失態
大通り
ザ-…ザ-…
「…チッ!!」
「繋がった?夜斬」
「駄目だ」
「電波妨害されてやがる」
「敵さんも本気で来たっぽいねぇ…」
「だろうな」
「…祠野さん達が心配だ」
「急ぐぞ」
「アイサ-!」
街の外れ
「…」
ヒュ-ヒュ-と枯れた息をする祠野
目は虚ろになり、足取りも重い
「祠野さん…」
「俺に構うな…」
「あの爺さんに付いてろ…」
「どうしたんじゃ!さっさと走らんか!!」
「あの男が追ってきたらどうする!?」
「ジジィッ…!!」
「祠野さんがどんな状況か…!!」
「やめろ…」
「何の状況的判断にもならない…」
「ですけど…!!」
「良いか…、今から言う事を実行してくれ」
「俺が囮になって奴を引きつける…」
「お前はその後、その爺さんを安全な場所まで送り届けるんだ…」
「それじゃ祠野さんは…!!」
「死ぬ、だろうな」
「仕方ないさ」
「駄目ですよ!そんなの!!!」
「絶対に駄目だ!!」
「仕方ねぇだろ…」
「もう来てんだからよ…」
「え…」
砂を踏みにじる音と共に火星達を遅う殺意
曲がり角からは紅い眼が覗く
「来たッ…!!」
「早く行け…」
「駄目ですよ!!」
「一緒に逃げましょう!!」
「おいおい…、この体たらくでか?」
「勘弁してくれよ…」
「駄目ですよ…!!」
「解ってるんだろ?」
「俺達で逃げるのは無理だ…」
「…だったら」
「俺が囮になります」
「無傷の野郎が死ぬこたねぇだろ…」
「でも…!!」
「…」
1歩ずつ、着実に殺意は火星達へと近づいてくる
「…仕方ねぇな」
「逃げれるトコまで逃げるか…」
「は、はい!!」
「何しとるんじゃ!!」
「早ぅ」
ぶつり
まるで生肉を千切るかのような音
それと共に転がる首
「…え」
白目を剥き、血を噴き出す議員の頭
ゆらりと揺れて倒れる議員の体
「任務は失敗」
「よって、制裁を加える」
「異論は無い?」
「お前は…!!」
先刻の女…!!
「テメェ等で殺しといてよく言うぜ…」
「黙れ」
「不快」
「…話しても無駄だな」
「…」
くるりと踵を返す男
「帰るの?」
「…」
「…まぁ、良い」
「後は私が始末を付ける」
「ッ!!」
構える火星
「例えば」
「…?」
「私は子供が嫌い」
「貴方は?」
「関係ねぇだろ…!!」
「答えろ」
「不快」
「…どっちかって言うと好きだ」
「そう」
「それじゃ、これは何?」
べちゃり
女の袖から出てくる手足
小さな手と小さな足
真っ赤に染まった手足
「な…!」
「姿を見られた」
「子供は泣いた」
「不快」
「だから殺したのかよ…」
「残虐だねぇ…」
「まだ、1人生きている」
「!」
「ここに居る」
ぶらんと力なく項垂れる女の子
女は女の子の手首を乱暴に掴み上げる
「死ぬなら、この子は生かす」
「逃げるなら、殺す」
「人質かよっ…!!」
「そう、その通り」
「どうする?」
「…簡単だな」
「テメェをブッ殺してその子を救う」
「…ふふっ」
「私に片腕を千切られた人間が何を言っている」
「不快」
「先刻は[逃げ]に徹してたからな」
「今回は[戦い]に徹するとしよう」
「面白い」
「不快」
(火星)
(…何ですか)
(目眩ましの煙幕、使えよ)
(はい)
(まず、俺があの子を救う)
(お前に放り投げるから、お前はあの子と逃げろ)
(祠野さんは?)
(逃げる!)
(お願いしますよ)
(当たり前だろ)
(…行くぞ)
(はい…!!)
