手に取って、そこで……


 落とすのを止めた。



 さて、どうやってあいつに切り出してみようか。





■タイムマシンに乗って another ver.



【1】


 それは3月の最後の土曜のこと。

 本格的社会人生活を目前に控え、学生時代の友人らとひとしきり騒いで飲んだあと、遅い時間に駅について酔い覚ましだと30分の道のりを線路沿いに歩いていたときだった。


 いきなりニット帽を被りマスクをした男に後ろから襲いかかられたのだ。

 片側は線路、反対側もその場所は竹藪。もうパニックで、それでも男の腕から逃れようと必死でもがく。


 そこにヒーローの如く現れたのが彼だ。

 柔道? 空手? 彼はまたたくまに男を地面に叩きのめし「バレるとマズいから悪いけど警察はパスで」と、男は放置で私を自宅近くまで送ってくれ、お礼をしたいと名前を聞いた私に「バレるとマズいから」とまた同じことを言い、去っていった。

 大学生ぐらいかな……。

 小説やドラマでしか見なかったシチュエーション、街灯の下で見た彼の顔は端正で、吊り橋効果も加わってか、私はなんというか、そのつまり、いわゆる恋に落ちてしまったわけだ。


 しかしその夜はそのまま別れてしまったわけで、どこの誰かもわからない。近所に住んでいるのかたまたまあの道を通っただけなのか。


 悶々とする私の前に、一週間後あっさり彼は現れた。


 自分が新卒で勤める高校の生徒として。




【2】

 

 これまたすごいことに、彼は私のクラスの生徒となる。

 一週間しか経っていなかったから彼も私の顔を憶えていて、こっそり私の元へやってきた。


 案の定彼は空手部だという。武道を嗜んでいる者が路上でその力を披露するのは確かにマズかろう。痴漢相手ならいいとも思ったりするけど。


「先生マジ黙っててよ。ああいうのって絶対やったらダメなんだから」

「わかってる。感謝してるし黙ってるよ」

「感謝のしるしに成績ちょっとだけ上げて」

「それはダメー」


 そんなこんなで、担任と教え子として関わっていく。

 若いのに案外しっかりしていて、それでいて年相応の可愛いところもある彼は眩しかったが、自分の気持ちは彼が生徒とわかった日に封印した。



「あのとき先生のこと後ろ姿で大学生ぐらいかなと思ったんだ」

「あのときは一応まだ大学生だったよ」

「一人で暗い夜道歩いて危ないなあと思ってたらあの有様で」

「ほんとに感謝してます」

「助けて顔見たら俺のどストライクでさ」

「は?」

「折角名前聞かれたのに、テンパって振りきって帰って後悔した」

「……」

「そしたらすぐ会えた。先生なのはびっくりしたけど、中身もやっぱり可愛かった」


 待って。言わないで。


「オレ先生が好きだ」




【3】

 

「先生が好きだ」


 彼の好意は薄々感じていたけれどここまでとは思ってなかった。油断した。自分も楽しかったから。

 私は跳ね除ける。必死に、本当に必死に冷静な仮面をつけて。


「ごめん。生徒の一人としか思えない」


 私だって彼が好きだ。だけどどうして教師が生徒に恋を告げられる? 絶対ダメ。彼に応えるわけにはいかない。


 事あるごとに愛を告げる彼に、いつも同じ返答をする。「卒業すればいい?」などと聞いてくるが、彼はまだ若い。そのうち周りの女の子にだって目がいくだろう。今はちょっと年上の女に興味を持つ年頃なのだ。気の迷いだ。だから私は絶対彼の気持ちを受け入れない。卒業までの1年半のうちにもっと近くのぴちぴちの女の子にでも目が向くはず。


 けれど、彼の気は迷ったまま、卒業を迎えた。


「卒業おめでとう」

「先生、好きだ」


 会わなくなれば、大学に進めば、社会に出れば、こんな年上の女じゃない、もっとお似合いの子に出会うはず。


「先生、そんな子いないよ。オレ先生がいいんだよ」


 私だって、あなたがいいけれど。

 怖いんだよ。いろんなことが。 



 神様、タイムマシンに乗って、あの夜に戻りたい。

 そうしたら飲み会にはいかず、彼には助けられず、恋に落ちなかった。


 学校で初めて出会っただけなら、きっと。




【4】


 彼が卒業してからちょくちょく彼と同期の卒業生が何人か遊びに来たけれど、もちろんその中に彼の姿はなく。

 これではダメだと他に恋を探してみたけれど、無理やりではうまくいくはずもなく。


 すっかり新しい恋に諦めたところで3年経っていた。

 季節は初夏。教育実習生の受け入れ時期だ。受け入れ予定の学生の名簿を見て、私は瞠目した。


「お久しぶりです」

 3年ぶりの彼は少し大人の青年になっていた。

 そりゃ実習先を母校にする学生は多いけど……しかも、教科も。

「宜しくご指導お願いします」

 同じとは!



「先生、好きです」


 3年ぶりに聞いたそのフレーズ。


「結構しぶとかったんだね」

「正直諦めようと俺なりに努力したんですよ。他に探してみました。でも無理やりじゃうまくいかなかった」


 ──彼も私と同じことをしていた。


「だから諦めるのを諦めました」

「私は……学生とは」

「わかってます。自分もまだ学生とはいえ教壇に立ってみてよくわかりました。生徒に手は出せない。だからあと1年、社会に出るまで我慢します」

「……」



 神様、今すぐタイムマシンに乗って1年後に飛んでいきたい。


 そしたらすぐに、あなたに気持ちを伝えるから。嘘偽りない、本当の私の気持ちを。










「タイムマシンに乗ってanother ver.」が、実は初めに書いたものなのですが

女性教師×男子生徒は既にあら100内にあって(いや男性教師×女子生徒もあるんですが…)インパクトが強かったので、急遽変更しました。


お好みはどちらでしょうか?

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