逃走
カチッカチッ
銃弾を装填し、火星は拳銃を握りしめる
ハンドルを握った祠野は周囲を警戒しながら、車を目的地まで進める
議員の老人はガタガタと震えながら蹲っている
「な、何故、儂が狙われるのじゃ…」
「理由は解りませんよ」
「解ったとしても、貴方が知る範囲の話じゃない」
「うぅ…」
「火星、他は?」
「まだ何も」
「往来だと行動を起こさないんでしょうか?」
「狙撃の可能性も有る」
「それは懸念しておけ」
「はい」
路地裏
「おい、何してる?」
「…あ?」
夜斬は路地裏で座り込んでいる男に声を掛ける
「何をしてるのかって聞いてるんだよ」
「関係ねぇな」
「餓鬼はクソして寝ろ」
「…餓鬼か」
ゴッッッッ!!
「うげぇっ…!!」
男の腹部に重々しく突き刺さる拳
(コイツ…!いつの間に…!!)
「答えろ」
「お前が細工人って事は知ってんだよ」
「何の事だかなぁ…!!」
「…吐け」
「誰がッ…!!」
ゴリッ
男の頭に黒い銃口が押しつけられる
「死ぬか、吐くか」
「猿でも出来る簡単な選択だ」
「…ケッ」
夜斬の靴に吐き捨てられる唾
そして鳴り響く銃声
「…クソが」
靴に雑砂をかぶせ、血を拭き取る夜斬
(死を選んだって事は、言えば死ぬと解っていたと言う事か…)
(…やはり、軍が1枚噛んでるな)
ビルの屋上
「…そろそろか」
腕時計を確認する男
手には狙撃中が備えられている
「よし…」
「何が良し?」
「…あ?」
「おっは-♪」
「貴様ッ!!」
男の懐から抜かれる銃
それよりも早く、城ヶ根は男の腕を蹴り上げる
「ぁっっ…!!」
「はいはい、無駄な抵抗は止めましょうね-」
「ぐっ…!!」
男の首筋に当てられる白刃
「死にたいかな?うん?」
「…ッ」
男は乱暴に白刃を掴み、自分の首に押し当てる
「させないよ、っと」
ズブッ!
男の手から白刃を抜き取る城ヶ根
「うぁっ!!」
手からはボタボタと血が滴り落ちる
「さて、誰の差し金?」
「軍か?」
「…ッ」
ガリッ
「…おい?」
「聞いて…」
「ってあぁ-…」
ぐらりと揺れたかと思うと、その場に倒れ込む男
口からは血がどくどくと溢れ出している
「舌を噛んだが-…」
「…うぅ-ん」
車内
prrrr
「もしもし?」
『火星か』
『実はな…』
「…そうか、解った」
『祠野さんに伝えてくれよ』
「解ってる」
パタンッ
「祠野さん」
「何だ?」
「夜斬から連絡です」
「城ヶ根からも連絡が有ったそうで、2人の刺客を始末したそうですね」
「そうか、流石だな」
「…それが、2人とも自害に等しい形で死んだらしいんです」
「ですから…」
「…軍か」
「恐らく」
「ぐ、軍じゃと!?」
「国防省か!?」
「奴等め!儂が財政削減をしたからと言って…!!」
「あぁ-、違ぇから」
面倒臭そうにボリボリと頭を掻く祠野
「それとも、あの訳の分からん阿呆の集まりか!!」
「他の者は賛同しおって!」
「阿呆の集まりなど!早く潰れてしまえばいいのじゃ!!」
「あのねぇ…」
「祠野さん!!」
「前!前!!」
「解ぁ-ってるよ」
キィイイッ------!!!