小路
「…何だ?あの煙は」
「煙幕だよ!」
「火星達だ!!」
「!」
「行くぞ!!」
「勿論!!」
街の外れ
「祠野さん!火ぼ…し…?」
駆けつけた2人の目に映ったのは
腹に穴を開け、息絶えた祠野
その祠野を抱え、涙を流す火星
「…おい」
「何だよ…、これ」
「…」
「そんな…」
「祠野さん…」
「火星…、答えろよ」
「何だよ、これ」
「お…が…かった」
「聞こえねぇよッッッ!!」
「ハッキリ言えよ!!」
「俺が…!守れなかった…!!」
「祠野さんも…!議員も…!!」
「誰も…!!!」
「そんな事聞いてるんじゃねぇよッッ!!」
「祠野さんは!?祠野さんは…!!!」
「…死んだ」
「死んだんだ…!!」
ゴキンッッッッッ!!!!
「がぁっっ!!!」
夜斬は拳を振り下ろす
戸惑い、困惑し、絶望した表情で
「夜斬ッ!!」
火星と夜斬の間に割ってはいる城ヶ根
「じゃぁ、何で…!!」
「何でお前は無事なんだよ!!!」
「火星ぃ…!!!」
「逃げた…」
「俺は逃げたんだ…」
「-----ッ!!!!」
「待て!夜斬!!!」
「コイツは逃げたんだぞ!!!」
「祠野さんを見捨てて!!」
「…待てよ」
「火星、それは本当?」
「…あぁ」
「どうした逃げたんだ?」
「火星が祠野さんを見捨てるような奴じゃない事ぐらい、知ってる」
「…気絶した女の子が人質に取られてた」
「祠野さんは自分が突っ込んで気を引く好きに逃げろと…」
「…その女の子は?」
「目が覚めると同時に逃げていった…」
「…そうか」
「祠野さんは、どうして…」
「相手に…、やられたんだ」
「もう…!殆ど動けない状態だったから…!!」
「…気付いてたはずだ」
「そこまでッ!!そこまでの状態ならッッ!!!」
「気付いてたよっ!!!」
「じゃぁ…!何で…!!」
「命が…!惜しかった…!!」
「惜しかったんだ…!!」
「テメェはッ…!!」
「自分の為にぃ…!!」
夜斬の表情は怒りで歪む
握りしめた拳からは血が溢れ、火星の前にぽつりと落ちる
「…退け、城ヶ根」
「え…?」
「もう、無理だろ」
「コイツは生きる価値すらねぇよ」
「…駄目だよ」
「退けよ」
「駄目だ」
「退けって言ってるんだよ!!!」
「駄目だよ!!!」
「…何故だ」
「何でコイツを庇う?」
「仲間だからだよ…」
「仲間?」
「コイツはその[仲間]を、リ-ダ-を見捨てたんだぞ?」
「自分の命惜しさに」
「…駄目だよ」
「それでも」
「退け」
「コイツを殺さなきゃならねぇ」
「駄目だよ…」
「お願いだから…」
「…お前ごと殺すぞ」
「駄目だよ」
「…火星を殺しちゃ駄目だ」
「何故だ」
「何故だ!?」
「火星は仲間だ…」
「それに、殺せば…」
「夜斬は自分をも殺すよ…」
「…」
「辛気臭い話は終わりにしましょう!」
突如、任務を要請してきた男が3人の前に現れる
「さて、任務を失敗した貴方達には死んでいただかないといけません」
「では、抵抗しないでくださっ」
言葉を言い終わる前に血を噴き出す男
「…」
血に濡れた拳を見つめ、夜斬は笑う
「…次はお前だ」
「火星、逃げて」
「え…」
「早く!!」
「だが…!!」
「だがもクソもないよ!!」
「このままじゃ!2人とも壊れるっっ!!」
「…ッッ!!」
火星は走る
走って走って走って
夜斬が見えなくなっても走った
走り続けた
息が切れようと
足が震えようと
進まなくなろうと
走った
逃げた
逃げて逃げて逃げて
誰も追いかけてこなくても逃げた
逃げ続けた
喉が枯れ果てようと
足が潰れ血が滲もうと
体力を無くし倒れ込もうと
逃げた
「祠野さん…!!」
ドンッッ!
ドンドンドンドンッッ!!
何度も何度も地面を叩く
己の無力を嘆き
火星は
泣き叫んだ
読んでいただきありがとうございました