土産
商店街
「すまないが、この飴玉をくれないか」
「へいっ!毎度!!」
桜見と別れた波斗と雨雲は商店街へ来ていた
急に「楓に土産を買ってやりたい」と言い出した雨雲は飴玉を購入している最中だ
別段、急ぐことでもない、との事
「蒼空」
「何ですか?」
「このテの菓子は滅多に食わない」
「飴以外に楓が好きな物が解らないのだ」
「意見をくれないか」
「は、はぁ…」
女の子が好きな物?
ケ-キとか、アイスとか?
楓ちゃんは小さいし、それが妥当かな
「コレなど、どうだろう?」
「スルメはやめた方が良いですよ」
「絶対に」
「そうか…」
「ケ-キとかアイスなんて良いと思いますよ」
「ほら、女の子には定番って言うか」
「…ふむ」
「この辺りにその類の店は在るか」
「えぇ、少し遠いですけど」
「行きます?」
「そうしよう」
九華梨警察署前
「ここの角を右に曲がってからですね」
「あぁ」
話ながら歩く2人
丁度、警察署の前を通りかかったときだった
ドンッ
「痛っ!」
「む」
雨雲と女性の肩がぶつかってしまったのだ
雨雲は微動だにしなかったが、女性は尻餅をついて転んでしまった
「すまない」
「大丈夫か」
「大丈夫か、じゃね-よ!!」
「痛ぇじゃね-…か…」
「あれ?昕霧さん」
「っ、っ」
口をパクパクと動かす昕霧
波斗の言葉など耳に入ってないようだ
「誰かと思えばNo,4か」
「すまないな、怪我はないか」
雨雲はそっと昕霧に手を差し伸べる
「ぇ…、ぁ…、はい…」
先刻の乱暴な声とは打って変わって乙女らしい声
まるで違う
「ありがとう…、ござい…、ます」
顔を真っ赤にして手を取る昕霧
「その…、雨雲さん…」
「私こそ…、注意が足りなくて…」
本当に万屋に来ていた昕霧さんと同一人物か!?
波斗は思わずツッコミをいれそうになる
口調すら変わっているのだから当たり前だ
「何、俺の方も悪かった」
「服が汚れたが…、クリ-ニング代なら出す」
「幾らほどだ?」
「い、良いですよ!そんな!!」
「わ、私こそ雨雲さんに触れて…、その、なんて言うか…」
「?」
昕霧のボソボソとした声に首をかしげる雨雲
よく聞き取ろうと顔を近づける
「すまない、もう少し大きな声で…」
「ひゃわっ!?」
「…驚かせてしまったか」
「い、いえ…」
「えっと…、その…」
もごもごと口を濁らせる昕霧
雨雲は困った様子で、波斗へと視線を送る
「…?」
もしかして、どうにかしろと?
まぁ、確かにここで時間を食うわけにも…
「え、えっとですね、昕霧さん」
「何?」
「今からケ-キ屋に行くんですよ」
「ご一緒にどうですか?」
「ケ-キ屋?」
「はい、すぐそこの」
「美味しいって有名じゃないですか」
「どうして?誰かの誕生日なのかしら」
「楓に土産として買うのだ」
「だが、俺にはどれを選べばよいか解らない」
「女性からの目があれば嬉しいのだが」
「え、それって…」
「買い物に付き合って欲しい」
「!!!」
ボシュンッ!!
真っ赤な顔でオ-バ-ヒ-トしたかのように湯気を上げる昕霧
いや、正確にはあげてはないのだが…
「つ、付き合って欲しいだなんてそんな…」
「まだ会って間もないし、それに、それに…」
「そう言えば、会うのは3度目だな」
「初めては軍本部で、次は警察署で、そして今」
「…馴れ馴れしいとは思うが、頼めないだろうか」
「そ、そんな!むしろ私がお願いしたいぐらいって言うか…」
あぁ、そうか
と言うか、もう解ってたんだけど
昕霧さんは雨雲さんの事が好きなんだな
言動、行動を見てれば確実だろう
言葉使いも違うし、猫を被るって言うのか?
…ちょっと違うかな
「駄目ですよ、昕霧様」
「ちゃ、茶柱…」
いつの間にか背後に茶柱さん
この人は忍者か?
