夢の中への来訪者
万屋
「お帰り」
「ただいまです」
「おう、ただいま」
ソファに座り込む火星と波斗
「どうだったかしら」
「散々だよ」
「[残骸]は奪われるわ一斑君は死ぬわで」
「まぁ、生き返ったから良いけど」
「どうした生き返ったのか解るかしら」
「血液が何とか…、詳しい事は解らないそうだ」
「院長に頼んだけど無駄だったな」
「あぁそれと茶柱が昕霧に連絡してくれってよ」
「暫く四国に滞在するそうだ」
「そう、解ったわ」
「昕霧にはアンタから連絡しなさい」
「何で俺から?」
「お前がすれば…」
「虫酸が走るわ」
「あ、はい…」
「それと、波斗は暫く店に来なくて良いわ」
「えぇ!?」
「別にクビってワケじゃないわ」
「ここの所、仕事続きだったでしょう?」
「休暇をあげるのよ」
「良いんですか!?」
「別に無くても良いのよ?」
「す、すいません…」
「暫く学校にも行ってないでしょ」
「夏場は勉強も解らなくなってくるんじゃないの」
「全く持ってその通りです…」
「まぁ、俺も勉強は出来るだけ手伝うよ」
「森草ちゃんにも頼れば…」
カランカラ-ン
「ほら、噂をすれば」
「あ!委員長!!」
「あ、蒼空…」
「帰ってたの…」
「うん、つい先刻ね」
「で、どうしたの?」
「あ、ぁああああ彩愛さんは!?」
「あれ、そう言えば居ない…」
「織鶴さん、知りませんか」
「彩愛は私が頼んだ用事で鉄珠と一緒に軍に行ってるわよ」
「何か用事?」
「え、えっと!居ないなら良いです!!」
「それと蒼空!!」
「ん?」
「こ、コレ!!」
真っ新なノ-トを波斗に押しつける森草
真っ赤な顔をもう一冊のノ-トで隠しながら、だが
「こ、こここコレは!別にアンタの為に用意したんじゃないのよ!?」
「偶々!偶々なんだから!!」
「え?あぁ、そう」
「ありがとね、委員長」
「~~~~~~ッ!!!」
「どうしたしましてっっ!!!」
バタァンッッ!!
カランカラ-ン…
「…君の鈍さは異常だと思うよ」
「全くね…」
「え?」
アパ-ト
蒼空の部屋
「休みかぁ…」
暫くはてんてこ舞いだったからな…
四国に行ったり…、火星さんの一件があったり
無茶苦茶だよなぁ~…
疲れた…、寝よ…
「こんにちは~」
「あ・さ・が・え・り?」
「変な言い方…、ってお前」
「どうかしら?」
「…助かったよ」
「ありがとう」
「貸し一だからね」
「…まぁ、その内返すさ」
「そうしてね~♪」
「あの時は…、悪かったな」
「手荒な真似して」
「別に気にしてないわよ?」
「…」
「…」
聞くべきなんだろう
もう、なぁなぁで終わらせるワケには行かない
一斑はコイツの御蔭で助かった
だからこそ、聞くべきなんだ
「…なぁ」
「何かしら」
「お前、誰だ?」
「…」
「ここは俺の夢の中なんだろ」
「真っ白な空間」
「見知らぬ女」
「夢の中って言われても疑いようがねぇ」
「…そうね」
「お前は一斑を生き返らせた」
「[ただの夢]なら、そんな事は不可能だ」
「違うか?」
「…だから?」
「知ってどうするの」
「どうこうする気は無い」
「だけど、知りたい」
「知らなきゃならない」
「…」
「お前が誰なのか」
「俺が何者なのか」
「…貴方が何者か?」
「傷の治癒力だよ」
「有り得ないだろ、あんなの」
「…それは秘密」
「逃げるなよ」
「教えてくれ」
「…」
「何なんだ」
「俺はNo,1を倒したときの記憶が無い」
「気絶した状態で倒せる相手なんかじゃなかった」
「それも…、お前の仕業なのか?」
「…」
「お前は…」
「はい、スト---ップ!!」
「!?」
「どもども」
「貴方は…、ロンドンの」
「久しぶりだね、蒼空君」
「狐のお面、大事にしてるかな」
帽子を深めに被った黒ス-ツの男
服装こそ違えど、間違い無い
ロンドンで会った狐のお面の人だ
「…えっと」
「名前、忘れた?」
「サインミ-ネさん」
「何人だよ」
「祭峰だよ!祭峰!!」
「あぁ、そうでした」
「祭峰さん」
「全く…」
「…どうして貴方が?」
「俺の夢の中に…」
「君の夢の中じゃないけど?」
「え?」
「馬鹿!祭峰!!!」
「おいおい、怒るなよ」
「どうせは知れてた事なんだから」
「どういう…?」
「この空間は君の夢の中なんかじゃないんだよ」
「君だけの空間に違いは無いんだけどね?」
「俺だけの空間…」
「俺も彼女も、ちょっとお邪魔してるんだよ」
「どうかな?この空間は」
「変ですよ」
「貴方も彼女も」
「何で…」
「君が知るにはまだ早い、としか言い様がないかな」
「この空間は君だけの物だ」
「出て行けと言うのなら出て行こう」
「どうするかな?」
「…駄目です」
「出て行って貰っちゃ困る」
「だろうね」
「君はこの空間の真実が知りたい」
「そうだろう?」
「はい」
「…まぁ、教えないけどねぇ」
「教えられないかな」
「何故ですか」
「まだ早い、って言ってるじゃん」
「どうして早いんですか」
「時期じゃないから」
「「時期」…?」
「おっと、これ以上は駄目だったね」
「残念、時間だ」
「時間って」
リリリリリリリリンッ!!
「うわぁっっっ!?」
リリリリリリリリンッ!!
「目覚まし時計か…」
「…学校!!」
気が付いたように跳ね上がる
現在7時30分
学校は7時55分からである
「まずいまずいまずいっ!!!」
残り25分の勝負である
(朝飯!!)
(食ってる暇なんて無い!!!)
乱雑に靴下を捜し漁り、服を着た
靴を履いて玄関から飛び出る
「うぉおおおおおおおおっっ!!!」
全力
50m走では6秒台を狙えそうな勢いである
…だが、次第にその足取りは重くなる
結局、駄目だったか
予想はしていたけれど
祭峰さん、そして夢の中の女
…いや、俺の夢じゃないんだっけ
傷の治癒力
有り難い能力だけど、なんなんだろうか
怖い
自分が
気にしなくて良いなら、どれだけ楽だろうか
俺は死なせた人間を生き返らせた
一斑を、生き返らせた
人の生死を操る
そう言いたいのか、俺は
神様気取りか?
…俺は何者なんだ
どうして、こんな力が…
俺は…
九華梨高校
キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン
「…遅刻した」
読んでいただきありがとうございました