過去への決着
「火星さ…!!」
微かに逸れた銃弾
夜斬は唇を噛み締める
「…まだだ」
「テメェにはもっと屈辱的な死をくれてやる」
ゴリッ
「土の味を知れ、火星」
「テメェのせいで死んだ祠野さんは土を舐めて死んだ」
火星が地に手を突き深く頭を沈め、土に額を擦りつける
「…すまなかった」
「…何でだよ」
「それだけじゃ済まねぇ…」
「靴を舐めろ」
「止めろ…!」
「そんな事!火星にさせてみろ!!」
「殺すぞ!!」
拳を握りしめ、怒りの表情を露わにする織鶴
「おっとぉ!動くなよ、織鶴さん?」
「コイツがどうなっても良いのかにゃん?」
黒い銃口が波斗の額で鈍く光る
「ッ…!!」
「くそ…!!」
「さぁ、舐めろ!!」
「テメェが殺した祠野さんの屈辱を知れ!!」
「…ああ」
静かに瞼を閉じ、顔を前へと突き出していく火星
「…でだよ」
「何でだよ!!」
バガァン!!
振り上げられた夜斬の足
靴を舐めようとした火星の頭が宙へと跳ね上がる
「ぐがっ…!!」
ボタボタッ!!
火星の口と鼻から血が溢れ出す
「何で謝るんだよ!?」
「何でテメェが謝るんだよ!!」
「テメェが謝ったら!!」
「テメェが罪を認めたら!俺は…!!!」
「誰を恨めば良いんだよ…!!」
ジリッ…
夜斬が火星の頭を踏みにじり、銃口を頭骨へと向ける
「俺は…、火星を殺せば良いのか」
「そうすれば…」
「その次は誰を恨むんだよ?」
「…何つった?糞餓鬼」
夜斬の鋭い眼光が波斗へと向く
「その次は誰を恨むんだよっつたんだよ」
「火星さんを殺した後は誰を恨むんだよ?」
「誰でも良いさ」
「祠野さんを殺すのに関与した奴は全員殺す」
「仲間も、か」
「…あぁ?」
「全員殺した後!仲間も殺すのかよ!?」
「…そうかも知れんな」
「城ヶ根がもっと強ければ祠野さんを守れた」
「…その次は誰を殺すんだ?夜斬」
「ゴミは黙ってろ」
「俺は糞餓鬼と話をしてるんだよ」
「最後は…」
「自分を殺すのか」
「…黙れよ」
「最後は無力だった自分を殺すのか!!」
「黙れ…!!」
「お前は逃げてるだけだろ!!」
「あの時の自分から!弱かった自分から!!」
「無力だった自分から!!!」
「黙れ!!!」
「いつまで逃げ続けるんだ!?」
「死ぬまで逃げ続けるのか!?」
「お前は!そんなに弱い男だったのかよ!?」
「だあぁああまれぇえええええええ!!!!!」
ゴッガァアアン!!
火星の顔面に夜斬の蹴りが直撃する
「テメェに!何が解るってんだ!!」
「祠野さんを殺したお前に!逃げたお前に!!罪を忘れ日々を過ごすテメェに!!」
「何が解るってんだぁああああ!!!」
「…何も解らないさ」
「だけどな、前を見てる」
「過去の日々を忘れてなんかいねぇ!!」
「俺は馬鹿だ!罪の償い方なんて知らねぇ!!」
「だけどな!俺は!!」
「自分に恥じねぇ生き方してんだよ!!」
「…糞が」
「自分に恥じねぇ生き方だと?」
「過去を忘れて!のうのうと生きるのが!?」
「笑わせんなッッッ!!」
「…テメェは知らねぇだろ」
「…あ?」
織鶴が静かに口を開く
「火星が!私と出会ったとき!!どれだけ悔いていたかを!!」
「死んだ魚みたいな目ェして!どれだけ自分を責めていたか!知らねぇだろ!!」
「火星は逃げてなんかない!逃げてんのはテメェだろうが!!」
「…んなはず有るかよ」
「俺は…!!」
「俺はぁあああああああああッッッ!!!」
キィン!!
「がっ…!?」
夜斬の手から拳銃がこぼれ落ちる
「ビンゴ♪」
「鉄珠ァ…!?」
「何でテメェが…!!」
「…夜斬」
「!!」
次の瞬間
夜斬の目に映ったのは拳
踏みつけ、見下し、責めた男の拳
「お前が逃道を突っ走るなら…」
「俺はお前を殴って正してやる!」
「お前が進むのは逃道じゃねぇ!!」
「祠野さんが進んだ道だろうがぁああああああ!!!」
ただ、ただ
その拳は自分に向かってくる
真っ直ぐに
ゴキィイイン!!!