急ブレ-キで止まる車
3人が一気に前のめりになる
「な、何じゃ!!!」
「前」
「前…?」
車の前には1人の人影
顔を隠し、静かに立たずんでいる
胸の膨らみから見て、女と思われる
「あの者がどうかしたのか…?」
「貴方を狙う人間でしょう」
「な!それなら車ではね飛ばしてしまえば良いだろう!?」
「…そうもいかないんですよね」
(祠野さん、アレは…)
(車の前に出てくるんだ)
(少なくとも戦闘系の能力で有ることは間違い無い)
「な、何をコソコソと話しておる!!」
「早ぅ始末せんかっっ!!」
「無茶苦茶言うなよ爺さん…」
「…どうすっかな」
ゆっくりと歩き出す女
「…そうだな、取り敢えず出るか」
「車から出るのか!?」
「危険じゃろう!!」
「死ぬよりマシだよ」
バタンッ!
「…」
女は歩を止める
「よぉ」
「…」
「お前も軍の差し金か?」
「…」
「…話せよ」
「…不快」
「そうかい」
「貴方が囮になって奴等を逃がそうとしてるのが」
「不快」
「…バレたか」
「ッ!」
「急ぎますよ!」
「お、押すでない!!」
議員を抱え、走り出す火星
「逃がさない」
「行かせねぇよ」
ゴキゴキと拳を鳴らす祠野
「無能力者風情が」
「黙れよ、能力者風情」
小路
「はぁっ…!はぁっ…!!」
「ゲホゲホッ…」
「大丈夫ですか…?」
「大丈夫じゃないわい!急に走らせおってからに!!」
「そうしないと死んでましたよ…」
「…大丈夫かな、祠野さん」
「知るか!あの小童なんざ!!」
「荒々しい運転をしておって!!」
「そう言いますけどねぇ…」
「あれだけの運転をしないと逃げ切れませんよ」
「逃げ切る必要などないじゃろう!!」
「殺してしまえっっ!!」
「逆に俺達が殺されますって…」
「…役たたずめ!!」
「あのねぇ…」
小さくため息をつく火星
どんだけ失礼な奴だよ、この爺さん…
自分は護って貰ってるのに、礼の1つも言わないし、自分第一だし
全く…
じゃりっ
「…あ?」
砂利を踏む音
人影か…?
紅い片目
黒い布
隠された顔
握られた刀
恐ろしい殺意
「…ぁ」
言葉を発する前に予感する死の恐怖
絶対的な死を目の前に、火星は動くことすらままならない
「おい!何をしておるのじゃ!!」
気付かないのか?この爺さんは
すっと自然な動きで、相手の手が火星の首に伸びてくる
首筋に当てられる刀身
「何をしておるのじゃ!!」
「逃げぬのか!!」
叫ぶ老人
逃げる?
この状況で?
状況?
逃げろよ、俺
相手は早く動いてるワケでも、俺を縛ってるワケでもない
足を後ろに一歩踏み出せば良いんだ
そして、振り返る
あの爺さんを連れて走ればいい
そうだ、それだけだ
簡単な事じゃないか
簡単な、事
「何してんだか」
ゴッッッッッ!!!
「がはぁっっっ!?」
突然、火星の頬に鈍い衝撃
「痛ぇ…」
「逃げるぞ」
「祠野さん…?」
「祠野さん!!」
「殺気で動けねくなってんじゃねぇよ…」
「いや…、無理もないか」
ぽつり
祠野の頬から滴る汗
「…祠野さん?」
妙だ
祠野さんの様子がおかしい
「騒ぐな」
「相手と爺さんに気取られるんじゃねぇぞ」
「腕が…っ!!」
無い
祠野さんの左腕が…!!
「ビ-ムみたいなのを出す能力者でな」
「案外、サッパリいかれたから痛みは少ねぇよ」
嘘だ
汗の量が尋常じゃないし、顔色も悪い
「逃げるぞ」
「…」
「おい」
「は、はいっ」
「爺さん、立てるか」
「あ、当たり前じゃ!!」
「早ぅ儂を護れっっ!!!」
「…解ぁってるよ」
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