相談
「うっし、決まったな」
「マラソンは50m走のタイム順に決めるからな」
「後は…」
「せんせ-」
「何だ」
「今年は優勝者には何が貰えるんですか-?」
「…何だったかな」
「金一封」
「「「「「!!」」」」」
「嘘だよ」
「饅頭とかだろ」
「優勝賞品で饅頭て」
「どんな神経してんだよ…」
「文句は校長に言いやがれ」
「「「「「え-」」」」」
キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン
「…丁度だな」
「体育祭まで1週間有るからな」
「体調崩すんじゃねぇぞ」
放課後
「じゃぁな-!蒼空-」
「おぉ、バイバイ」
蔵波、熊谷と別れ帰路を辿る波斗
仕事も休みだし急ぐことはない
ゆっくり帰ろう、とほのぼのと思っていた
「蒼空か」
「え?」
「久しいな」
「四国での一件は耳にしている」
「…えっと」
「雨雲、さん?」
「そうだ」
まさかの遭遇
ユグドラシルのリ-ダ-、雨雲さんだ
「この町には滅多に来ないのでな」
「迷ってしまったのだ」
「そ、そうなんですか」
「えっと、鎖基さんと楓ちゃんは?」
「はぐれてしまったのだ」
「俺が迷子の様だな」
「は、はぁ…」
「出来ればで構わない」
「秋鋼まで案内してくれないか」
「別に良いですよ」
「そうか、助かる」
…今更だが、雨雲さんは美形だ
声と体格さえ見なければ女性そのもの
夕日に照らされる雨雲さんの横顔
一瞬だが「綺麗だな…」と思ってしまった
「…蒼空よ」
「お前は好意を抱く異性は居るか」
「ぶっ!?」
思わず吹いてしまった
まさか、この人からそんな話題が飛び出すとは
「ど、どうしてです!?」
「憂鬱な顔をしているのでな」
「楓が言っていたのだ」
「「男の人が憂鬱な顔をしていたら、大抵は恋の悩みだ」と」
「ち、違いますよ!?」
「そうか、すまないな」
「俺は色恋の事がよく解らないのだ」
「そうでしょうね…」
無欲の塊なんだろうな、この人は
「ならば、何故に悩んでいるのだ」
「じ、実はですね…」
雨雲さんに話した
眠れば入る真っ白な世界の事
そこに居る女性の事
そして、祭峰と言う男性の事
俺の傷の治癒力の事
「希望」と言われた事
…一斑を生き返らせた事
「…ふむ」
静かに頷く雨雲
特に表情を崩すワケでもなく、ただ黙って居る
「…あの?」
「そうか」
「奇っ怪な出来事だな」
「は、はい…」
特に同情するわけでもなく
心配するだけでもない
…予想外というか予想内というか
まぁ、その方が気が楽かな
「気にする事ではあるのだろうが、今は気にしても仕方ないだろう」
「俺達の職は精神的にも肉体的にも疲労を要する」
「悩み事は後回しにした方が得策だぞ」
「ありがとうございます…」
確かにその通りだ
あの女の人も言っていたな
「知ってどうするのか」と
そうだ、その通りだ
「自分の事だから知っておきたい」
そんなのは偽言だ
意味を考えると虚しくなってくる
憂鬱だなぁ…
「で、秋鋼はどちらだ?」
「あぁ、こっちです」
歩く2人
端から見れば少しばかり異様な光景に見えるかも知れない
「…ん?」
「どうしたの?桜見ちゃん」
「…夕夏、アンタは先に帰ってな」
「少し用事が出来たから」
「え?あぁ、うん」
「気をつけてね」
「解ってるよ」
大通り
「…蒼空」
「はい?」
「付けられている」
「え!?」
「振り向くな」
「先刻の通りからずっと付けられている」
「尾行は荒いが、手慣れている」
「巻くぞ」
「は、はい…」
「…誰だろ、あの人」
蒼空の彼女?
年上に見えるけど
綺麗な人ね
言っちゃ悪いけど、蜜柑より綺麗かも
もしあの人が彼女なら蜜柑に教えてあげた方が良いかな
いや…、でもなぁ…
桜見は中学の頃、スト-カ-被害に遭っていた
しかし難なく撃退
されていた頃の経験を逆に生かし、尾行術を身につけたのである
泥棒に防犯対策を教えさせるのと一緒だ
「…」
「…」
…何を話してるんだろうか
よく聞こえない
「…荒いが…」
「巻く…」
「は、はい…」
荒い?巻く?
…はぁ?
…焼き方が荒い卵焼き?
巻くのに挑戦するって事?
料理、って事は…
蒼空の母親、ではないよね
似してないし、確かアイツの両親は他界してるって聞いたし
…って事は、つまり
同棲してる彼女!?
「!!」
走り出す波斗と雨雲
「何で…」
気付かれたか?
いや、それは無いはずだ
バレないようにしてるし、バレた事も無い
…追うか
路地裏
「見失った…」
迂闊だった
まさか、見失うとは
「動くな」
「…!」
首筋に冷たい感触
知っている、刃物だ
「…誰かしら」
「それはこちらの台詞だ」
「何故、我等を尾行していた」
「…」
「答えられないか」
いや、何て言おうか迷ってるだけ
アンタと蒼空の関係は?なんて聞いたら勘違いされそうだし
「…桜見?」
「どうにかしてくれる?この人」
「あ、雨雲さん!」
「ソイツは俺の同級生でクラスメ-トです!!」
「…ふむ」
カチャッ…
静かに刀を鞘に収める雨雲
未だに警戒はしているようだが
「何で俺達を尾行してたんだ?」
「え、えっとだな」
「見慣れない奴と歩いてたから」
「…あぁ、そう」
「この人はアルバイトでの知り合いの人なんだ」
「…そうか」
「まさか急に刃物を突きつけられるとは思わなかったよ」
「尾行に気付いたのもこの人だろ」
「う、うん」
「よく解ったな」
「…まぁな」
「そうだったのか」
「失礼な事をしたな」
「い、いえ、こっちが急に追いかけだしたんだし」
「こちらこそ…」
互いに謝罪の言葉を言い合ってから暫くして、雨雲が口を開く
「そろそろ、夜も遅い」
「気をつけて帰った方が良いぞ」
「あ、どうも…」
「丁寧にありがとうございます…」
「いや、女性は痴漢などに遭うからな」
「充分に気をつけて欲しい」
「は、はい」
「貴方も気をつけてくださいね」
「…」
雨雲は少しむっと表情をゆがめる
「?」
気まずそうに目を逸らす波斗
私は、何かマズイ事を言ったのか?
「あ-、桜見」
「な、何だよ」
「この人な」
「男だ」
「嘘っっ!?」
「…真実だ」
思わず声が漏れた
…失礼な事をしてしまったな
読んでいただきありがとうございました