「がっ…!!」
火星の拳に殴り飛ばされ、夜斬は地面へと叩きつけられる
「お前は弱くなんかねぇ」
「救ってくれたじゃねぇか」
「何度も俺を、仲間を」
「弱いの俺だろ」
「無力だ」
「だけどな、祠野さんは俺を認めてくれた」
「馬鹿で適応力もなくて能無しだった俺を」
「そんな人を…!俺の恩人を…!!その人と過ごした日々を!!!」
「忘れるはずねぇだろ…!!」
「…んだよ」
「祠野さんもテメェも…」
「何で…、そんなに真っ直ぐなんだよ…!!!」
「…自分に真っ直ぐなだけだ」
「ただ、それだけなんだよ」
「…クソッ」
「クソが…」
「…」
ただただ、静かに
城ヶ根は悲しそうな目で火星と夜斬を見つめる
「その玩具を除けた方が良いんじゃないんですか?城ヶ根さん」
「ありゃ?生きてたの」
「彩愛さん」
「当たり前です」
「峰打ちで死ぬ人間は居ませんよ」
「院長に金を握らせて芝居をさせたんでしょう?」
「その銃も市販の玩具ですね」
「あ、バレた?」
「コレ…、エア-ガン?」
「気付かなかったんですか?」
「アイツを…、夜斬を過去の呪縛から解き放ってやりたかったんだ」
「鉄珠と彩愛さんにはお世話になったよ」
「それじゃ…」
「ゴメンね、三文芝居で」
「でも、御陰で…」
「あの馬鹿は目が覚めたみたいだよ」
「ありがとう」
「料金は高いですよ」
「出世払いでよろしく」
「…ツケですからね」
数時間後
万屋
「…つまり?夜斬クンを慰めるためにぃ?一芝居うった、と?」
「城ヶ根クン企画の名芝居を?」
「そうなります」
「それで城ヶ根さんの銃がエア-ガンだったんですね…」
「アハハハハ~!織鶴はサラリと騙されるもんなぁ~」
「騙してる俺も楽しかったな~」
「…オイ、鉄珠ァ」
「?」
「太平洋と日本海、どっちに沈みたい?」
「スイマセン…」
「アイツと俺のために、お前等に迷惑を掛けたのか…」
「…すまん」
「謝らなくて良いわよ、火星」
「ぜ-んぶ、この馬鹿共が仕組んだ事なんだし」
「院長の野郎も後で殺すわ」
「俺もハメられてたのか…」
「むしろ、アンタが一番利用されてたじゃないの」
「廃工場まで私達をおびき出させて、夜斬に隙を作って…」
「…数えだしたらキリが無いわ」
「うぅ…」
「…ま、今回の件は水に流すわ」
「火星にも…、いつかは関係する事だったでしょうし」
「だけど、良かったんですか?」
「あの人達を逃がして」
「指名手配だったんじゃ…」
「…さぁ?」
「[逃げられた]んだから仕方ないでしょ」
「[逃がした]んじゃなくてね」
「ありがとな、織鶴」
「何の事かしら?」
「私は何も知らないわよ」
「…そう言えばさ」
「夜斬が俺に靴を舐めさせようとした時に、織鶴は必死に怒ってくれたよな?」
「あ、アレは…!!」
「嬉しかったよ」
「う…」
「うっせぇんだよ!!」
ドガッ!
「痛っぇ!何で殴るんだよ!?」
「テメェが変な事言うからだろ!!」
「本当に…、馬鹿が…」
「織鶴さん、口調が崩れてますよ…」
路地裏
「大丈夫か?夜斬」
「城ヶ根…、お前は…」
「憎くないのか…、祠野さんを殺した奴等が…」
「憎いさ」
「でも、な」
「憎んでも仕方ねぇだろ」
「俺がそいつに憎みで復讐したら、また誰かが俺に復讐するだろうな」
「憎しみは憎しみを、復讐は復讐しか生まねぇんだよ」
「…俺は滅亡の道を走っていたのか」
「愚かだな…」
「だから、正してくれたじゃねぇか」
「感謝しとけよ」
「…ああ」
「そう…、だな」
読んでいただきありがとうございました