「数十分後には会議の予定です」
「買い物に行ってる暇なんて無いんですから」
「うぅ…」
しょんぼりと肩を落とす昕霧
「で、でもちょっとだけ!!」
「駄目です」
「ぅ-…」
「そうか、残念だ」
「またの機会にな」
「は、はい!」
暗かった昕霧の表情は一気に明るくなる
絶対に間違い無い、と波斗は自分の予想が事実であると確信した
「茶柱さん、四国から帰ってきたんですね」
「はい、いつまでも昕霧様のお側を離れるわけにはいきませんから」
「響さん、一斑さん、リンデルちゃんにも挨拶をしてきましたよ」
「一斑、どうでした?」
「いつも通りです」
「「病院は暇だ」と愚痴を言っていましたけど」
クスクスと笑う茶柱
この人も結構、美人だよな
髪型さえ変えれば完全に女性なのに
オ-ルバックじゃ男性っぽいよなぁ
「行きましょう」
「解ってるわよ!」
「それじゃ」
「当たってすまなかったな」
「いえいえ♪」
結局、昕霧さんの口調は終始女性口調だった
いつもこの口調の方が良いと思うんだけど
「あ-、蒼空君!」
「何ですか?」
昕霧さんに呼び止められた
何だろうか
昕霧は雨雲に聞こえないように呟く
(先刻のこと、織鶴に言うなよ)
(言ったらブッ殺すからな)
(昕霧さんが雨雲さんを好きな事ですか?)
(~~~~~~ッッ!!)
思わず言葉に詰まる昕霧
やっぱり、と波斗は苦笑する
(言ったら殺すからな!絶対だぞ!!)
(まぁ、努力はしますよ)
軽く愛想笑いをし、雨雲の元へと戻っていく波斗
背後からは顔を真っ赤にした昕霧の殺気
さて、調子に乗りすぎた
「殺してやる…」とかボソッと聞こえた気がしたんだけど気のせいだよね
うん、気のせい
あれ?俺、死ぬんじゃねぇの?
ケ-キ屋
まぁ、死ぬ事はなくケ-キ屋に辿り着けた
マジで怖かったけど
調子に乗り過ぎちゃ駄目だよな、うん
「何が良いと思う?」
「あぁ、はい」
興味深そうに商品棚を見つめる雨雲
女性店員は雨雲をチラチラと見つめているが
まぁ、こんなイケメンを見たらそうなるよね
「このチョコケ-キなんてどうです?」
「お手頃サイズだし、食べやすいですよ」
「ふむ」
「確かに土産だし、そんなに大きくなくても良いな」
「そのチョコケ-キ、ただいまサ-ビス中でお好きなフル-ツをトッピングできます」
「いかがですか?」
「…そうだな」
「楓は苺が好きだし、苺を頼む」
「はい!畏まりました!」
嬉しそうに店奥へと入って行く女性店員
「後は待つだけですね」
「あぁ」
雨雲は近くのイスに座る
ぼうっと辺りのケ-キ模型や人形を見渡しているようだ
波斗自身も辺りを適当に見渡す
あぁ、先刻のサ-ビス中とか言う奴の広告も…
…あれ?1週間前にサ-ビスは終わってるって書いてるけど
「お待たせしました!」
「あぁ、ありがとう」
「ど、どういたしまして…♪」
嬉しそうに微笑む女性店員
…イケメンの特権か
サ-ビスは女性店員からのささやかなアピ-ルだな
「帰ろう、蒼空」
「楓も待っている」
「は、はい!」
「あぁ、それと店員」
「はい?」
「ありがとう」
「サ-ビス、嬉しかったぞ」
「は、はい!」
女性店員の顔が仄かに紅い
この人は無意識に言ってるんだろうな
…つまりは無意識に女性を恋に落としてるってワケだ
恐ろしい…
万屋
カランカラ-ン
「待たせた」
「雨雲!」
「何処に行ってたの!?」
「そう、怒るな」
「謝罪代わりだ」
そう言って雨雲は机に土産の品を置いた
飴とケ-キを
「わぁ!」
パッ明るくなる楓ちゃん
無邪気だなぁ
「食べて良い!?」
「あぁ、鎖基と一緒にな」
「鎖基は雨雲を探しに何処かに行っちゃったよ」
「…そうか」
「その内、帰ってくるだろう」
「うん!そう思う」
「食べ過ぎるなよ」
「は-い!」
「あら?波斗も来たの」
「はい、途中で雨雲さんに会って」
「案内してきたんです」
「そう」
「そう言えば、火星さんは?」
「話が有るんですけど…」
「今は居ないわ」
「彩愛、鉄珠と任務に行ってるのよ」
「明日には帰ってくるだろうから、明日来なさい」
「はい、解りました」
「では、失礼します」
「あぁ、世話になった」
「いえいえ」
「ばいば-い!蒼空お兄ちゃん!」
「うん、バイバイ」
カランカラ-ン
大通り
そう言えば、ゆっくり帰ろうと思ってたのに
結局、暗くなったから急いで帰らなければ
…でも、悪くはなかったかな
読んでいただきありがとうございました