無型
徳島病院
診察室
「し、信じられない…」
一斑のカルテを見つめる医者
驚愕のあまり、口は開きっぱなしで目も丸になるほどである
「どうなんや?」
「傷が完全に治癒してます…」
「こんな回復力、見た事がないですよ…」
「どうなっとんや…」
「一回、一斑は死んだやろ?」
「そのはずです」
「心臓も停止してましたし、肉体も活動できる状態ではなかった…」
「それが完全に回復、健康体となってます」
「…ワイは専門ちゃうからなぁ」
「どうなっとうか、解らんのかいな」
「奇妙な点は有りますが…」
「何や、それ」
「心臓部に一斑君の血液型ではない血液が混じってるんですよ」
「本来なら拒絶反応を起こすのに、それどころか順応してるんです」
「それが原因か」
「そう考えられます」
「一斑君はAB型ですが、この血液は[無型]」
「…つまり、本来は存在しない血液なんです」
「はぁ?」
「全血液の特性を持っている血液なんて見た事がありませんからね」
「興味深いばかりですよ」
「…ちぃと、待ていや」
「どっからその[無型]が一斑の中に入ったんや?」
「それは解りません」
「血液の突然変異なのか、外部から侵入したのか」
「何にしろ、一斑君がここに搬入されてから火葬場に至るまで」
「その間に何等かの事が原因でしょうね」
「コレが彼の中に入る機会は有りませんでしたか」
「徳島病院ではずっと手術室に籠もっとったなぁ…」
「その後はワイが付いとったし…」
う-んと考え込む響
「棺桶に入れとったまんまやったから、出したんは火葬前」
「そん時は…、えっと…」
「…蒼空」
「え?」
「蒼空ァ!!!」
病室
「大丈夫なのか、一斑」
「もう元気ピンピンや!」
「ホンマに俺、死んとっだたんかいな」
「あ、あぁ…」
「…悪かった」
「何が」
「俺のせいで…」
「あぁ-!あぁ-!!」
「鬱陶しぃのう!!」
「え、えぇ!?」
「俺が何で生き返ったか知らんけどな」
「生きとるんや!!」
「幾らウジウジ言うたかて、過去は変わりゃぁせぇへん!!」
「一回「ごめんなさい」言うたら、それでええねん!!」
「過ぎた時間を思い出して後悔すな!!」
「思い出してええんは思い出だけや!!」
「お前が生きとるんは[現在]や!!」
「例え一分一秒でも過去は過去!!」
「過去やのうて現在を生きぃや!!」
「…あぁ」
「ありがとう」
「礼やないやろ?」
「「ごめんなさい」、や」
「…ごめんなさい」
「それでええねん」
「…まぁ、今回は誰も悪ぅないねん」
「俺が勝手にしゃしゃり出て死んだだけや」
「後悔はしとらんけどな」
一斑はバナナにがぶりとかじりついた
もぐもぐと食べながら、だんだんと表情が暗くなっていく
「…いや、悪いんはあのキノコや」
「緑の髪で紫の目…」
「アロンやホロンや知らんけどなぁ…!!」
「後ろから来て人をぶっ刺しとんちゃうぞ!!」
「特撮の悪役でも、ほんなんせんわ!!」
「お、落ち着けって…」
「がぁ----!!イライラしてきた!!!」
「あの俺よりちょい年上の奴もや!!」
「橋唐の事か…?」
「そうや!そいつ!!」
「橋唐やか唐揚げやら知らんけど!!」
(橋唐と唐揚げは全然違うだろ…)
「格好付けぇまわって!!!」
「妙にハンサムやからむかつくわぁ!!」
「俺やこの面やで!?」
「確かに世辞でもハンサムとは言えないな」
「体系的に」
「ぽっちゃり好きも居るねん!」
「最近は気にしとるんやから触れぇなや!!」
「わ、悪い…」
バタンッ!
「蒼空ァ!!」
「ひ、響さん!?」
「手ぇ出せ!!」
「は、はい!」
蒼空の腕を乱暴に掴む響
じっと手を見つめ、重々しく口を開く
「…この指、何処で切ったんや」
「あ、コレですか」
「気が付いたら切れてて…」
「おい、コイツの血液や」
「解りました」
注射器を取り出す医者
「え」
波斗が反応するまでもなく、驚くべき素早い速度で献血する医者
波斗はただ、呆然として自分の腕から血が抜かれるのを見つめるばかりである
「な、何なんですか!?」
「もしかしたら、お前が原因かも知れへんねん」
「頼むで」
「はい」
医者はダッシュで病室を出る
響も後を追うように病室から出て行く
「…何だったんだ、本当に」
「お前、血液型は?」
「O型…」
「…珍しい血液型でもないねんなぁ」
「何でやろか」
「さぁ…」
診察室
「間違い有りません」
「彼の血液を元に造られてます」
「…ほうか」
「蒼空君の血液はO型でした」
「本来なら疑問でもないですが、一部分の血液だけ[無型]だったんです」
「つまり…」
「…蒼空が一斑を生き返らせた」
「そうなりますね」
「…ほうか」
「その資料は本部の送っとけ」
「お前はもう首突っ込むなや」
「…軍絡みですね?」
「そうや」
「お前はこの病院のしがない医者をやれや」
「軍の存在を知っとうだけなら問題ないねんからな」
「…はい」
病室
「お待たせ、蒼空君、一斑君」
「火星さん!」
「織鶴に連絡付いたから、もう大丈夫」
「滅茶苦茶、怒られたけどね」
「す、すいません…」
「君が謝る事じゃないよ」
「…俺の減給についてもね」
「「うわぁ…」」
「(隠)」
「おぉ!リンデル」
「来とったんか」
とてとてと小さな歩幅で一斑へと歩み寄っていくリンデル
ボフッ
「お?」
そのまま倒れ込むように一斑のベットに顔を埋める
「(照)」
「…よしよし」
一斑はくしゃくしゃと少しだけ強めにリンデルの頭を撫でる
少しだけ紅潮したリンデルの頬
ぎゅっと毛布を掴み、さらに顔を埋める
「君に懐いてるねぇ」
「師匠やからな!」
「妹みたいなモンやで」
「…」
その一言に反応したのか、ぴくりとリンデルが動く
「どうしたんや?」
「…」
ふるふると首を左右に振るリンデル
「?」
「リンデルちゃんは[妹]ではなく[1人の女性]として見て欲しいんでしょう」
「難しい乙女心ですね」
「「「 」」」
「どうも」
「ちゃ、茶柱…!」
「いつの間に…」
「一斑君の悲報を聞いて飛んできたんですが…」
「生きてらっしゃるようで?」
「生き返ったねん」
「嘘やないで」
「それは良かった」
「昕霧様も直属の部下の弟子を心配してらっしゃいましたよ」
「嘘つけぇや」
「あの人がほんなガラかいな」
「ふふふ、解ります?」
「当たり前や」
「…おや」
ぽかぽかと茶柱の太股辺りを叩くリンデル
その顔は先刻よりもさらに紅くなっている
「乙女心とは難しいですね」
ひょいとリンデルを抱え上げる茶柱
「私も解りたいものです」
「(驚)」
「どしたんや、リンデル」
「茶柱さんかて、男や」
「乙女心を解りたいと…」
ぷにっ
「おやおや、くすぐったいですね」
クスクスと笑う茶柱
抱え上げられたリンデルは目を丸くして茶柱の胸に触れる
「胸…!?」
「昕霧様ほどでは有りませんが、私にも胸は有りますよ」
「ほら」
ぎゅっとリンデルを胸へと押しつける茶柱
珍しくリンデルも慌てている
「…え、ちょっと待ってくださいよ?」
沈黙の瞬間
波斗、一斑、火星が考え込んで発した言葉
「「「…女?」」」
「この様な格好ですから男に見えますか?」
「胸…、有る…」
ぷにぷにと茶柱の胸を揉むリンデル
「胸…、無い…」
それから、自分のまな板同然の胸を触る
「…(泣)」
「まだまだコレからやで!リンデル!!」
「ほんな茶柱さんみたいなまな板やのぅて、もっと大きい」
ゴキンッ
「い、一斑ぁぁああ------!!!」
読んでいただきありがとうございました